第200話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その45

「あ、朝宮……ど、どうして……こ、ここに……」


 浩二が、政宗に胸倉をつかまれ喉を締められながら、郁人の方を見て苦しそうにそう言うと、郁人は呆れながら、二人に近づくのである。


「い、郁人!? ど、どうしてここに居るの!?」

「美月……まぁ、色々あってな……おい、覇道……永田を放してやれ……これ以上、騒ぎを起こすと、風紀委員権限で、反省文だぞ」

「……貴様には関係ないだろ!! これは、俺達の問題だ」

「関係なくはないだろ……今から、俺達もここで、リレーの練習をするんだからな……さすがに近くで喧嘩されていたら、風紀委員として見過ごせないし、普通に迷惑だ」


 そう言いながら、浩二と政宗に近づく郁人を睨みつける政宗は、舌打ちをすると、浩二を突き飛ばして、解放するのである。


「いってぇ!! テメェ、いい加減にしろよ!!」

「敵に庇ってもらう貴様など……もはや、友でもない……美月に二度と近づけさせん!!」

「んだと……政宗……テメェこそ、偽物幼馴染の癖によく言いやがるぜ!!」


 突き飛ばされた浩二は、地面に尻餅をついて、そう怒鳴りながら、政宗を睨んで、すぐに立ち上がるのである。そんな浩二を失望した瞳で見つめて、怒鳴って、そう言い放つ政宗に、激昂して詰め寄りながらついに、政宗に言ってはいけないことを言ってしまう浩二なのである。


「なんだと……浩二…貴様っ!!」

「ああん!! やんのかっ!! この嘘つき野郎が!!」

「ちょっと、ふ、二人とも落ち着いて!!」


 もちろん、そう言われて、政宗は、顔を歪めて怒り狂うのである。浩二も、もはや、頭に血が上っており、完全に怒りで我を忘れているのである。


 そんな、二人を止めようと美月が、声をあげるが、もはや、美月の声など、二人には届いていないのである。二人は拳を振り上げて、駆け出し、お互いの顔面目掛け振りかぶるのである。


「こうじぃぃぃ!!」

「まさむねぇぇぇ!!」


 刹那の瞬間、郁人が二人の間に素早く割って入り、左手で浩二の、右手で政宗の振り下ろした拳を受け止め、一瞬で二人の腕を掴んで、二人を同時に転ばして、腕を締めあげて、地面に押さえつけるのである。


「ぐっ!! き、貴様!!」

「いてぇ!! マジでいてぇぜ!!」


 完全に地面に押さえつけられ、無力化された政宗と浩二がそう言うが、郁人は二人の腕を締めあげて、押さえつける手を緩める気はないのである。その光景を見ていた郁人様親衛隊から歓声が上がるのである。


「さ、さすがは郁人様です!!」

「郁人様……尊いですよわ…本日は体調が優れないはずなのに……二人の殿方を一瞬で制圧してしまうなど……さすがですわ!!」

「い、郁人様!! 一生推します!! その強さに私は感激しました!! 私では、二人を気絶させなければ制圧はできません……それを、片手で拘束するなんて……」


 後から来た郁人様親衛隊が、つい先ほどの郁人の勇姿を目の当たりにして、恍惚の表情を浮かべながら、そう賛美の声をあげるのである。そして、その隣に梨緒とゆるふわ宏美もおり、心配そうな表情をしているのである。


「いいから、大人しくしてろ……美月!! クラスの担任を呼んできてくれ……後は先生達に任せよう」

「あ……う、うん…わ、わかった!!」


 呆然と眺めていた美月が、郁人にそう言われて、ハッとなって、慌てて、駆け出して、職員室に向かうのである。


(い、郁人はやっぱり凄いよ……私じゃ二人を止めることはできなかった……やっぱり、私じゃダメなのかな)


 駆け出した美月の瞳から涙がこぼれて、頬を伝い風に乗って宙に舞うのであった。







「貴様!! あさみやぁぁぁぁ!! この俺を!! よくもっ!!」

「いいから、大人しくしろ!!」


 郁人は怒り狂い暴れだそうとする政宗を、体重をかけて、地面に押し付けて無力化して、浩二の方は大人しく、地面に倒れ伏しているので、とりあえず、腕を締めて、地面に軽く押さえつけるだけにしているのである。


「い、郁人様大丈夫ですか~!? も、物凄い暴れてますけど~!!」

「郁人君、私…誰か呼んでこようかぁ?」


 ゆるふわ宏美と梨緒が郁人の元に駆け寄り心配そうにそう声をかけるのである。


「ああ、大丈夫だ……美月に7組の担任を呼んでもらったからな……とりあえず、来るまでは何とか抑えておく」

「郁人様……一生郁人様推しのこの私が……うるさいコイツの息の根……止めましょうか?」


 郁人はそう言いながら、暴れる政宗を必死に押さえつけるのである。浩二の方は大人しくしているため、政宗の方に力を集中できる郁人に、郁人様親衛隊の三人娘も心配そうに駆け寄ると、おかっぱ戦闘娘が、政宗の事をゴミでも見るような蔑んだ瞳で見ながら、そう提案するのである。


「……いや、それはダメだろ……大丈夫だから、みんなはストレッチでもしていてくれ」


 郁人に満面な笑みを見せて、ご命令があればすぐにでも始末しますと、待機しているおかっぱ娘の提案を、郁人は、困った表情で却下すると、皆にそう指示を出すのである。


心配そうな梨緒だったが、郁人にそう言われて、じゃあ、先に準備運動してるねぇと言って、リレーメンバーのゆるふわ宏美と梨緒とおかっぱ娘は素直に準備運動を始めて、残り二人の親衛隊は郁人の近くで何かあっても大丈夫なように待機するのであった。


