第203話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その49

 そして、郁人がいつも通り、郁人様親衛隊の三人娘を連れて教室に向かっていると、男子生徒が何やら、コソコソと話して、ニヤニヤと郁人達を見て笑っているのである。そして、気まずそうな女子生徒達が、郁人達の事を見て、視線を露骨に逸らすのである。


 やはり、何かいつもと違うと感じる郁人だが、まぁ、何か言われるのはいつもの事かと、スルーするのだが、郁人様親衛隊の三人娘は、周りを威圧するのである。


 特に、親衛隊の最終兵器おかっぱ娘の、ハイライトオフの、テメェ○ろすぞと言う視線には、露骨に恐怖の表情を浮かべて黙る生徒達なのである。


 郁人は、そんな威圧感を放ちまくる郁人様親衛隊三人娘の扱いに困った表情を浮かべながら、とりあえず、放置するのであった。


「確かに、なんか様子が変だったな……結局、どんな噂が流れてるんだ?」


 1組教室に入ると、郁人は教室にすでにいる生徒に一斉に見られたので、見返すと、すぐに気まずそうに視線を逸らすクラスメイト達なのである。その中には、朝練に参加していただろう、サッカー部山本と野球部佐城の姿もあるのであった。疑問顔で、自分の席に向かい、いつもなら、すぐに自分達の席に向かう郁人様親衛隊も、郁人の後を追ってついて来て、郁人は席に座ると、何故か気まずそうな教室内を見まわしながらそう尋ねるのである。


「そ、それがですね……昨日の練習だけでなく、私達が屋上で練習していたことも何故か、バレていまして」

「不快にも、そのことで、尊い郁人様とわたくし達に対して……こ、これ以上はわたくしの口からは言えませんわ」

「い、一生郁人様推しである私が……我々1組に対して、隠れて練習するなど必死すぎなど、馬鹿にしたようなことを宣う輩が出てきております……つまり、戦争ですね!!」


 言葉を濁す二人と違って、はっきりとそう言うおかっぱ娘は、瞳に怒りの炎を宿して、今にも本当に戦争を始めそうな勢いに、郁人は苦笑いなのである。


「なるほどな……それで、今日は少し様子が変だったのか……まぁ、でも、気にしなくてもいいだろ……俺達は、俺達でいつも通り練習すればいいだろ」


 郁人はそう言うと、そう言えば、いつもなら、ゆるふわ宏美がすぐに来るはずなのに、今日はいないことに気がつくのである。


「いえ、そういう訳にもいきません……この噂を広めた犯人を突き止めねばなりません」

「ええ、尊い郁人様を悪く言う噂など……許してはおけませんわ!!」

「一生郁人様推しの私が、すぐに犯人を地獄送りにしてあげますから、安心してください!!」


 そして、親衛隊の三人娘は、ニコニコ笑顔で、サッカー部山本と、野球部佐城の元に向かうのであった。







 そして、まだ教室に居ないゆるふわ宏美は、朝から美月ちゃんファンクラブの部室で、美月と浩二と話をしていたのである。


「マジですまねーぜ!! 細田!!」

「ひろみん!! 本当にごめんなさい」


 華麗な土下座を披露する浩二と、頭を下げる美月に、乾いたゆるふわ笑みを浮かべるゆるふわ宏美なのである。


「だだだだだ、大丈夫ですよ~……こ、こうなる事も予想して~、永田さんに協力したわけですからね~、き、気にしないで大丈夫ですよ~……ほ、本当ですからね~」


 カタカタと全身を恐怖で震えながら、絶望のゆるふわ笑みを浮かべながらも、必死にそう強がるゆるふわ宏美なのである。


 朝に、美月と一緒に登校すると、もうすでに、学校では、1組のリレーの練習の噂は広まっており、1組必死すぎるとか、コソコソ練習するのはダサいとか、どうせ負けるのに馬鹿な奴らなどと、言いたい放題で、さらには、美月の方も、そんな1組相手に警戒しすぎとか、無理やり練習に参加させようとしているとか、女王様気取りで仕切ってるなど、悪い噂が女子生徒の間で流れているのであった。


「い、今は1組の事は置いておきましょうよ~……こっちは、い、郁人様が何とかしてくれますから~……美月さんや、永田さんの悪い噂の方を何とかした方が良いかもしれませんね~」

「……わりぃ……細田……もう、犯人はだいたいわかってる……陸上部の奴らと……政宗だと思うぜ」


 まだ、カタカタと恐怖で震えるゆるふわ宏美は、なんとか、普段のゆるふわ笑みを浮かべながら、そう言うと、浩二は、はっきりと犯人の名前を口にするのであった。


「……ですよね~……1組にダメージを与えながら~、美月さんの人気も落とせるとなると~、陸上部女子生徒二人にとっては利点しかないですよね~……覇道さんともう一人の方はどうなのでしょうか~?」


