第29話 シャルロットの覚悟

「ウルリカ様が吸血鬼? まさか……」


「そんなっ、信じられません……」


 ゼノン王から事の経緯を聞いた、オリヴィアとナターシャ。

 二人とも驚きのあまり、ポカーンと固まってしまっている。

 一方のウルリカ様は、椅子に座って足をパタパタ、いつも通りのマイペースだ。


「リヴィにも言っておらんかったかのう? 妾は吸血鬼の真祖なのじゃ」


「「真祖……」」


「そういうことは早くに教えてほしいものですわ」


「うむ、今後は気をつけるのじゃ!」


 元気よく返事をするウルリカ様、分かっているのかいないのか。

 ゼノン王は呆れながらも、吸血鬼の件へと話を戻す。


「さてウルリカよ、いくつか聞きたいことがある」


「ふむ、なんじゃろうな?」


「まず、城内に他の吸血鬼はいるか?」


「気配を感じぬ、今はおらんのじゃ」


「ならば城下はどうだ? 分かるか?」


 目をつぶって人差し指を立てるウルリカ様。

 探知魔法を発動しているのである。


「うむ……おるのじゃ……しかし場所はハッキリせん……恐らく霧になっておるのじゃな」


「やはり城下にも潜んでいるのか……」


「学園に現れた吸血鬼でしょうな、忌々しいですな」


「一刻も早く対応をしなくてはなりません、討伐部隊の編成を──」


「待てルードルフ」


 立ちあがろうとしたルードルフを、ゼノン王は手で制する。

 そして、ウルリカ様へと視線を移す。


「ウルリカよ、先ほど話した吸血鬼事件、被害者は学園の教師なのだ……」


「そうなのか?」


「あぁ、犯人である吸血鬼を捕まえるまでは、学園を休校にしなくてはならないのだ……」


「そうなのか……なに!?」


「このままだと、お前も学園には通えない……」


「なんと!」


「吸血鬼であるウルリカに頼るのはおかしな話だが、吸血鬼を捕らえるために、力を貸してはくれないだろうか?」


「もちろんなのじゃ! では早速──」


「待ってウルリカ」


 立ちあがろうとするウルリカ様を、シャルロットが止める。


「ウルリカが本当に吸血鬼だとしたら、同族の吸血鬼を敵にしなくてはいけないのよ?」


「妾はそんなこと気にせんのじゃ」


「ウルリカは気にしなくても、ワタクシは気にしますの。友達であるウルリカに、そんなことさせたくありませんわ!」


 シャルロットはゼノン王へと視線を移す。

 意思のこもった強い瞳だ。


「ならばシャルロットよ、どうするというのだ?」


 一瞬沈黙するシャルロット。そして、堂々と胸を張って答える。


「ワタクシが囮になって、吸血鬼を捕まえますわ!」


「「「はあぁっ!?」」」


「シャルロット! 馬鹿なことを言うな!!」


「シャルロット姫様、それはあまりにも危険ですよ?」


「推奨しかねますな……」


 ゼノン王、ルードルフ、ノイマン学長は、次々とシャルロットを止めようとする。

 しかしシャルロットの意思は揺らがない。

 チラリとウルリカ様を見て、三人の方へと向きなおる。


「以前ある人から教えられましたの、民を守るのは王族の務めであると」


 ハッとするオリヴィアとナターシャ。

 入学試験でのウルリカ様の言葉を思い出しているのだ。


「国民に危機が迫っています、そしてワタクシは王族です。王族として、国民を守りたいのです!」


「「私も! 私もシャルロット様と一緒に戦います!!」」


 手をあげたのは、オリヴィアとナターシャである。

 息ピッタリな二人に、今度はシャルロットが大慌てた。


「あなた達、なにを言いだすの!」


「「友達を助けるのは当然です!」」


「あなた達……」


 シャルロットの目から、ポロポロと涙が零れ落ちる。


「うむ! 分かったのじゃ、お主等の好きにするとよいのじゃ!!」


 ウルリカ様の言葉で、今度はゼノン王が慌てだす。

 椅子から立ちあがり、ウルリカ様へと詰め寄る。


「待てウルリカ、勝手に決められては──」


「心配するなゼノンよ、なにかあっても妾が助ける。妾も友達なのじゃ、友達を危険な目にはあわさんのじゃ」


 ニッコリと笑うウルリカ様。

 ゼノン王の迫力も、ウルリカ様にはまったく通用しない。


「く……しかし……」


「娘を信じてやるのじゃ」


 固まったままじっと考え込むゼノン王。

 しばらくすると、「はぁ」と息を吐いて、ドカリと椅子に腰かける。


「……分かった……」


「お父様っ、許していただけるのですか!」


「ああ、お前に吸血鬼の討伐を任せる。これ以上の被害者は出すな、王族として国民を守ってみせろ!」


「はい!」


「そして、お前自身のこともしっかり守れ! 友達を悲しませることは絶対にするなよ」


「もちろんですわ!!」


 ゼノン王はウルリカ様の方へと視線を移す。

 信頼と不安の入り混じった表情を浮かべている。


「ウルリカよ、娘達を必ず守れ、必ずだ!」


「当然なのじゃ! 妾は魔王じゃ、これ以上の護衛はないじゃろう?」


「ああ、そうだったな……」


「うむ! 任せておくのじゃ」


 シャルロット、オリヴィア、ナターシャの三人は、覚悟とやる気で胸いっぱいだ。

 心配で頭を抱えるゼノン王。ルードルフとノイマン学長も深いため息をついている。

 そして、いつも通り笑顔でマーペースなウルリカ様。


 こうして、異例の吸血鬼狩りが幕を開けるのだった。

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