第111話 スパーンッ! ミャミャミャッ!
「父さん……」
「シャルルよ、お前なら分かってくれると思っていたぞ……」
オリヴィアとシャルロットの制止も虚しく、父親の手を取ったシャルルは──。
「父さん! 許してくれ!!」
「なっ!?」
掴んだ父親の手を引き寄せると、素早く体を沈め込む。そのまま父親の体を背負いあげ、勢いよく身を翻す。
あまりにも突然の出来事に、なんの抵抗も出来ない父親。グルリと大きく宙を舞い、激しく地面に叩きつけられる。
「ぐえぇっ!!」
投げ飛ばされた父親は、そのまま白目をむいて失神してしまう。スパーンッという音が聞こえてきそうなほどの見事な一本背負いだ。シャルルは父親から手を放すと、神官騎士団の方をギロリと睨みつける。
「ナターシャは大切な友達だ! その友達を見捨てて、自分だけ許されようなどとは考えられない! たとえ教主様に楯突くことになろうとも、自分は決して友達を見捨てない!!」
シャルルから放たれる威圧感は、精鋭であるはずの神官騎士団ですら委縮させてしまうほどだ。ガッシリとした筋肉質の体型もあいまって、その迫力は凄まじい。
「ヘンリーよ! お前から教わった力、今こそ使わせてもらう!!」
叫び声をあげ、全身に力を籠めるシャルル。漲る魔力で体を覆い、そして──。
「筋力増強魔法だ! はあぁっ!!」
「「「ぐあぁぁーっ!?」」」
全身の筋肉をパンパンに膨らませ、猛烈な突進で神官騎士団を撥ね飛ばしていく。鎧を着込んだ神官騎士を軽々と撥ね飛ばす、とんでもない破壊力の突進攻撃だ。
次々と神官騎士が飛ばされていく。そんな中オリヴィアとシャルロットは、キョトンと首を傾げてしまっている。
「ヘンリーから教わっていた魔法は、あのような魔法だったかしら……?」
「いいえ……ただの火魔法だったはずです……」
「ですわよね……だったらあの奇妙な魔法はなんですの……?」
「さあ……自分で魔法の練習をしている間に、魔法が突然変異したのかもしれません……」
「まあ……シャルルらしい魔法ですわよね……」
「はい……ちょっと奇妙ですけどね……」
独特すぎるシャルルの魔法に、オリヴィアとシャルロットはポカンと呆れ気味だ。その間にもシャルルは次々と神官騎士を撥ね飛ばしていく。シャルルの筋力増強魔法、恐るべしである。
シャルルの活躍で窮地を脱したかと思われたその時、オリヴィアの背後から神官騎士が襲いかかる。
「バカめ! 隙だらけだ!」
「オリヴィア! 後ろですわ!」
「きゃあぁっ!?」
そもそもシャルロット達は前後を神官騎士団に塞がれていたのだ。前方の神官騎士団はシャルルの活躍で突破したものの 後方の神官騎士団は残っていたのである。
完全に油断していたオリヴィアは、動転して逃げることも出来ない。あっさりと羽交い締めにされ、動きを封じられてしまう。するとオリヴィアの服の裾から、小さな黒い影が飛び出してくる。
「ミャォッ!」
「カーミラちゃん!?」
飛び出してきたのは吸血猫のカーミラだ。ストンと地面に降り立つと、シュッと音を立て姿を消す。
次の瞬間──。
「ミャミャミャッ!」
「なっ!? ぐあぁっ!」
「なんだこれは──ぐはぁっ!?」
「速すぎる──ぎゃあぁっ!?」
グネグネと駆け回る黒い影。そして次々と宙を舞う神官騎士団。姿を消したカーミラは、目にも止まらぬ高速移動で神官騎士の間を駆け回っているのだ。
もちろん無意味に駆け回ってるわけではない、すれ違い様に神官騎士へ体当たりを食らわせて、撥ね飛ばしているのである。神官騎士団は状況を飲み込めないまま、木の葉のように飛ばされていく。
これぞまさに電光石火だ。カーミラの体当たり、恐るべしである。
「カーミラちゃん……凄いです!」
「凄すぎますわよ……あんなに小さいのに、どうなっていますの……?」
カーミラの強さを目の当たりにして、シャルロットは冷汗でビッショリだ。一方カーミラはというと、オリヴィアの足元でスリスリしている。神官騎士団をやっつけたことを褒めてほしいのだろうか。
「ミャーォ……」
「あはは……凄かったですね、カーミラちゃん!」
「ミャォッ!」
オリヴィアに褒められてカーミラはとても嬉しそうだ。コロコロと転げ回る可愛らしい仕草に、ほんのりと和やかな雰囲気が流れる。しかし今は悠長にカーミラを愛でている場合ではない。
「二人とも無事か!?」
「シャルル! あなたこそ無事で……って、全員やっつけてしまいましたの!?」
ギョッと目を見開いて驚くシャルロット、視線の先では神官騎士団がバラバラと倒れていた。なんとシャルルはたった一人で、神官騎士団を全滅させてしまったのだ。シャルルの筋力増強魔法、まったくもって恐るべしである。
「これもヘンリーから教わった魔法のおかげ……っと、今はそんなことを話している場合ではない! 礼拝堂は目の前だ!」
「そうでしたわね! はやくナターシャを連れ戻しますわよ!」
「はい!」
気を取り直して回廊を駆け抜ける三人。しばらく走ると前方に、美しい金細工の施された巨大な扉が姿を現す。シャルルは迷うことなく取っ手を掴むと、渾身の力で扉を開く。
開かれた扉の先は、美しい様式の礼拝堂だ。差し込む光に照らされて、一人の少女が静かに立っている。
煌めく白銀の髪をなびかせる、白銀の剣を持った少女。
そして少女の足元には、グッタリと倒れるナターシャの姿があった。
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