法術概論Ⅳ ー法術思念体 ”Thaumaturgy Throughform”ー

法術施行を発表したのはHrSSOの解散後に新たなに国連の関連機関として設立された【法術管理機関”TMO”】であった。


TMOはHrSSOの失敗を改め、国連の関連機関ではあるが運営委員を大統領、首相など各国のリーダーが務めることとなり、研究者も領域のオピニオンが参加することとなった。


法術を積極的に社会と経済に取り入れることで人類の多様性を高め、来たるべき世界の変革に備えるべきだ。


彼らの主張は批判を受けながらもその真摯な行為と言動が世界に認められ始める。


そして、TMOは設立後、法術施行研究における大きな成果を発表。


私たち人間の細胞内には”プエナティス”という最小微生物が存在しており、プエナティスがマナをエネルギーとして消費することで人体内外を問わず非科学的現象を発生させることができるということがわかったのである。


プエナティスは全人類の細胞内に存在していているが、出生した時点でその数は決定していると言われている。

(この発表には未だ賛否両論あり、母親の子宮内で受精した際に決定されるのか、はたまたヒトとしての形になった際に決定されるのかは未だに不明のままだ・・・)


また、プエナティスにはマナを消費し、非科学的現象を発生させることができない個体もあり、プエナティス総数が多いからといって法術施行ができるというわけではないことも分かっている。


法術が使えるか使えないかは神のみぞ知るってやつだ。


TMOは近い将来、法術をインターネットのように誰もが汎用できるものとしてデータ化を目的に人類すべての遺伝子にIDの発行と義務化を立案。


各国の行政機関において管理とIDの保管の実施を指示した。


これによりどの国の誰がどの法術を使えるのかが管理できるようになり、法術施行者もそうでない者にも日常が担保されるものとなった。


さらにIDの発行により法術施行による犯罪は抑制化の予兆を見せ始めた。


人類が法術の実用化に向け、動き始めた頃、世界に衝撃が走る。


それは全世界に配信されたTMOの会見。





カメラの前に立つ一人の男。


10代半ばだろうか。


褐色の肌に会見用のスーツを着せられ、周りをきょろきょろとしてやや緊張しているように見える。


「みなさん、初めまして。私はザナ。ザナ・オトトルゴ。


サラマンダーに祝福を受けた人間です。」


そう言うと彼の後ろに野球ボールくらいの火の玉がぼうっと現れ、それはだんだんと竜のような形になっていく。


どよめく会場内。


「怖がらないで。サラマンダーはみなさんに危害は加えません。」


それから彼は同席したTMO局長と共に自分がTMOに協力している経緯、サラマンダーと呼んでいる生き物みたいな炎、法術施行者へのメッセージを訴えた。


記者の質問を遮るようにTMO局長はこう話す。


「我々はザナ氏と共にいるこのサラマンダーのように”意思を持つ法術現象を―法術思念体 Thaumaturgy Throughform(略称:ソーム)―と呼ぶことにした。”」


ソームと呼ばれる彼らは法術施行者を”祝福”することで自らが持つ力を譲渡できるという。


人間と意思疎通も可能でザナ氏はサラマンダーと会話することもできるらしく


祝福を受けた人間は法術施行能力が格段に向上して身体能力の向上もみられるそうだ。


サラマンダーとは古くから伝わるお馴染みの精霊でもあるである。


しかし、ザナ氏以外に祝福を受けている人間がいるのか、


ソームはいつから存在しているのか、などの記者からの質問は回答されることなく会見は終了した。


ザナ氏は時の人となり、神聖化やフェイクだなどの意見が当時のメディアを賑わせコメンテーター達の話題に出ないことはなかったが、結局その後は表舞台に現れることはなくだんだんと人々の記憶から忘れられていった。



ソームとは一体何なのか?


私たちが答えに辿りつけない中、


世界は法術産業の時代に突入する。





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