第45話 大改造!!

「みんなで教室を改造します!」


「「「「「「「改造!?」」」」」」」


 待ちに待った初授業、その授業内容を発表するヴィクトリア女王。

 しかし生徒達は、キョトンと首をかしげてしまう。


「あら? みんな黙っちゃって、どうしたのかしら?」


 首をかしげている生徒達を見て、ヴィクトリア女王もキョトンと首をかしげる。

 全員で首をコクリコクリ、頭の上は“?マーク”でいっぱいだ。

 そんな中、ウルリカ様は元気いっぱいに手をあげる。


「ハーイなのじゃ! 質問なのじゃ!!」


「はい、ウルリカちゃんどうぞ!」


「教室を改造するというのは、どういうことなのじゃ?」


「そうね、もう少し詳しく説明してほしいわよね」


 ウルリカ様からの質問に、ヴィクトリア女王はニコリと笑顔で答える。


「まず第一に、ステキな授業をするためにはステキな教室が必要だと思うのよ。だからみんなで、この小屋をステキな教室に改造するのよ」


 ヴィクトリア女王は、パッと手をあげて小屋を指し示す。


「次に、みんなで仲よくなるためには、みんなで一緒に“なにか”をするのが一番だと思うのよ」


「ふむふむなのじゃ」


「だからみんなで教室を改造するの! みんなで協力しながら、自分達の教室を自分達で作る。絶対に仲よくなれると思うわ!」


「うむ! 確かになのじゃ!」


 ヴィクトリア女王の答えに、納得した様子のウルリカ様。

 すると今度は、ナターシャから質問があがる。


「あの……勝手に小屋を改造して、学園から怒られたりはしないでしょうか?」


 ナターシャからの質問にも、ヴィクトリア女王はニッコリと笑顔で答える。


「ハインリヒ君はこう言ったの、『ここで好きに過ごしていて構わない』、『お前達の教室はここだ』、『上級クラスや一般クラスの邪魔はする』、そうよねヘンリー君?」


「ええ、間違いありません」


「ということは……この場所にいて、他のクラスを邪魔しなければ、あとは好きにして構わないということよね。だから小屋を改造するだけなら、なんの問題もないはずなのよ」


「なるほど、ありがとうございます!」


 スッキリとした顔のナターシャ。

 キョトンとしていた生徒達も、コクコクとうなずいている。

 その様子を見て、ヴィクトリア女王は生徒達に、真っ白な紙を配っていく。


「それでは、質問もなくなったところで授業をはじめましょう! まずはどういう教室にしたいか、いろいろ案を出してみましょうか」


「ハーイなのじゃ!」


「出来る出来ないは一回忘れてね。こんな教室だったら楽しいかもって、自由に考えてみて?」


 紙を手に取り、考える生徒達。

 しかし、「う~ん」と唸るだけで、中々答えを出すことは出来ない。

 そんな中、元気いっぱいに手をあげるウルリカ様。


「思いついたのじゃ! 妾は“お菓子いっぱい教室”にしたいのじゃ!!」


「「「「「「「お菓子いっぱい教室?」」」」」」」


「どこもかしこも、クッキーやマカロンでいっぱいの教室なのじゃ! お菓子を食べたくなったら、いつでも食べられるのじゃ!」


 ウルリカ様の突飛な発想に、全員ポカンとしてしまう。

 しかし次第に、沈黙は笑い声へと変わっていく。


「フフフッ……お菓子って、ウルリカらしいわね」


「はい、ウルリカさんにピッタリの教室です!」


「いいわねウルリカちゃん、とっても楽しそうな教室だわ」


「うむ! そうであろう!」


 和んだところで、ポンっと手を叩くヴィクトリア女王。


「さ、みんなもウルリカちゃんを見習って、考えてみましょう!」


「……それでは、ボクは本に囲まれた教室を希望しますね」


「ワタクシは大きな世界地図の貼ってある教室にしたいですわ」


「自分は天井の高い、風通しのよい教室を求む!」


「だったら私は──」


 ウルリカ様の“お菓子いっぱい教室”をきっかけに、次々と案を出す生徒達。

 こうして、はじめての授業は徐々に盛りあがりを見せていく。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 そして時刻はすっかり夕方。

