電波塔のアンテ

電波塔が見える丘に登ったのは

幼さを隠す事を知らない三歳の頃だった


そこに小屋を一つ

宙の空には民がいて

その声を受信するのをラジオで待っていた

退屈しのぎの知恵の輪も パズルも

全て解いてしまったよ

丘の下は小連れが多くみられた五歳の頃だった


母に丘の下に連れ戻されて授業を受けた

その間に声を受信しているかもしれないと

大人になるまでの知識を全て蓄えて一か月後に卒業した

三十歳まで好きに生きなさいと

見放された事に気付けないで愛情と信じていた雀の鳴く朝

いつも通りに声を待つ八歳である日

丘に友達というのが来た

三人組の男女

家に土足で入り込んだ時

友達と仲良くなれる本の通りやったけど

友達は苦い顔をしていた

四角いテーブルにはいつも本が積んであって

それをどけると友達が三人見える

誰の為にと用意はしてないけど

カップは四つある


真ん中にクッキーでも置いてお茶をしましょう

丘の下の友達は私の事をアンテと呼ぶ

大人が電波に侵された可哀相な娘と呼ぶ事からだそうで

ここに来る際立ち入り禁止となった一本道を通って来たそうだ

由来は嫌だけれどもアンテは響きが素敵だった

私は名前を貰ったけれども呼ばれた事が無くてもう忘れてしまった

その素敵な名前一人称に使わせて頂戴

友達とほぼ毎日遊んだ時にはラジオ一つを持って

冷たい大人の視線を抜けて海にも行った

波の音とラジオの小さな砂嵐は同調していたのだった


そうしている間に十五歳になっていた

電波塔はネオンが輝いている

小さくて点滅を繰り返していて

目に移る残光から見える宙の文字を読み取っていた


ガノ セイヲ キクシャヨ ソノジヲマテ


このパズルを解いてみようと思うけど

久しぶりに散歩してみようと思う

外は寒いけど大人の視線は芯から冷めてしまうからなんぼかましだった

ラジオはいたって変わらなかった

この置くにはアンテの家がある

母も父も住んでいる

十年も会ってない家族がいる

筈なんだけど

どなたですか

アンテの家族は前の人

待ち所か国を出た

会っていなくても家族に愛情が無かった訳では無い

夢の丘で寝る時は

見せた事の無い笑顔を瞼の裏に写していた

いつもの一人の小屋なのにこんなに淋しい気持ちになるのは

きっとあの言葉の本当の意味を知ってしまったからだね


枕に顔を伏せて

起き上がるそんな短い間にアンテは十八歳になっていました

一人の男の友達が死んだと他の二人から聞いた

家に強盗が入って刺し殺されたそうだ

アンテは十五歳のあの日から涙が止まらないのに聞きたくなんてなかった

最近は何故か彼の事が自然と浮かんで来ていた

自然にセカセカしていて料理ばかりをしていた

アンテは女の友達にそれを今告げると

アンテは初めての恋をしていたみたいと思った

告白出来ずじまいで

彼は強盗に盗まれてしまいました

言えない事一つあって彼の声を私が受信した気がしたけど

気のせいと忘れようとした

死んだ日に私は聞き殺しをしたのではないかと罪悪感を感じている

花をひっそり置いていて水を与えても自然と枯れて逝きます

そうしているうちに二十八歳になっていました


初恋の彼も家族も期限がないのに古くなるのが怖くなってる

友達二人は結婚してから滅多に会わなくなった


三十四歳になって

丘にいる理由を忘れてしまった

ここにいる意味をアンテは忘れてしまった

枝を探す日々が続く


四五歳の誕生日には友達が立派な家庭を築いていてケーキを焼いてくれた

ラジオの音は流してたけどいつの間にか消えていた


六十八歳を迎えて

ベッドの天井を見つめながら月日を重ねていった

瞼が重くて身体が浮いてる様だった

流星が沢山駆けています

無理して身体を起したかいがありました

声が聞こえてた

ラジオから砂嵐に紛れて

声が聞こえてた

思い出しました

電波塔にて宙の民の声を受信する為でした


声のする方

声のする方へ

手を伸ばす

段々と接近していく

声のする夜空

電波塔の丘

一つだけ流星が宙にのぼっていった

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