第79話 マフィアの下っ端をぶちのめす

 マフィアの動向を探るためにスラムを散策する。

 娼婦は情報通であることが多い。男は行為の最中に口が軽くなるからだ。一人の路上娼婦に声をかけると、すぐにマフィアのメンバーらしき人物の情報を掴めた。


 どうやらスラムの中でも最下層の場所で、怪しい男たちが女性に声をかけているらしい。その最下層とやらの行き方を教えてもらった俺は娼婦に礼を言い、目的地へと向かって歩き出した。


 しばらくスラムの中を進めば、これまでの雰囲気とは明らかに違った区域に突入する。廃墟のようにボロボロな民家から漏れる明かりは少なく、全体的に薄暗い道。ねずみ色の顔をした住民が路上に座り込んでおり、俺を睨みつけている。まるで獲物を求める野獣のような視線に、しかし臆している暇はなく、適当な路地裏に入る。


「おい姉ちゃん、俺たちについてきてくれよ」

「な、なによあんたたち……」


 当たりだ。二人の男たちが若い女性を取り囲んでいる。

 壁にまで追い詰められている女性は、俺を見ると懇願するように叫んだ。


「お願い、助けて!」

「ああん? おい、お前……何者だ?」


 男たちもまた俺に気づき、一人がズボンのポケットに手を突っ込みながら近づいてくる。あえて至近距離まで近づかせ、睨んでくる男に問いかけた。


「お前たちはスレイファミリーの一員か?」

「だったらなんだ?」

「近頃、女性が誘拐される事件が多発しているらしい。それはお前たちの仕業だろう?」

「ああ、そうだ。だけど兄ちゃんよぉ、スラムで馬鹿な女が捕まえられるのは日常かつ常識だぜ。正義の味方気取りなんて場違いだからやめておくんだな」


 下卑た笑い声を漏らす男に対し、息をつく。

 掃き溜めのルールに迎合する気はない。俺は片手の拳を握りしめ、男に向かって警告する。


「アジトの場所と、お前たちが女性を攫ってなにをやっているのかを教えてもらおうか?」

「悪いが企業秘密だぜ、げはは!」


 男はポケットからナイフを取り出し、瞬時に鞘から引き抜いて突き出してくる。その動きは早く、明らかに人を刺し馴れているのが窺えるが、しかし俺には通用しない。


 相手の腕を払い、顔面に拳を叩き込む。

 鼻血を出して吹っ飛んだ男は、背後に立っていたもう一人の男を巻き込んで地面に倒れた。


「悪いことは言わないから、おとなしく情報を吐いたほうが身のためだ」

「ちくしょう! やりやがったなてめぇぇぇッ!」

「この野郎、ぶち殺してやるぜ!」


 立ち上がって激高した男二人は同時に襲いかかってくる。

 俺は察しの悪い男たちに力量差を分からせてやった。顔を殴打された二人が地面にうずくまり、うめき声を吐き出す。


「うぅ……くそぉ……いてぇよぉ……」

「情報を吐く気になったか?」

「だ、誰が吐くか!」

「ならば、仕方ないな」


 俺は鞘からムラサメを引き抜き、倒れ込んでいる男たちに切っ先を向けた。


「お前たちを斬って、次のメンバーを探すとしよう」

「ま、まて……殺すのはやめてくれ!」

「分かった! アジトの場所を教える!」


 ようやく観念した男たちは立ち上がり、アジトの場所を明かした。

 スラムの近くにマフィアの拠点である砦が存在するらしい。砦には周囲の監視役のメンバーが常に見張りを行っているために侵入するのは容易ではないのだとか。


「そうか。よく情報を吐いてくれた。斬るのはやめてやる」

「しかしよ、兄ちゃん。いくらあんたが強くたって、俺たちマフィアのメンバーは数が多いんだ。アジトに行ったってぶち殺されるだけだぜ?」

「そうだ。悪いことは言わねぇからやめときな」


 俺にぶちのめされて大人しくなった二人は、アジトの危険性について説いている。だからといって退くわけにもいかない。リンファの依頼を達成しなければ吸血鬼レヴィの居場所を教えてもらえないからだ。


「そういえば、お前たちはレヴィという吸血鬼を知らないか?」

「レヴィ? 名前は聞いたことはあるが居場所までは……」

「そうか。ならばお前たちにはもう用はない」


 路地裏から出る前に、襲われていた女性に声をかける。


「大丈夫だったか?」

「ええ、ありがとう。あなた、本当に強いのね。良かったら、一回どう?」


 女性はスカートをめくり上げて下着を見せる。男の証を受け止めやすくするために下着には穴がくり抜かれていた。どうやら彼女は日常的に男とそういう行為に励んでいるらしい。


「悪いが、時間がない」

「そう……お礼ができればいいと思ったんだけど」

「気にしないでくれ。じゃあな」


 路地裏を出て、スラムの出口に向かって歩を進める。

 それにしても、砦か。

 攻略するには一筋縄ではいかなそうだ。


「一人では骨が折れるな。仲間が欲しい」


 とはいえスラムの中で戦士の募集をしても、マフィアに喧嘩を売る酔狂な者などいないだろう。


「どうしたものか」


 考えながら歩いていると――意外な人物が道の前方から現れた。


「リオン? なんであんたがここにいるのよ?」

「セシリア……!?」


 かつて冒険者パーティに所属していた頃の仲間である女魔導士が、長い白髪を靡かせながらスラムの道を堂々と歩いていたのだ。

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