星のタンバリン

 一郎は休日を利用し、自転車で旅に出かける事にした。一郎は小学三年生なのだが、つい最近まで自転車に乗れなかったのだ。友達が自転車で坂を勢い良く下って行くのを、一郎は見失わない様に追いかけて行くのをたまにスーパーの帰り、母親はみていた。時々、気まぐれで置いてけぼりにされたり、からかわれたりして家に帰ると泣いている姿を仕事帰り、父親はみていた。




 二人は、毎日近所の空き地に一郎を連れて行き、自転車の練習に付き合ってあげた。仕事だろうが、家事だろうが後回しにして付き合ってあげた。プレゼントなんかよりも求められている大切な願いに見てない振りをしていた事に罪悪感を感じていた。自分達が今この子に出来る事と思いながら補助輪を外した自転車を父はゆっくりと押し、母は遠くで手を広げて我が子を受け止めるのを待った。




 一郎は五日掛ったが、自転車に乗れる様になった。本当は二日で乗れる様にはなっていたのだが、友達と肩を並べて話せたりすことが余程嬉しかったのだろう。満足するまで、練習に付き合ってあげた。「今度は、転ばない様にするんだ」そう目を輝かせて一郎は言っていた。自転車でジャンプしながら進むなんて、スポーツとしてしかやらないだろうと二人は思いながらも、我が子の笑顔が見たい為に心から付き合った。そして、信じられないが次はこうするんだと練習して来た事全てを体得していったのだ。




 そして、一郎は今に至る。元々好奇心が強く外向的な子だ。こうなる事は知っていた。不安ではあるが、交通事故や最近は不信な人が沢山いる。巻き込まれるわけないなんて日常では思っていても、こうなるとどうも心配になって来てしまうのは親の性なのだろう。旅に出る三日前から準備は行われた。




 一郎の小さな身体に対して、それはそれは大きいリックだった。何せ、一郎はひとまず上の県を目指すのだった。後ろの車輪がリックをするだろう。坂は間違なく重くて、自転車を押しながら登る事になるだろう。しかし、「もう少し軽くても良いよ。」そうしかめながら言う一郎に二人は、どれを抜いて良いのか分からなかった。どれを抜いても一郎が困る気がしてならない。出発の日、野宿になったらと用意した枕だけを外して、地図、コンパス、テレホンカード、現金、缶詰、どこの子かを書いた手帳などを持たせた。一郎は太陽の方に自転車を漕いでいく。




 見慣れない街に僕はいつの間にかいた。僕は住んでいた地元を離れて、知っている市をいつの間にか通り過ぎていると知ったのは、夏の仕業なんだろう。夏は照り付かせて陽炎を使って遠くの景色を曖昧にしていた。僕の汗は熱くなったアスファルトに落ちている。信号は何個か此所に来るまでに有ったのだけれども、止まるのは初めてだった。信号が赤から青に変わるまでの間に僕は、辺りを見回した。その時に気付いた。




離れている筈なのになんだか県の中心にいる様な感覚だった。実際真っ直ぐ進んでいるんだろうけど、上の方で僕の県は栄えているんだろう。僕は入り交じる人をリュックをギシギシと揺らしながら進んで行く。時々ビルに太陽が隠れて顔を出す時の眩しさに眼をやられながらも進んで行くのだった。





 再び知らないけれども、ビルなんてのは無くなっていて、町になっていた。僕と同じ歳をした奴等が結構広い公園で遊んでいるのをみた。そいつらは遊ぶのを止めて僕の方を見ていた。何を思って僕を思って見ているのだろう。大体、学校での友達みたいな感じだろう。あまり良い意味でこちらを見ていない様な気がする。暫くすると、この道が遠くにあるあの山に続いてるんだって事を知った。随分と傾斜があり長い坂そうだけども、日陰が坂を包んでいた。僕は少しだけ、安心した気分だった。




