第122話 迫りくる脅威
ロアーナ要塞。ロムルス王国最北端、隣国との国境沿いに建ち、古くからロアーナの町とロムルス王国を守ってきた要塞である。
要塞内部のとある一室、指令室と書かれてた部屋に三人の騎士が集まっていた。
「スカーレット、情報に間違いはないのですね?」
「もちろん、直接この目で見てきたんだから間違いないわよ。変異した魔物の群れは徐々に規模を大きくしながら、ロアーナの町に向かっているわ」
「そうですか……距離と進行速度から計算すると、魔物の群れは明日にでもロアーナの町に到達しますね」
「状況はひっ迫しているな……」
集まっているのは、ゴーヴァン、スカーレット、カイウスの聖騎士三人だ。
三人の表情はいずれも非常に険しい。広げた地図の上で駒を動かしながら、ただごとではない様子で話しあっている。
重苦しい空気の中、指令室の扉が開かれる。
「すまない、遅くなった!」
「お待たせ……」
指令室へと入ってきたのはクリスティーナとエリザベスである。二人の表情もまた非常に険しいものだ。
「状況はどうなっている?」
「国境付近に変異した魔物の群れが発生しているそうです。規模を大きくしながら南下しており、明日にでもロアーナの町に到達する見込みです」
「私が直接確認してきたから間違いないですよ」
「変異した魔物……どんな魔物……?」
「どの魔物も体が赤黒く変色していました。凶暴性も増しているみたいで、魔物同士で共食いまでしていましたよ」
「砦の兵士達からも情報があがっております。北の国境付近で怪しげな黒装束の集団を見かけたと、さらに国境付近で妙な魔力反応が観測されているらしいです」
「くっ……そうか……」
スカーレットとカイウスからの報告を受け、エリザベスは思わず表情を曇らせる。
「異様な魔物、怪しい集団、妙な魔力反応……、残念ながら父上の予感はあたっていたようだな」
どうやらクリスティーナとエリザベス、そして聖騎士三人は、突如発生した魔物の群れに対処するべく王都から派遣されてきたようだ。
エリザベスは地図上に配置された駒を動かしながら、聖騎士達の方へ視線を向ける。
「スカーレット、カイウス、ゴーヴァン、父上から賜ったご下命は覚えているな?」
「魔物の群れを鎮圧しつつガレウス邪教団の関与を探る、でしたね」
「そう……、今回の魔物発生にはガレウス邪教団が関与していると……お父様は予感していた……、そしてお父様の予感は……恐らくあたっている……」
「ガレウス邪教団は邪神復活を目論む闇の組織、決して見過ごすわけにはいかない! しかしガレウス邪教団はいたる所に潜んでいるという」
「要塞内部にもガレウス邪教団の手の者が潜んでいるかもしれない、だからこそ俺達聖騎士と、エリザベス様、クリスティーナ様で秘密裏に探るというわけですね」
ゴーヴァンの言葉に軽く頷き、地図から顔をあげるエリザベス。
「やるべきことは二つだ! まずは発生した魔物の群れを鎮圧すること、ロアーナ要塞の兵力を率いて速やかに魔物を鎮圧する。ロアーナの町に被害を出すことは許されない!」
思わず背筋が伸びてしまう、凄まじい気迫のこもった声だ。
「そして二つ目、裏で暗躍しているであろうガレウス邪教団を捕らえることだ。必ず私達の手で、ガレウス邪教団を捕らえるぞ!」
「はっ!」と見事な敬礼を見せる聖騎士三人。エリザベスに負けず劣らず、凄まじい気迫だ。そんな中クリスティーナだけは、どこか気怠そうな様子である。
「総大将はエリザベスに任せるわ……兵を率いて魔物の鎮圧をよろしく……、私は妙な魔力反応を調べて──」
「私が総大将か! ならば姉上は副将だな!」
いきなり副将に任命されて、クリスティーナは「えっ……」と声を漏らしてしまう。慌てて断ろうとするものの、熱が入ったエリザベスの勢いは止められない。
「私と姉上で総大将と副将か! なんだか燃えてきたぞ!」
「いや……私は要塞で魔力反応の調査を──」
「姉上の魔法と私の剣、二人の力をあわせればどんな魔物も倒せるな!」
「でも私……戦場は苦手……」
「さあ姉上よ! ともにロアーナの町を守ろうではないか!」
「あ……うん……」
エリザベスの勢いに押されて、クリスティーナはついつい頷いてしまう。小さな声で「脳筋……」と漏らすが、エリザベスはまったく聞こえていないようだ。
こうしてロアーナの町を守るべく、二人の王女と聖騎士達は戦場へと向かうのだった。
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「ところでエリザベス様? ずいぶん到着が遅かったですね?」
「ああ、少しロアーナの町を見てきたのだ」
「そういえば……町でお母様達に出会ったわね……」
「おや? なぜヴィクトリア女王様はロアーナの町に?」
「課外授業にきていると言っていた、下級クラスの生徒達も一緒だったな」
「ウルリカ……課外授業を楽しんでいたわね……」
「あぁ……万が一にでも魔物の群れに、課外授業を潰されようものなら……」
授業を潰され怒り狂うウルリカ様を想像し、五人は顔を青ざめさせる。
「なんとしてもロアーナの町を守るぞ!」
「そうね……なんとしても守らなくちゃね……」
「「「はっ!」」」
こうしてさらに気合いを入れた、王女と聖騎士達なのであった。
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