第190話 世にも恐ろしいお茶会

 ここは魔王城。

 魔界の中心に建つ巨大な城である。


 ウルリカ様のいない魔王城は寂し気な雰囲気に包まれていた。かつては多くの魔物で溢れていた謁見の間も、今やガラリと静まり返っている。

 そんな謁見の間に浮かびあがる大量の魔法陣。幾重にも重なった魔法陣は、謁見の間を明るく照らし──。



 ──ズズンッ!!──。



 迸る衝撃、溢れ出る魔力。

 舞い踊る光の靄を潜り抜け、姿を現す絶世の美女。


「無事に到着ねぇ」


 魔界へと帰ってきたヴァーミリアは、休む間もなく周囲へ視線を光らせる。


「分かっているのよぉ、出てきなさいよぉ」


「……お帰りなさいヴァーミリア」


 暗闇を割いて現れたのは、宰相ゼーファードを筆頭とする大公達である。

 今までも人間界に召喚された大公は、他の大公達からボコボコにされてきた。強すぎるウルリカ様愛は、大公達を嫉妬に狂わせてきたのである。


「なぜ……なぜウルリカ様は私を呼んでくださらない……」


 ゼーファードは嫉妬の炎を揺らめかせ、じわじわとヴァーミリアに迫っていく。


「さてヴァーミリア……極刑のお時間ですよ……」


「あらぁ、極刑なんてお断りよぉ」


「残念ながら極刑は確定です……これは宰相命令です……」


「どうして極刑に処されなければならないのぉ」


「我々を差し置き、ウルリカ様と楽しい時間を過ごしてきたのでしょう? くっ……くク……、クソ羨ましいなぁ!!」


 ドロドロと殺気を撒き散らし、どす黒い嫉妬の涙を流すゼーファード。とても正気とは思えない形相だ。


「ふぅん」


 尋常ならざる殺気を浴びながら、しかしヴァーミリアは余裕な態度を崩さない。ニッコリと笑顔を浮かべ、贈り物の箱をパカッと開ける。


「これを御覧なさいよぉ」


「……それは?」


「人間界で貰った贈り物よぉ、お紅茶と珍味とお菓子の詰めあわせねぇ」


「ホホウ? 人間界ヲ楽シンダ自慢デモシタイノカ?」


「許せませんね、百万回の極刑ですね」


「話は最後まで聞きなさいよぉ、このお菓子は手作りなのよぉ」


「手作りだからどうした……おい待てまさか!?」


「このお菓子、ウルリカ様も作るのを手伝ってくれたらしいわぁ。つまりウルリカ様の手作りお菓子ってことねぇ」


「「「「「ざわ……っ」」」」」


 “ウルリカ様の手作りお菓子”と聞き、大公達に電流走る。


「ウルリカ様の手作りお菓子! アタイ食べたい!」


「控えろミーア、あのお菓子は俺のものだ!」


「グルルッ、我ノモノニ決マッテイルダロウ!」


「ウルリカ様の手作りお菓子はボクのものです、邪魔する者は銀星術式で消し飛ばしますよ」


 色めき立つ大公達、もはやヴァーミリアへの嫉妬など二の次である。


「う……うおぉ……、ウルリカ様の手作りお菓子……だと……っ!?」


 ゼーファードはダラダラと涎を垂らし、グネグネと上半身を捻じり回している。その様子はやはり正気と思えない。

 そんな中ヴァーミリアは、いたって冷静に一つの提案する。


「みんなで仲よく食べようと思っていたのよぉ、お紅茶と珍味とお菓子でお茶会よぉ」


「ナニ? 仲ヨクダト?」


「その方がウルリカ様も喜んでくれると思わないかしらぁ?」


「「「「「ざわ……っ」」」」」


 “ウルリカ様も喜んでくれる”と聞き、再び大公達に電流走る。


「確かにウルリカ様は喜んでくださるでしょう……くっ、ならば仕方ありません。ヴァーミリアの極刑は中止です、そんなことよりお茶会の準備です! これは宰相命令ですよ!」


「ヨシ任セロ! 一瞬デ準備ヲ整エテヤロウ!」


「ちょっとドラルグ、そんなデカい図体で準備なんて出来ないでしょ! ここはアタイに任せときなって!」


「止せミーア、お前もドラルグと変わらないくらいデカいだろう!」


「そんなことを言っている間に準備完了です!」


「「「でかしたエミリオ!」」」


 大公達の迅速すぎる行動によって、一瞬の間にお茶会の準備完了だ。


「ふぅ、なんとか極刑は免れたわねぇ……ありがとうウルリカ様……」


「おやヴァーミリア、なにか言いましたか?」


「なんでもないわぁ、それよりお茶会を楽しみましょ」


 こうして開かれた大公達の楽しいお茶会。

 最強の魔物六体によるお茶会は、他の魔物達から見ると、世にも恐ろしいお茶会にしか見えなかったという。

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