MILLION DRUMS

エリーシャはハローと言う。ブルーハワイを空に零した様な夜が来た。黒の重力で握られる様な空ではなく、遠くまで藍色の空で吸い込まれる様な、そんな素敵な夜がやって来た。


 ホールデントは、エリーシャと丘に登る。エリーシャはオレンジのソファーが大好きで、いつもそこのテブールには本と紅茶。エリーシャは本が大好きで、図書館を建てた。18の若さで建てた事に、世間で脚光を浴び、図書館のが営業時間に終わった事はない。けども、図書館を建てた本当の理由は、文字離れなんて社会への台詞じゃなくて、ただ部屋に本が置けないという、聞いたら少し落胆する理由からだ。


 エリーシャの家というのは図書館でもあり、警備員に証明書をみせて入り、電気の付いた個室が三階にある。そこがエリーシャの部屋だ。踏み場の無いくらいに本は散乱している。それは交差するに積み重なって緑色ならば、山であり。青が散らばっていれば湖で、偶然でもエリーシャの物語の世界にホールデントはいる様だった。


 古本の出す年代の匂いが立ち込めていて、頭が長くいると痛くなる。それにくしゃみが止まらない。エリーシャは誰かが姿をみせて声を掛けない限り、挨拶をしない。寛ぎ場に入ると、本が散らばっていたりビルを築いていて、崩れたらどうしようなんて安らげない気持ちになった。しかし8畳の真ん中にエリーシャはスヤスヤと寝ていた。飲みかけのレモンティーは温かった。


 ホールデントは指でテブールをトントンと慣らした。触りたいのだが、ホールデントは野性的になりそうな感じがして嫌なのだ。エリーシャは滅多に外にでなくて、とても白い肌をしている。一部じゃ心配されるが、ホールデントはそれが大好きだった。古本の香りが部屋を立ち込めるのに、エリーシャは何故か薄いラ・フランスの香りがする。食べ物は食べても生物で野菜が主食だ。大概は飲み物ばかりを飲んで過ごしている。本人は別に買いに行くのだが、お節介なお婆さん達が買って来て渡すもので生活している。


 エリーシャは目を擦りながら起きた。ハローとホールデントに言ったけど、これは実は余り無い。こんな時でも、話掛けないと本を読んでしまうのだ。


 昔からエリーシャはそんな感じだった。ホールデントは良く外で遊んでいるやんちゃ者で友達が沢山いたけど、エリーシャはいつも図書室にいて、友達も話しかけてくれる人も少なかった。集団行動が大嫌いで、と言うよりは本を読んでいたくて。それが反感を買って本を破かれて泣いたりもしていた。正直な話、エリーシャは世間的に生きて行けない人間だと思っていたけど、こうして今もいる。


 ホールデントが何気なく、エリーシャに話掛けたのが友人始まりだった。ホールデントは似合わない感じがしていたのだが、本を読んで見たいなと思ったのだ。エリーシャに自分に似合う本はないだろうかと尋ねたのだ。すると、エリーシャは普段のイメージからは想像出来ない笑顔と喜ばしい声を出して、ジムキー・パークソン、モダ・アルカゾ、エンディー・フレス等の沢山の著者の本を掻き集めてテーブルにどんと置いた。


 似合いそうな本の説明よりも、エリーシャの笑顔に顔が言ってしまった。エリーシャはそれに気付かず話続けて、いつの間にか残っていた3冊から説明を聞いて読む事にした。読む事にしたのは、モダ・アルカゾの「あの頃の僕によろしく」だった。


 この本は幼い時の後悔を残してる男が過去にタイムスリップをして、過去の僕と迫る後悔を乗り越えて行く、友情小説だった。ジャンルとかも選んでいなかったホールデントは後で、ファンタジーを聞いとけばと思ったが、とても面白くて、一日で読み終わった。


 それからホールデントは本の魅力とエリーシャの笑顔がみたくて本を着々と読む様になった。エリーシャの薦める本は自分で選んだ本よりも魅力があった。人を変える力を持っている凄い奴だと感じた。


 エリーシャに最近の本を買って来た。まだ、名前も知られていない本を数冊。エリーシャは相変わらず可愛い笑顔をみせた。どうしても見てもらいたい事があって、言葉は少ないエリーシャをバイクに乗せて丘を目指した。


 星のない空ベンチに座る。エリーシャの心の中は曇りで見えない。ホールデントはお前に読んで貰いたいものがあるというと、瓶を出した。コンコンと叩くとそれは発光し、フタを開けるとそれは空へと消えていった。エリーシャは少し驚いた顔をみせていた。するとそれで終わりだったのに、星が沢山顔を出した。


 綺麗とエリーシャは呟いた。二人だけの小説を書きたい。人生の最期にそれを書いて世に残したいんだ。エリーシャは目が点だったが、照れながら空を見てホールデントの右手を握り締めた。流星が四方八方に流れて行った。

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