第126話 友との約束
デストリーネによる侵攻の知らせを聞いた後、すぐにフテイルは評定を開いた。
しかし、デルフたちは部外者なのでそれには参加せずに城下街を歩いていた。
タナフォスからは同席していいと言われたがデルフから辞退した。
デルフを気にして会議の進行に支障を来すのではないかと危惧したためだ。
とはいえ早くても両者がぶつかるのは三日後になることは聞いているがどういう手を使い追い払うのかは気になるところ。
(あとでタナフォスから詳細を聞くとするか)
デルフは隣にいるナーシャに目をやる。
その身なりは今までデルフが見てきたナーシャとはまるで別人だった。
化粧をし汚れが一切ない花柄の鮮やかな着物を身につけており最初見たときはナーシャとは気付かなかった。
「着物は可愛いけど……少し動きにくいわね〜」
「似合ってるんだからいいんじゃないか?」
「そう? 似合っているかしら? こんな服、初めて着るから自信なかったのだけど」
「ええ、お姉様。お綺麗ですよ!」
「流石にフレイシアに言われると照れるわね……」
なんとも言えない表情をするナーシャ。
「まぁ、それよりも!」
ナーシャはウラノに目を向ける。
「まさか私とウラノちゃんが親戚だったとはね〜。道理で他人だとは思えなかったわけよね!!」
そう言ってナーシャはウラノに頬ずりする。
ウラノは無抵抗で苦笑いしながらなされるがままとなっている。
その視線がデルフに突き刺さりウラノが何を言いたいのか何となく理解した。
(つまり、「こうなることは目に見えてました」と言いたいんだな)
デルフは微笑し知らんふりしてそっぽ向く。
「しかし、本当にびっくりしました。まさかお姉様が王女だったとは」
フレイシアがポツリと呟くとナーシャはウラノから離れうーんと伸びをした。
「まぁなっちゃったのは仕方がないよね。フレイシア、王様同士一緒にこの苦難を乗り越えていこう!」
「もちろんです!」
フレイシアは笑顔で答える。
(そう言えば陛下がフレイシア様として姿を見せるのは久しぶりだな。少し窮屈にさせすぎていただろうか)
しかし、フレイシアのきらきらとした目線は出店に向かっており杞憂であったと痛感した。
見た目は変われど性格はフーレと変わっていない。
そもそも王女という窮屈から抜け出すためにフーレとなっていたのだ。
ストレスを感じるどころか今までのものを発散させているまである。
「それはそうと姉さんはここに居ていいのか? 一応、まだとはいえこの国に王になるからにはこの一大事の会議に同席しないといけないんじゃないか?」
「それはそうだけど、まだ難しいことは分からないしね。追々よ。お・い・お・い」
その言葉にはこれ以上詮索はするなという意味があるように感じた。
「まぁ、そうだな」
自分の直感を信じて軽く流しデルフは周りを見渡す。
道は舗装などされておらず砂利道だが商いによる賑わいは王都に勝るとも劣らないものがある。
「敵が攻めてくるというのに変わらないな。あの鐘の音は警戒しろという意味だろ?」
「はい。それだけフテイル様を信頼しているのでしょう」
「さて、どうなるか。籠城か打って出るか。念のためお前たちも準備をしといてくれ」
ウラノとアリルは大きく返事する。
一人で城に戻るとデルフの姿を見つけた兵士が走ってきた。
目の前で跪き言葉を述べる。
「デルフ殿、タナフォス様が自室にてお待ちしています」
敬礼ではなく躓くという経験のないことをされ少し戸惑ったがすぐにデルフは頷く。
「了解した」
その足でタナフォスの執務室に向かい襖を開けるとタナフォスは座布団に座って執務の最中だった。
タナフォスの部屋は後ろの本棚と仕事机しかなく無駄な物を全て省いた開放感のある部屋だ。
襖を開けてもこちらに気が付く様子はなかったので襖を数回軽く叩くとようやく顔をあげた。
「来たか」
「気付かないなんて忙しいんだな」
「ナーシャ様の即位の礼の段取りやデストリーネの対処など諸々重なってしまってな。一つはめでたいことであるから愚痴を言うのは間違いかもしれんが」
「それで俺を呼び出した用はなんだ?」
タナフォスは筆を止めて話し始める。
「まずはデストリーネとの戦、打って出ることに相成った」
「そうだな。俺もそうする」
援軍が期待できない籠城は我慢比べでありたとえフテイルが難攻不落の城だとしても補給ができないため負けは目に見えている。
ただ、遅いか早いかの違いにしかならない。
ここは打って出て追い返すしか策はない。
「それでこちらの兵力はどれくらいなんだ?」
