法術概論Ⅱ ー災害と予兆ー
先生が講義室の空調や照明などを管理していると思われるフロートタブレットを指でトトトンと操作すると、窓が暗転し照明も少し暗くなる。
「それでは始めます。2020年9月、地球の大気圏上に突然、二つの隕石が現れました。」
私はフロートパネルに何枚かに当時の写真を映し出しながら説明を始めた。
2020年9月13日、二つの隕石は何の前触れもなく地球を挟んで対角線上に大気圏上に現れ、寸分も動かず浮遊状態を維持した。
国連は太平洋上に浮遊する隕石を『イクスィー』、対面する隕石を『スアー』と呼称し、各国の首脳も交え衝突回避の対策会議が昼夜行われ、核搭載弾道ミサイルでの破壊などの対策案が出されたが、隕石爆散後の被害予測不明や秘密裏に核を保有していた国が露呈するなど有効的な手段は見つからず世界は人類の滅亡を受け入れ始めていた。
2020年9月16日、突如として移動を開始したイクスィーとスアーは時速70マイルで導きあうかのように互いの距離を縮め始める。
人類滅亡までのカウントダウンがテレビやインターネットで映し出されたカオスの世界。
1分前。
イクスィーとスアーは淡い発光状態となりその後、衝突。
地球はイクスィーとスアーが衝突の際に放った淡い光に覆われる。
イクシィーとスアーの大半は非常に小さな結晶となり、地表に降り注いだ。
それはパウダースノーのような幻想的な現象だった。
その光景は多くの写真家がデジタルフィルムに収めており、世界遺産や各地パワースポットと呼ばれる場所での写真は未だに高価で取引をされているほどだ。
イクシィーとスアーの残った欠片は様々な大きさだったが、地球上の物理現象を無視し非常に緩やかな速度で落下していった。
結果的に人類は滅亡を免れ、この脅威が関係する一連の事件の被害者を除き災害事態の死亡者は全世界で9346名に留まる。
この出来事以降、世界は大きく変わっていく。
延焼範囲半径1メートル以内の火災、竜巻による一家屋のみの全壊、高層ビル群に崩落としか考えられない落石など超限定的範囲で不可解な自然災害の発生が続いた。
そして、私たちはその現象が自分たち人間の手によって行われていることを知ることになる。
当時、投稿動画共有をメインサービスとしたソーシャルネットワーキングサービス”SNS”に非科学的現象による殺人動画が投稿されたのだ。
どの国かは定かではないが、肌の色や話す言語、景色などから恐らく南米だろうか。
町の中央で張り付けにされた男がその町のリーダーと思われる男が呪文のような叫び声を発した後、張り付けにされた男が一瞬の内に炎に包まれる。
炭化する男の体。
歓声を上げる民衆。
映像の終盤にカメラに向かって何かを繰り返し呼びかけるリーダー。
同じ町で撮影された動画が他に2つ投稿されたが、いずれの映像からも加工や修正の痕跡は証明できなかった。
この映像が世界に拡散された後、多くの動画投稿サイトやSNSに世界各地で人間が非科学的現象を意図的に起こしている映像が投稿され始める。
また、原因が特定できない自然災害や立証できない事件と事故も多発し、私たちは何か見えない力によって世界が変貌を遂げる予兆のような恐怖を抱くようになっていった。
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