「お、おい……こ、これどういう状況だよ!?」

「あ……朝宮!? お前何やってんの!?」


 そして、遅れてやって来た1組リレーメンバーの男子二人は、男一人で、男二人を地面に押さえつける郁人にそう驚き声をかけるのである。


「いや……すまない……この二人が殴り合いの喧嘩を始めようとしたからな……とりあえず、取り押さえた」

「とりあえず、取り押さえたって……朝宮……お前すげぇーな」

「な、永田と覇道を一人で押さえるとか……マジで何者だよ……お前」


 まだ、逃れようと暴れる政宗を喋りながら、地面に押さえつける郁人にドン引きなサッカー部山本と野球部佐城なのであった。そして、男子二人も、梨緒から、とりあえず、私達は準備運動をしていようかぁと言って、二人を連れて行くのであった。


「なぁ……朝宮……僕だけでも解放してくれ……マジで腕がそろそろ痺れてきてやべーんだけどよ」

「もう少し大人しくしてろ……たく……ゆるふわが心配した通りの展開になったな」


 郁人がそうぼそりと独り言を呟くと、浩二はそれを聞いて、すべてを察して、ゆるふわ宏美に感謝するのである。


(細田……まさか、こうなるかもって心配して手を打ってくれてたのかよ!? さすが、細田だぜ……ああ、マジで腕が……感覚失くなってきたぜ……さようならだぜ……僕の利き手)


 浩二は、郁人の独り言から、ゆるふわ宏美が自分達を心配して、ここで練習することを提案してくれたのだと考えて、さすゆると、ゆるふわ宏美を心の中で称えるのだが、本当に腕が限界な浩二は心の中で、自分の利き手に別れを告げるのであった。


 そして、美月が7組の担任の男性教諭を呼んできてくれて、最初は何事かと驚きの声をあげるが、郁人と梨緒が冷静に7組の担任に事情を話して、とりあえず、二人の拘束を解く郁人に、政宗はゆっくり立ち上がり、物凄い形相で郁人を睨みつけるのである。


「朝宮……絶対にこの恨みは忘れないからな!!」


 そう言う覇道を、7組担任は叱りつけると、政宗と浩二を引っ張って職員室に連れて行くのである。そして、美月も7組の担任の先生について行くのであった。結局、美月のやったことと言えば、担任の先生を呼ぶことだけで、連れてきた後も、郁人と梨緒が事情を説明している間も、黙って見ていることしか出来なかった美月なのである。


「夜桜……本当にお前は……生徒会に入ったから大丈夫と思っていたが……また、問題を起こして」


 浩二と政宗を逃がさないように引っ張る担任の先生に、後をついてくる美月の方に顔だけ振り向いて、そう言うと、落ち込んでいた美月は、驚きの表情を浮かべて、え? 私が悪いのと思う美月なのであった。







 そして、美月達から事情を聴いて呆れる担任の男子教諭は、今時珍しくたばこを吸いながら、作文用紙を三人分机の引き出しから取り出して、今日中に反省文を書くようにと言うのであった。


 それを受け取り、職員室からぺこりとお辞儀をして退出する美月と、その後ろから、納得のいかないと言う表情の政宗と、疲れた表情で腕をさすさすとさすっている浩二がついてくるのである。


「……浩二……俺は貴様も許してはいないからな……美月…君も、誰が正しいかをきちんと考えるべきだ」

「ああん……テメェまた、センコーに怒られて―のか!!」

「二人とも、喧嘩はやめて!! 今度は反省文じゃすまなくなるよ!!」


 また、険悪なムードになる中、美月がそう言って、政宗と浩二の間に割って入るのである。浩二は、美月にそう言われて、渋々押し黙るが、政宗は、やはり、先ほどの浩二の発言が許せないらしく、まだ、浩二の事を睨んでいるのである。


 そして、美月は更衣室に向かい制服に着替えに向かうのである。その間、険悪な浩二と政宗が男子更衣室に二人で向かったため、心配になるのであった。








「浩二……君には本当に失望した……朝宮に取り押さえられて、抵抗もせず、大人しくしているなど……しかも、俺の事を美月の幼馴染なんかじゃないなどと…難癖をつける始末だ……浩二……君こそ、美月をたぶらかす悪い男なんじゃないのかい」

「……あの時は、仕方ねーだろ……二人で暴れて、もっと話をややこしくしたかったのかよ……後、その言葉はそのまま、政宗……テメェに返すぜ……美月ちゃんと本当に幼馴染って言うなら……美月ちゃんの気持ち……考えてやれって、本気で美月ちゃんはリレーの練習がしたいんだ……政宗、何でふざけたことするんだ? 最近の政宗……テメェはおかしいぞ」

「……貴様には関係ないことだ……後、リレーのメンバーの空気を悪くしたのは、間違いなく、浩二……そして、美月の責任だ……これで、負けたら二人の責任だ……それはどう考えてるんだい?」

「はぁ……なんだそれ!?」


 更衣室で着替える二人はそう言って口論するのだが、政宗の言い分に納得のいかない浩二なのである。


「あからさまに、陸上部の三人はやる気をなくし、俺もやる気をなくした……浩二、貴様がそうさせたんだ……まぁ……貴様が俺達四人に頭を下げるなら……また、練習に付き合うことも考えなくはないさ……明日まで考えておいてくれ……」

「んだと……政宗…テメェ!!」


 そう言って、更衣室から先に出て行く政宗を睨む浩二は、ロッカーをバタンッと勢いよく閉めて、イライラしながら更衣室を後にするのであった。

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