 ボロ小屋の前は、賑やかな雰囲気に包まれていた。


「それにしても、シャルルの意見は面白かったですわ。“筋力増強特別教室”って、面白すぎますわよ」


「なっ!? シャルロット様も人のことは言えないぞ! “優雅なるお茶会教室”は流石にないでしょう!」


「くすくすっ、どちらの案もおかしいですよ?」


「いや……ナターシャの出した、“世界の珍味教室”よりはマシだろ……」


「ところで、私は生徒ではありませんけれど、案を出しちゃってよかったのでしょうか?」


「いいと思いますよ? オリヴィアさんはもうすでに、ボク達と同じクラスのようなものですよ」


 ヴィクトリア女王の狙い通り、生徒達は授業を通じてすっかり仲よくなった様だ。

 頃合いを見て、ヴィクトリア女王は全員の注目を集める。


「それじゃあみんな、いよいよ教室の改造をはじめましょう!」


「ハーイなのじゃ!」


「とは言っても、時間も遅いわね。とりあえず今日は、出してもらった案をまとめていきましょうか」


 大量に散らばった紙、その一枚一枚を全員で確認していく。


「“金ぴか黄金教室”、“研究書大量教室”、“太陽の天使様教室”……興味深い案ばかりですね」


「ヘンリーの言う通り、確かに興味深いですわね。だけど改造するなら、実際に出来そうかどうかも大事ですわ」


「だったらサーシャの案は全滅ですね……」


「リヴィ!? 酷いです!」


 ワイワイと意見を出しあう生徒達。

 そんな中、シャルロットはある違和感に気づく。


「あら? ウルリカはどこへ行ったのかしら?」


「そう言われれば、ウルリカ様はどこに……あっ、あそこにいます!」


 オリヴィアは小屋の方を指差す。

 小屋の前には、一人ポツンとウルリカ様が立っている。


「ウルリカさんは一人でなにを……?」


「ワタクシ、なんだか嫌な予感ですわ……」


「さて、ヴィクトリア先生に言われた通り、改造をはじめるのじゃ~」


 上機嫌に独り言を呟きながら、バッと両手を広げるウルリカ様。

 次の瞬間、濃密な魔力を立ちのぼらせる。


「ウルリカ様、待って──」


 慌てて止めようとするオリヴィア。

 しかし時すでに遅く、ウルリカ様の口から魔法の言葉が紡がれる。

 そして──。


「──創造魔法、デモクラフト──!」


 渦を巻く大量の魔力。

 密度を増した魔力は、次第にその形を変化させる。


 石の壁、木の柱、ガラスの窓、机や椅子、本棚、教卓。

 さらには広々とした調理場や、豪華なティーテーブル、訓練に使う器具など、様々なものを作り出す。


 そうして作られたものは、宙を舞い空高く積みあがっていく。

 ボロ小屋は一瞬にして、見あげるほどの巨大な塔へと姿を変える。

 あっという間の出来事だ。


「うむ! 完成じゃ!!」


 全員あっけにとられる中、一人満足そうなウルリカ様。

 ヴィクトリア女王は、混乱しながらもなんとか頭を落ちつける。


「ふぅ……えっと、ウルリカちゃん? これは一体なにかしら?」


「ヴィクトリア先生に言われた通りにしたのじゃ! 『教室の改造をはじめましょう』と言っておったからのう、改造してみたのじゃ!」


「た……確かに言ったわね。それで、どういう風に改造してくれたのかしら?」


 ヴィクトリア女王からの質問に、ウルリカ様はもの凄い答えを返す。


「創造魔法を使ったのじゃ! みんなの意見を全部実現した教室じゃ!」


「「「「「「「全部!?」」」」」」」


「そうじゃ、“みんなの希望全部乗せ教室”じゃな! せっかく考えたのじゃ、それも楽しいものばかりなのじゃ。どれかを選ぶのはもったいないのじゃ!」


 そう言って、自信満々に塔を見あげるウルリカ様。

 流石のヴィクトリア女王も、ウルリカ様の常識外れっぷりに驚いてしまっている。


「ウルリカちゃん……凄すぎるわね……」


「褒められたのじゃ! 嬉しいのじゃ、ヴィクトリア先生!!」


「え、えぇ……よかったわ」


 ピョーンと飛んで喜ぶウルリカ様。

 こうして下級クラスの初授業は、とんでもない大改造で終わりを迎えるのだった。

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