第124話 激戦!
激戦続くロアーナ高原。
人と魔物とが入り乱れる戦場を、ひときわ目立つ赤い鎧が駆け回っていた。
「やあぁぁっ!!」
聖騎士スカーレットである。
深紅の鎧に身を包み、縦横無尽に戦場を駆け抜ける。彼女が通りすぎたあとは、血だるまとなった魔物の死体しか残らない。
「ヴォオォッ!」
「ヴォッ! ヴォッ!」
スカーレットを仕留めようと、オークの群れが襲いかかる。しかしスカーレットは涼しい表情を崩さない。
「はぁ……遅すぎて欠伸が出ちゃうわね! 奥義、烈火千刃!」
かけ声と同時に剣を抜き放つスカーレット、放たれた斬撃はオークの群れを一瞬で切り刻む。燃え盛る火のごとき勢いで無数の刃を振るう姿は、烈火千刃と呼ぶにふさわしい。
「さあ、次の相手はどいつかしら?」
一方、戦場の後方では聖騎士カイウスが戦いを繰り広げていた。
淡い水色の鎧に身を包み、巧みなレイピア捌きで魔物を葬り去っていく。流れる水のような動きは、優雅さすら感じるほどである。
「クオォッ! クォッ!」
「クオォォーッ!」
カイウスを狙い六体ものグリフォンが上空から襲いかかる。対するカイウスはレイピアを上空へ向けて構える。
「甘いですね……奥義、天空衝!」
放たれた必殺の突き技は大気の槍と化し、グリフォンの胴体に大きな風穴をあける。さらに──。
「まだまだ! しゃあぁぁっ!!」
連続で放たれた突き技により、六体のグリフォンは一瞬で全滅だ。天空を穿つ衝撃は、まさに天空衝と呼ぶにふさわしい。
「さて、次の魔物を仕留めにいきますかね」
各所で激しい戦いが繰り広げられる中、最前線では総大将エリザベスが自ら剣を振るっていた。周囲には魔物の死体が山のように転がっている。
「ふんっ、他愛もない……」
エリザベスの動きにかつてのような慢心は見受けられない。丁寧かつ確実な動きで剣を振るう姿は、どこか美しさのようなものを感じる。
「ウゴオォッ!」
「ほう、トロルか……」
棍棒を振りかざし、エリザベスへと襲いかかるトロル。振り下ろされた棍棒は、エリザベスを押しつぶす──。
「ウゴッ!?」
「ふんっ、その程度か!」
──かと思われたが、なんとエリザベスは巨大な棍棒を真正面から受け切ってしまったのだ。そのまま気迫の一撃を放ち、棍棒ごとトロルの巨体を一刀両断に切り捨てる。
「ジュウベエ殿の鬼特訓に比べれば、どうということはないな!」
ジュウベエの特訓を経験したエリザベス、スカーレット、カイウスの三人は、見違えるほど力をつけたようである。それぞれの動きは以前と比べ物にならない。それほどジュウベエの鬼特訓は厳しいものであったのだろう。
戦場で聖騎士三人が活躍を見せているころ、本陣を任されたゴーヴァンも見事な指揮を見せていた。
「第四部隊は東側に移動だ! ウルフの群れを撃退しろ!」
「はっ!」
「第六部隊は第七部隊の応援だ! 常に多対一を心掛けろ!」
「了解!」
的確な指示で軍隊を動かすゴーヴァン。ロアーナ兵達の奮戦もあいまって、魔物の群れは徐々に数を減らしていく。
勝利は目前かと思われたその時、戦場から兵士達の叫び声が上がる。
「うわあぁっ!」
「ダメだ! 止められない!」
「ゴルアァァッ!!」
荒れ狂うキマイラが、戦線を突破してきたのである。
兵士達を蹴散らすキマイラに、ゴーヴァンは思わず表情を曇らせる。かと思いきや次の瞬間、その表情はギョッと驚きのものへと変化する。
なんと本陣で待機していたはずのクリスティーナが、戦場へ向かって歩いていくではないか。
「あれは面倒ね……私がなんとかするわ……」
その一言でクリスティーナの意図を察し、ゴーヴァンは大慌てで声を張りあげる。
「全部隊、左右に展開しろ! 急げ!!」
ゴーヴァンの指示で左右に分かれるロアーナ軍。エリザベス、スカーレット、カイウスの三人も大きく左右へ回避行動をとっている。
戦場にはロアーナ軍本陣まで続く一本の道が作られる。それを見て好機と判断したのか、一直線に突き進んでくるキマイラと魔物の群れ。しかしその先で待っているのは──。
「いくわよ……」
艶やかな漆黒の杖を構えるクリスティーナ。静かに魔力を集中させ、構えた杖をゆっくりと振り下ろす。
「第六階梯……暴風魔法、トロピカルサイクロン……」
放たれた魔力は巨大な竜巻と化し、衝撃波を撒き散らしながら戦場を駆け抜ける。直撃を食らったキマイラはもちろん、近くにいた魔物までバラバラに吹き飛ばしてしまう。
クリスティーナの放った魔法は、たった一撃で地平線まで魔物を一掃してしまった。
「ふぅ……片付いた……」
「やった……やったぞ!」
「クリスティーナ様がやってくれた!」
「「「「「うおぉぉーっ!!」」」」」
キマイラ撃退に湧き立つロアーナ軍。しかし当のクリスティーナは、特に反応も見せずしれっと本陣まで戻ってくる。そんなクリスティーナを横目に、ゴーヴァンは冷静に戦況を確認する。
「クリスティーナ様のおかげで魔物はほとんど残っていない、これで我々の勝利は確実か……ん?」
そう言って地平線へと視線を移したゴーヴァン、その目にかつてない巨大な影が映る。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
一方そのころ──。
「どうじゃ? 似合っておるか?」
「「「「きゃあぁっ! 可愛すぎるーっ!!」」」」
ロアーナの町では下級クラスの生徒達が、引き続き課外授業を楽しんでいた。
キラキラと輝く髪飾りをつけたウルリカ様。あまりの可愛らしさに、ヴィクトリア女王、オリヴィア、シャルロット、ナターシャの女性陣は大盛りあがりである。
「なあ……ヘンリー……」
「どうしましたベッポ」
「俺達はロムルス王国に伝わる伝統工芸を見学にきたはずだ、なぜウルリカのお披露目会をしてるんだ……?」
「さあ……なぜでしょうかね……」
女性陣とは対照的に、男子達は相変わらず盛りあがっていない。しかし大盛りあがりの女性陣は、そんなこと相変わらず気にしない。
「ウルリカ様! 次はこちらの髪留めをつけてみてください!」
「いいえ! ウルリカさんにはこちらの首飾りが似合うと思います!」
「オリヴィアもナターシャも分かっていませんわね、ウルリカさんにはあちらの髪飾りが似合いますよ!」
「違うわよみんな、ウルリカちゃんにはやっぱりは……これしかないわ!」
「どれもキラキラで魅力的じゃな、迷ってしまうのじゃ!」
激しさを増す戦場のことなどつゆ知らず、引き続き課外授業を楽しむウルリカ様達なのであった。
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