坂を登っている。周りは樹が立っていてとても微風が生きていて気持ち良かった。道路はあるけれど、車を余り見掛けない。そして、車の道路の両端にはいつの季節の物なのか分からない。枯れ葉がそのまんまになっていた。蝉の声が聞こえる。どこかで、鳴いている。今、僕は近付いているのだけれどもいつの間にか近くにいた蝉の存在に気付けず僕は遠ざかって行った。蝉をこんな時に度々、声だけの虫なんじゃないかなんて思ったりするのだった。




 恐らく真ん中付近だろう。使われてなくて湿っているバス待ち小屋がある。僕は自転車を止めて、その中に入りリュックから冷やしてもらったペットボトルと新しいTシャツを取り出そうとしたけどペットボトルの汗でTシャツは濡れていて、着替える気になれなかった。風もないのにする、コォ…って音が何とも印象的だった。一休みして僕は、ブレーキを掛けながら坂を自転車でゆっくりと下って行くのだった。上の県に着いたのだろうか。





 再び、太陽に眼をやられ戸惑いながらも僕はこいで行った。町の様なイメージをしていたのだが、僕の地元と同じ様なところだった。疎らに家があって、空き地は杭と錆びた有刺鉄線が張ってあり、そこに収まる様に雑草が伸びていた。




暫く進むと、その風景ばかりが続き。田んぼが僕の周りを囲んでいた。目の前にはなんかの家がポツンとあった。僕の方にも嫌われてるのか知らないけど、離れていてポツンした家があったのを思い出す。距離が近付くに連れて自動販売機の横姿を確認出来た。あそこはどうやら駄菓子屋の様だ。何処にいるのだろう。蝉の鳴き声が近くで聞こえていた。




 中は薄暗くて、隅っこの方にはいつの物か分からない埃を被ったバーモンドカレーがあった。けど、お菓子の所は綺麗だった。「そこは大丈夫だよ」喉の水分を全部取られたかの様な声で周りと同化していたお婆さんの存在に僕は驚いてた。


 


 お菓子を選んでいるとお婆さんが袋に入ったままタンバリン叩き始めた。「坊やは、久しぶりのお客さんだよ。だからね、お金取っちゃうけどこの夜に輝くタンバリンをあげるよ。これで、坊やも星使いになれるよ。」僕は、それを聞いて疑う事をしなかった。余り聞く耳を持たなかったからかもしれないけど、お婆さんが託している様な気がしたのだ。どうであれ僕は500円をここで払って後にした。赤い色した円いタンバリン、青色した矢印の形をしたタンバリン、黄色の星形のタンバリンを籠に入れて、整備れてない砂利道をガタガタと進む。タンバリンはチャリチャリと音を鳴らしていた。そんなに長くいたのだろうか、急に時間が早くなって、夕方になっていた。


 


 夜は結局、親が沢山いれてくれたうちの照り焼きチキン弁当を食べて、置き去りにされてる車で夜を過ごす事にした。窓をみると夜空は黒かった。輝きなど一つもなく、蛙が蝉と入れ替わる様に鳴いているのに気付いた。ふと眼を閉じると両親の姿が眼に浮かぶ。内心恋しくてならない。車内で気晴らしに夜空を見上げながら黄色いタンバリンを叩いた。




 すると夜空に一つ星が輝いた。気のせいじゃない、確かに輝いた沢山叩いて外に出ると僕の真上にだけ星が沢山輝いていた。僕は眼を丸くしながら、青色のタンバリンを取り出して叩き始めた。すると星は矢印の方へと流れって行った。赤色のタンバリンを叩くと星は音も鳴く爆発した。




 僕は現在地を確認して、星を生み、星を家の方へ流し、爆発させた。そしてずっとやっているうちに外で寝ていた。人がいなくて良かった。変な事件に巻き込まれたと思われたら大変だ。その後、僕が家に帰ると昨日の星の出来事で町中が騒ぎになってテレビまで来た事を聞いた。僕はそれを知らないふりをして聞いていた。だけど、戻る途中にあの駄菓子屋は朽ち果てていた。自動販売機にお金を入れても直ぐ下に落ちる。お婆さん、よく分らないけど、星の使いである事は内緒にするよ。

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