第14話 小さな救援

「グルオオォッ!!」


「くうぅっ……!」


 爪を振り回し、暴れ回るレッサードラゴン。

 逃げるシャルロット王女は、泥だらけでボロボロだ。


「炎よ!」


 必死に逃げながら、杖をかかげるシャルロット王女。


「炎よ! 出なさい、炎よ!!」


 杖の先端がチカチカと点滅する。

 しかし、魔法が発動する気配はない。


「どうして? どうして魔法が使えないの!?」


 思うように魔法を使えず、慌てて木の陰に避難する。

 杖を見たシャルロット王女は、驚きで言葉を失う。


「なに……これ……?」


 黒く濁った宝石、醜くゆがんだ金色の細工。

 美しかった杖は、見る影もなくボロボロだ。

 シャルロット王女の脳裏に、ウルリカ様の言葉がよぎる。


「粗悪品……まさか本当に……?」


 呆然とするシャルロット王女、その背中に衝撃が走る。


「グオォンッ!」


「きゃあっ!」


 レッサードラゴンの体当たりによって、隠れていた木をへし折られたのだ。

 倒れるシャルロット王女へと、レッサードラゴンが襲いかかる。

 その時──。


「シャルロット様、危ない!」


 声とともに、小さな影が飛び込んでくる。


「ナターシャ! どうして!?」


 飛び込んできたのは、ナターシャだ。

 スラリと剣を抜くと、レッサードラゴンの前に立つ。


「シャルロット様を置いて逃げるなんて、そんなこと出来ません!」


「ナターシャ……」


「ドラゴンは私が引きつけます、シャルロット様は安全なところへお逃げください!」


「そんなっ、ムチャよ!」


 慌てて止めようとするシャルロット王女。

 しかしナターシャは、レッサードラゴンの方へと駆け出してしまう。


「こっちです! 私が相手です!!」


「グォ? グルオォ!!」


 爪を振り回すレッサードラゴン、しかしナターシャには届かない。

 軽やかなステップでかわし、時には剣で受け流す。

 ダメージを最小限におさえる、見事な戦い方だ。


「そこです!」


「グオオオォォッ!?」


 一瞬のスキを突き、ナターシャのカウンターが決まる。

 レッサードラゴンの首元から、赤い血が吹きあがる。


「やったわ! 凄いわナターシャ!!」


「まだです、この程度では──」


「グオオァッ!!」


 大きく開かれる口、その中でメラメラと燃えあがる炎。

 レッサードラゴンの口から、炎のブレスが吐き出される

 撒き散らされる炎の一部が、シャルロット王女へと襲いかかる。


「きゃあぁっ!?」


「シャルロット様!!」


 ナターシャはシャルロット王女を抱きかかえ、間一髪よけることに成功する。

 しかし、よけたはずのナターシャが、倒れたまま動かない。


「う……ぐぅ……」


「ナターシャ! そんなっ……」


 ボロボロの姿で横たわるナターシャ。

 シャルロット王女をかばって、全身にダメージを受けたのだ。


「シャルロット……様……早く……逃げて……」


 傷だらけのナターシャは、健気にもシャルロット王女を心配している。

 シャルロット王女の瞳から、ポロリと涙がこぼれ落ちる。


「ダメよ……ナターシャ……死んではダメ……」


 シャルロット王女は小さく呟く。

 そして、ナターシャの剣を拾いあげ、レッサードラゴンの前に立つ。


「ワタクシが相手よ!!」


「シャルロット……様……」


 震える手で、必死に剣を構えるシャルロット王女。

 しかし、レッサードラゴンにとっては、ただのエサである。


「グオオオォッ!!」


 レッサードラゴンの大きな顎が迫りくる。

 「ひぃっ」と悲鳴をあげて、ギュっと目をつぶるシャルロット王女。

 その時──。


「そこまでじゃ!」


 突然の可愛らしい声。

 そして、ズシンッという重い音。

 シャルロット王女は、恐る恐る目を開ける。

 その瞳に、レッサードラゴンを食い止める、小さな背中が映る。


「あなたは……!」


「うむ、間に合ったようじゃな」


 そこには、小さな魔王様の姿があった。

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