第102話 深夜の研究室

 深夜。

 吸血鬼もスヤスヤと寝息を立てている時刻。


 ロームルス城、クリスティーナの私室に薄っすらと明かりが灯っていた。

 大量の実験器材と足の踏み場もないほどの本で埋めつくされた室内は、もはや研究室と呼んでも過言ではない光景だ。


「うぅぅ……ヒリヒリする……」


 研究室の真ん中で、クリスティーナは大きな実験用の台に肘をついて立っている。よく見ると薄明りに照らされて、真っ白なお尻が丸出しになっているではないか。

 実は昼間の特別授業で火傷をしてしまったお尻が、まだ完治していないのだ。


「お尻がヒリヒリして……座れない……寝られない……うぅぅ……」


 火傷した箇所を刺激しないよう、恥ずかしげもなくお尻を丸出しにしているクリスティーナ。涙ぐんだ声をあげて、なんとも可哀そうな姿だ。


「それにしても……昼間の魔法……あれは……」


 お尻を刺激しないように注意しながら、クリスティーナは昼間の特別授業のことを思い出す。


「銀星術式……生物を魔法媒体にして、強力な魔法を使わせる術式……。魔界の研究で編み出された術式……信じられない……けど……」


 思い出しているのは、ウルリカ様の銀星術式によって一斉に魔法を使う生徒達の姿だ。


「本当に生物を魔法媒体にする術式だったら……それを私も使えるようになれば……ロムルス王国の……人類の得られる恩恵は計り知れない……」


 実験台に肘をついたまま、一点を見つめてじっと考え事をするクリスティーナ。研究室にはクリスティーナの独り言だけが、静かにポツポツと響いている。


「ついイラっとして……否定したけど……読みたい……あの本を……なんとしてでも……!」


 グッと拳を握り、ゆっくりと顔をあげるクリスティーナ。


「あの子達は下級クラスだったはず……だったら……下級クラスに行けば……あの本も読める……?」


 クリスティーナ瞳には、魔法研究に対する強い熱意がこもっている。


「決めた……明日は下級クラスに行ってみて……っ」


 そう言って体を動かしたクリスティーナは、突然「うぅぅ……」と呻き声をあげる。慌てて体を元の体勢に戻すと、そっとお尻に手をあてる。


「ヒリヒリする……早く……お尻の火傷を治さなくちゃ……」


 薄暗い研究室に、クリスティーナの涙ぐんだ声が響く。どうやら体を動かした拍子に、火傷した箇所を刺激してしまったようだ。


 こうして、クリスティーナの眠れない夜は更けていく。

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