第33話 真祖回帰

「仕方なイ……真の恐怖ヲ見せテヤる……」


 黒い霧をかき分けて、ブラムはゆっくりと姿を現す。


「なっ、あの姿は一体なんですの!?」


 ギラリと光る真っ赤な目。

 白く不気味に染まった髪。

 青白く変色した肌は、表面をドス黒い血管に覆われている。


 別人のようなブラムの姿が、そこにはあった。


「そんな、腕が再生しています!」


「凄まじい魔力です! シャルロット様、リヴィ、私の後ろへ!」


「ヒヒヒッ……コレぞ吸血鬼ノ最終奥義、“真祖回帰”ダ……」


「真祖回帰?」


「吸血鬼の真祖様ニ祈リを捧げるコトで、原初ノ能力を呼ビ覚ますこトガ出来るのダ! 傷は全て癒エ、力と魔力ハ爆発的に増大スる!」


 小刻みに震える体。片言の話し方。

 ブラムの様子は、明らかに尋常ではない。


「これデお前達に勝ち目はなクなっタ!」


 霧へと変化したブラムは、ヌルリと闇に紛れ込む。

 次の瞬間、ナターシャの目の前に実体となって現れる。


「ハアァ……くらエ、魔爪!!」


 今までと比べて数倍の速度、数倍の長さで繰り出される魔爪。

 とっさに防御するナターシャ。しかし、大きく体勢を崩される。


「くぅっ、強い!」


「ヒヒヒッ、隙だらケだゾ!」


 両手を使い、魔爪の連撃を放つブラム。

 ナターシャは必死に応戦するが、体のあちこちを切り裂かれてしまう。


「あうぅっ」


「ヒヒヒィッ!」


 再び体を霧へと変化させるブラム。

 闇に紛れて、今度はオリヴィアの背後に迫る。

 一早く気づいたシャルロットは、とっさに魔法を放つ。


「炎よ!」


「小癪な!」


 放たれた炎魔法は、あっけなく火の粉となって消えていく。

 真祖回帰によって強化されたブラムは、炎魔法を素手で振り払ってしまったのだ。


「すみません、油断しました!」


「想定以上の力です、このままでは……痛ぅ……」


「サーシャ、酷い怪我……すぐに治癒魔法をかけます!」


「私は大丈夫! リヴィは敵から目を逸らさないで!!」


「でも! サーシャをこのまま放っておくことは出来ません!」


 ブラムの猛攻を受け、オリヴィアとナターシャは混乱状態だ。

 そんな中、一人冷静なシャルロット。


「二人とも落ちついて! 特訓を思い出すのよ!」


 シャルロットの言葉で、「はっ」とするオリヴィアとナターシャ。


「この程度の吸血鬼、大したことないわ! ウルリカはもっと強かったでしょう!!」


「「はい!」」


「まだ勝機はありますわ! いきますわよ!!」


 落ちついて気合いを入れ直す三人。陣形を整えてブラムと対峙する。

 対するブラムは、真祖回帰によってさらに魔力を上昇させていく。


「ヒヒヒッ……そロそろ遊びの時間は終わリダ!」


 闇夜に紛れて繰り出される、魔爪による激しい連撃。

 ナターシャの防御をくぐり抜けて、三人の体を徐々に切り裂いていく。


「少シはやるかト思ったが……所詮はコの程度カ、ザコ共メ!」


 オリヴィアの治癒魔法も、シャルロットの炎魔法も、素早い動きでかわされてしまう。

 徐々に追い詰められていく三人。その体に、痛々しい切り傷が増えていく。


「力も覚悟もナイ小娘共め、なブり殺しニシてヤろう!!」


「きゃあぁっ!?」


 激しい戦いの最中、ナターシャの悲鳴が響き渡る。

 魔爪によって、太ももを串刺しにされたのだ。

 倒れ込むナターシャへ、ブラムの魔爪が迫る。


「まズは一匹だ!!」


「させません!」


 ナターシャをかばい、オリヴィアはブラムへと立ち向う。

 しかし、戦いの傷に加えて魔法の連続使用により、オリヴィアもフラフラの状態だ。


「ヒヒヒッ! まとメて殺シてやル!!」


「そうはいきませんわ!」


 今度はシャルロットが、オリヴィアとナターシャの前に立つ。


「「シャルロット様!?」」


「二人はワタクシが守りますわ!!」


「ヒヒィッ! 愚かナ小娘ダァ!」


 ブラムに向かって杖を構えるシャルロット。

 その瞳に恐怖の色はない、強い意志が宿っている。


 しかし、ブラムはすでにシャルロットの目の前だ。

 シャルロットの顔面へ目掛けて、ブラムの魔爪が突き出され。

 そして──。


「そこまでじゃ!」


 目を見開くシャルロット。

 その瞳に、頼れる小さな背中が映る。


 そこには、学生服に身を包んだ、魔王様の姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る