「すぐに動かせる兵は約二万だ。この国を空にするわけにはいかないからな」
「それは……敵も知っているのか?」
「無論、ジュラミール様なら承知しているだろう。……そなたも感じたか」
「ああ、敵は何がしたいんだ。もっと兵力はあるだろうに。フテイルよりも少ない兵力とは」
「今はまだなんとも言えぬ。奥の手やらがあると思い策を練った方がいいだろう」
「魔物の存在か……。いざとなれば俺も協力する」
「この国でない者に頼るのは威厳的に気が引けるが国が滅びるよりはマシか……。その時はよろしく頼む。しかし、そうはならないと思うが」
タナフォスは自身にかけた呪いにより殺し合いができない身になっている。
たとえ自分でかけた鈍いとはいえ国の一大事に戦えないというのは辛いだろうとデルフは考えた。
だが、タナフォスはデルフの考えを見通したのかこう発する。
「なに、殺さない戦い方などいくらでもある。不測の事態が起きても国のためとならば自分を曲げるのも致し方ない。だが、我が国の兵たちは優秀であるから百に一つもそのような事態にはならぬであろう」
デルフは直感した。
本当に危機的状況になった場合、タナフォスは自分の命を投げ打つ覚悟があることに。
「それともう一つ」
すると、タナフォスは一枚の文を机に置く。
デルフが受け取り目を通すと目を疑った。
「これは本当か?」
タナフォスは真剣な表情で一回頷く。
「そうか。早いな……」
文に書いてあった内容はジャリムが壊滅したとのことだ。
さらに全国家に宣戦布告し覇を唱えたことも記してあった。
「大国の中では一番まとまりに欠ける国とはいえこうも早く潰されるとはな。それで王はどうなったんだ?」
「分からぬ。某が知ることはその内容のみだ」
「王が無事なら再び建て直すことはできるかもしれないが……。情報が足りないな」
そもそもデルフが知るジャリムについての情報は複数のいがみ合っていた部族がまとまった大国であるということだけだ。
「いずれにしてもこれでデストリーネは本格的に始動したということになった。これらを踏まえてフレイシア様を王位に戻すための策を聞きたい」
「ああ」
そして、デルフは考えている策を話し始める。
それを聞き終わったタナフォスは深く考えそして頷いた。
「殆ど賭けになるが……それしかないのも事実か」
「条件が多いからな。それと……」
デルフは真剣な表情になってタナフォスに向けて言葉を出す。
「万が一、俺が行動できなくなったとき。代わりを頼んでもいいか?」
デルフも自分が考えた策が全て嵌まると考えるほど傲ってはいない。
全てが上手くいかず命まで落としてしまったときのための保険をかけておきたかった。
デルフの表情にタナフォスは何かを感じたのか目を大きく見開いた。
そしてそれらを飲み込むように大きく頷くと口を開く。
「承知した。必ずその役目を全うすることをこの命に賭けて約束しよう」
その言葉に嘘が一切存在しないことを確信したデルフは立ち上がる。
そもそも疑っていないが。
「それじゃ、俺も念のため準備をしておくとする。フテイルの戦い方、楽しみにしているぞ」
タナフォスは微笑する。
デルフが部屋を出ようと襖にてをかけようとしたときに思い出したように振り向く。
「ああ、それと今の俺はデルフではない。外ではジョーカーと呼んでくれ」
何か言いたげそうなタナフォスだったが納得したように息を吐く。
「……それがそなたの選択か。承った。この国中の者にはそう呼ぶように伝えておこう。加えてそなたに敵対心を持つようにも言いつけた方がそなたとしてはやりやすいか」
デルフは同意の笑みを向けて部屋から立ち去った。
歩きながらタナフォスに説明した策を改めて考える。
デルフがこれからすることは今のデストリーネの者として各国に打撃を与えデストリーネの味方ではなく敵として仕向けることにある。
特に大国には降伏や和睦はさせてはいけない。
全てこちら側に取り込む必要がある。
そして、それをまとめるのがフテイルという兵力を手に入れたフレイシアだ。
もの凄く簡略化した説明だがこれがタナフォスに話した策の概要だ。
「さて、上手くいくか。それもまずはこの戦に勝たなければ。……ウェルムの奴もどんどんと手を打ってくる」
『なんじゃ、少し楽しそうじゃな』
(……そうだな。お前と同化したおかげで少しは穏やかになっているのかもな)
『体験談として言うが怒りに我を忘れるよりは幾分もマシじゃぞ?』
デルフはリラルスと会話しながら歩いて行く。
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