第2話「幼馴染たちは、僕の家に集まりたがるらしい」

 学生にとってはWIN・WINであろうゴールデンウイーク。

 しかしそれは――『陽キャ』や『コミュ力が高い人間』にとって楽しめる連休と言っても過言ではない。1人を好む人間もいるのだ。世の中全ての人間が集団で群れることを好むと思うんじゃないぞ。


 そう、通称“根暗ぼっち”であり“引き籠もり”の二重苦を背負っている僕にとって、それらは完全にアウェイなことなのである。

 ……数分前までは。


「よーっす! 遊びに来てやったぞー!」


「凪宮君、こんにちは~」


 ……本当に来やがったこいつ。しかも何か増えた。


 悪魔のような死の宣告を受けた僕は、先に遊びに来ていた幼馴染と共に、リビングでひたすら『来るな』とおきょうとなえながらラノベの感想なんかを話し合っていたのだが……。


「どうだ? 本当に来るとは思わなかっただろ?」


「……あぁ。本当……どうやってお前を地獄の底に叩き落せばいいかなと考えるほどに」


幸先さいさき酷くねぇか!? さっきまで『友達』とか言ってたのにさ~!」


「幻聴でも聞いたんじゃないの?」


「お前まで何言ってんだよ! な、なぁ晴――」


「そうだな。僕は1度たりとも、お前のことをそう呼んだ覚えはない」


「乗るなーーっ!!」


 玄関先でちょっとしたコントを繰り広げる中、うるさい輩――藤崎透の横に立っているのは、彼の幼馴染である『佐倉さくら美穂みほ』さんだ。


 僕の幼馴染に出来た初めての友達で、どこか性格が隣の奴に似ていることもある。だが基本的に温厚な性格だと僕は思う。彼女も陽キャ組の一員であるのだが、透のような自ら進んで『輪』に入るようなタイプではない。どちらかと言えば――僕の幼馴染のような人だ。


 一通りやり取りを終えると、僕は2人を仕方なくリビングに上げることにした。

 炎天下の中歩かせたのだから、即座に帰らせるのもあれだしな。


「あ、佐倉さん」


「やっほ~渚ちゃん! 昨日の電話以来だね!」


「あぁー、あの電話で言ってたことね。それで、解決したの?」


「平気だった。ありがとね!」


 ソファーの上で本を片手に座っているのが僕の幼馴染――『一之瀬いちのせなぎさ』だ。


 容姿端麗、成績優秀の完璧美人。磨き上げられた誰もを引き寄せる容姿と感情性豊かな振る舞いから、学校では“学園一の美少女”と呼ばれている。


 そんな渚に学校で関わることは、男子の中では禁断の領域とさえ言われているわけなのだが、そんな彼女に挑んだ強者がいないとは言っていない。



『――好きです! 付き合ってください!』



 そう言った男子達はみな『私、好きな人がいるので』とものの数秒で玉砕するのが最早王道となりつつある。


 そんな筋肉マッチョからイケメンと騒がれる先輩・同級生を振り続ける渚が好きな相手――それはこの僕、凪宮晴斗というわけらしい。


 そんな事実が発覚したのは1ヵ月前。

 あれから1ヵ月という期間を経て、僕はあのとき伝えられなかった『本当の想い』を告げ、現在では幼馴染兼『恋人』という形になっている。


「というか、ごく当たり前みたいにお前ん家にいるんだな、一之瀬って」


「今までがずっとそうだったからな。……まぁ、付き合い始めの日に上がったときは緊張してたみたいだけど、すっかり元通りだ」


「……良いんだか悪いんだか、反応に困るなぁ」


 家が隣同士である僕と渚は、昔から互いの家に上がっては遊んだり、お泊りしたりが多かったが。思春期を迎えた今の僕達は、あの頃の行いを多少恥ずかしいと感じることも少なくない。

 僕は軽くため息を吐くと、鞄をソファーの上に置く2人に訊ねた。


「それで? 人の家に無理矢理上がろうとしたそこの奴。集まって何する気だよ」


「そこの奴とは失礼な!」


 ある意味間違ってないのだが。

 それに僕は透のことを「そう呼んだ覚えはない」と言っただけで「そう思った覚えはない」とは言っていない。少なからず僕がこんな毒を吐けるのは、友達である透だけだ。


「ふっふっふ! 実はこれ持って来たんだ! 晴ん家にどの機種が置いてあるのかは前に聞いたことあるからな! これで勝負しようぜ!」


 そう言って透が鞄から取り出したのは、様々なキャラクターが導入された大乱闘ゲームだった。昔プレイ画面なら見たことがあるが、やったことはないやつだ。


 2000年頃から既にあったゲームらしいが、10年以上経っても愛されるソフトの1つであるらしく、旧作なら僕も1度やったことがある。

 すると、物申す透に対し渚が小さめに手を挙げた。


「そのゲームって、操作方法とかわからないんだけど。多分、晴斗も」


「そうだな。だいぶ前にしか触ってないし、今の機種じゃやってないしな」


「安心しなっ! そうだろうと予想はしてたから、ちゃんと説明書も持ってきてるぜ!」


 デデンッ、と効果音が付きそうな勢いで再び鞄を漁り、今度は説明書を手に取った。

 僕はそれを受け取るとパラパラと中身を捲る。


 Aボタンで基本攻撃、Bボタンで必殺技を繰り出せる。その他、スティックを左右に動かすことで上にいる敵に対しての攻撃であったり、場外へ放り出された際の操作方法など。基本操作が全て載っていた。


 一通り確認し終え、そのまま目を輝かせる渚へと手渡した。

 普段僕や妹と一緒にいるときは勉強しているとか、静かに過ごすための読書ばかりであったためか、このように『友達と遊ぶ』という初体験に感動しているのだろう。


 いつもなら必死に隠す渚だが、今はその感動が余すことなく漏れている。

 ……まぁ、こいつがここまで喜ぶなら、それはそれでいいのかもな。


 基本的に外には出ない僕だ。僕1人だけでは、渚をここまで満足にさせることは無理だったことだろう。もしくは――それを知ってて透は遊びに来たのか……。

 過去にそういった事例がある以上、どうにもこうにも理屈無しに否定出来ない。


「うん、あらかた覚えたよ」


「えっ、今のでもう覚えたの!?」


 佐倉さんは驚いた声をもらすが、実のところ僕は当然だと思っている。

 こいつは『勝負』とわかったものには一切の手を抜かない。


 その1つとして挙げられるのが――テストだ。点数勝負、総合順位の勝負。どんな勝負であろうと、渚はいつも全力だ。

 だから僕もそのときばかりは、渚の努力に迎え撃っている。


「よし、じゃあ始めるか! 晴ー、リモコンどれだー?」


「勝手に弄るなよ」


 ゴールデンウイークは家で静かに過ごすことが本望だった僕にとって、この光景は望んだ形より程遠いけれど……。

 けど、偶にはこういうのも、悪くないのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る