 ゆるふわ宏美は、陸上部女子メンバー二人が、覇道派なのはすでに知っており、あまり郁人派を快く思っていないことも知っているので、納得なのだが、他の二人はなぜ、こんな、噂を流すのか、理由に心当たりがないので、浩二に尋ねるのである。


「……単純に僕に対しての嫌がらせと……たぶんだけど、美月ちゃんにも、謝罪させたいんだろーぜ……政宗と、あいつも……プライドがたけーから……これは、僕が何とかする……ただ、美月ちゃんの方と……1組の方が……」

「私は別に大丈夫……今までも、色々言われてたし、全然気にしないから問題ないよ……それに、ひろみんには悪いけど……郁人がこの噂で、不利になってくれれば、私としてはその方がいいしね」

「み、美月ちゃん!?」


 浩二がゆるふわ宏美にそう説明して、政宗と陸上部男子はなんとかすると豪語するが、1組と美月の噂は浩二では何ともできないので、ゆるふわ宏美に頼ろうとするが、美月がすぐに、そう言うと、ゆるふわ宏美の方を見て、冷たくそう言うのである。


 美月の、普段とは違った様子に、驚く浩二と、ゆるふわ笑みを崩さないゆるふわ宏美なのである。


「1組の事は気にしなくて大丈夫ですよ~……郁人様がたぶん、何とかしますからね~」

「……ひろみん……ひろみんにお願いがあるんだよ」


 ジッとゆるふわ宏美の事を見つめる美月に、そう返答するゆるふわ宏美に、目を瞑って、何かを考えた後に、もう一度ゆるふわ宏美の瞳を真直ぐに見つめて、美月はそう言い放つのである。


「お願いですか~? 何ですかね~……わたしぃに出来ることなら協力しますよ~」

「……ひろみん……リレーだけどね……私の味方になってほしい」

「……それは~……つまり~、わたしぃにわざと遅く走って欲しいってことですか~?」

「……うん」


 ゆるふわ宏美も、真直ぐに美月の瞳を、見ながら、そう言うと、美月も負けずにゆるふわ宏美の瞳を真直ぐに見て、そうお願いすると、美月が濁したお願いの内容を、ゆるふわ笑みを浮かべながら、はっきり口にするゆるふわ宏美の瞳から、視線を逸らしてしまう美月は俯きながら、コクンと頷くのである。


「……それは、わたしぃに郁人様を裏切れってことですか?」


 しばらく、ゆるふわ笑みを浮かべながら、沈黙していたゆるふわ宏美が、急に無表情になって、ゆるふわ口調を捨てて、美月に冷ややかな視線を向けて、冷たく問うのである。そのゆるふわ宏美の豹変ぶりに、美月と浩二は驚きの表情と、恐怖を感じるのであった。


「ち、違うよ!! これは、郁人のためなんだよ!! ひろみんだって、わかってるでしょ!! 郁人が何をしようとしてるのか!! その結果、どうなってしまうのか!! だから、私が勝って郁人を止めないと!!」

「……」


 冷たい表情のゆるふわ宏美に、美月は必死にそう言って、ゆるふわ宏美を説得しようとするが、ゆるふわ宏美は無言なのである。一人だけ事情を知らない浩二だけが、取り残されて困惑しているのであった。


「だから、私が……郁人に勝てば……郁人だって……」

「そうですか~……美月さん……すみませんけど~、お断りしますね~」


 美月が俯いてそうゆるふわ宏美にすがるような声でそう言うと、ゆるふわ宏美は、いつものゆるふわ笑みを浮かべて、いつものように、ゆるふわ口調ではっきりとお断り宣言をするのであった。


「え!?」


 そんな、ゆるふわ宏美に戸惑いの声をあげる美月は、悲痛の面持ちで、ゆるふわ宏美を見ているのである。


「美月さんが郁人様にリレーで勝てばどうなるんですか~? 正直言いますけど~……どうにもなりませんよ~……今の美月さんの状況は変わりませんし~、別に郁人様がリレーに負けたからって、作戦の変更は必要かもしれませんが~、少しだけ実行が遅れるだけですよ~」

「……そ、それは……」

「それに~、今のではっきりわかりました~……美月さん、全部郁人様に任せておけばいいんですよ~……そうすれば~、絶対に全て上手くやってくれますよ~……そう、あの時みたいにですよ~」


 ゆるふわ宏美は、美月にそう悲しい現実を突きつけると、美月は何も言えなくなってしまい、そんな美月に、ゆるふわ宏美は止めとばかりに、ゆるふわ笑みを浮かべて、そう言うのである。


 ゆるふわ宏美の発言で、美月は目を見開き、驚くと、絶望の表情を浮かべて、ただ、立ち尽くすことしか出来ないのであった。

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