第158話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その3

 郁人はドッと疲れた表情で、夕暮れに染まった道をトボトボ歩いて、学校から家に帰る途中で、交差点の信号待ちをしていた美月を見つけて、声をかけるのである。


「美月……今帰りか?」

「あ……郁人……」

「どうした? 美月……元気ないみたいだが…」

「郁人こそ……どうしたの? 物凄く疲れてるみたいだけど…」


 美月は、大好きな郁人の声に反応して、振り向いて、ジッと、郁人の顔を見ながら、名前を呼ぶのだが、どこか元気がない様子の美月を心配する郁人も、やはり、風紀委員長に、長時間愚痴を聞かされ、疲れた様子なのである。


「風紀委員でな……風紀委員長の愚痴を延々と聞かされてな」

「そうなんだ……それは…大変そうだね……愚痴って…生徒会長の事とか?」

「ああ……そうだけど…よくわかったな」


 信号は青に変わり、もはや郁人も美月も無意識で、恋人繋ぎで手をつないで、歩き出しながら会話をする二人なのである。


「やっぱり……ねぇ……郁人、私、生徒会長って…風紀委員長の事好きだと思うんだけど…風紀委員長はどうなのかな?」

「生徒会長が!? そうなのか? 風紀委員長は……どうだろうな」

「でも、興味のない相手の愚痴何て、そんな、長々と話したりしないよ……たぶん、風紀委員長も生徒会長の事…好きなんだよ」


 美月がそう確信した表情で言うので、郁人は少し考えると、なるほどと納得するのである。


「そう言われると……そうかもな」

「そうだよ」

「で……美月の方は何で元気なさそうだったんだ?」

「そ、それは……せ、生徒会の仕事がね……忙しくてだよ」


 美月にそう言われて、納得した郁人だが、正直、風紀委員長が誰を好きだろうとどうでもいい郁人は、美月の元気がない理由の方が気になるのであるが、その話題を出すと不自然にキョドる美月は、郁人から視線を逸らして、誤魔化すようにそう言うのである。


「……そうか……美月、よく頑張ってるな」

「い、郁人!?」


 郁人は足を止めて、美月の頭を撫でながら、そう褒めると、美月は驚きながらも、郁人に頭を撫でられる美月は満足そうな表情なのである。


「……さて、早く帰るか」

「え!? もうやめちゃうの!?」

「どうした? 美月?」

「あ…ううん!! 何でもないよ!! さぁ、早く帰ろうよ!! 今日なら、少しは郁人の部屋で遊べるよ!!」


 すぐに頭を撫でるのをやめて、そう言う郁人に、ボソッと驚きの声をあげる美月に、疑問顔の郁人なのである。美月は、もう少し頭を撫でて欲しいなど、恥ずかしくて言える訳もなく、必死に誤魔化して、郁人の手を力いっぱい握り締めて、そう言って歩き出すのであった。


(やっぱり、郁人……普段通りだ……やっぱり、私の思い過ごしだったみたいでよかったよ)


 そう、美月の元気がなかった理由は、郁人の表情だったのだ。郁人が、心配そうに美月を見つめるたびに、あの時の郁人が幻の様に見えてきて、美月はとても不安になるのである。


 そう、美月を見つめる郁人の姿が、あの時の郁人とどうしても重なって見える美月は、今、郁人に弱音を吐く訳にはいかないのである。


(でも、大丈夫だよね……あの時とは……今はもう…私達……ただの幼馴染じゃなくて、恋人同士だし……大丈夫だよね……今度は、私が……)


 郁人の横顔を、盗み見ながら美月は、不安な心を落ち着かせるのである。


「どうした? 美月?」

「え!? な、なんでもないよ!! 郁人!!」

「そうか……いや、なんでもなくはないだろ、今……俺の事見てただろ?」

「み、見てないよ!! 郁人の気のせいだよ!!」



 郁人は、美月の視線に気がついて、美月の方を見ると、視線がバッチリ合ったことが恥ずかしかったのか、気まずかったのか、美月は顔を赤くして伏せるのである。そんな、美月を揶揄う郁人に、美月は、真っ赤になって否定しだすのである。


「懐かしいな……昔、美月……よくそんなこと言ってたよな」

「し、知らいない!! 覚えてないよ!!」


 笑顔でそう言う郁人から、顔を逸らして、真っ赤になって、誤魔化す美月なのである。もちろん、知らないはずも、覚えてないはずもなく、昔の自分の話をされて恥ずかしい美月なのである。


「美月…いつも俺の後ろをついて来ていて……振り向くと、いつも慌てた様子の美月が可愛くって…わざと歩き回ったりしたな」

「な…い、郁人!! そ、そんなことしてたの!? よ、よく郁人どこかに行くなって思ってたけど…あれって、ワザとだったの!?」

「あれ……美月、覚えてなかったんじゃないのか?」


 郁人がそう言うと、美月は目を見開いて、驚いた様子でそう郁人を問い詰めるが、その美月の発言に、ニヤッと笑う郁人なのである。


「な!? い、郁人!? 郁人、意地悪だよ!!」

「そうか? そうかもな……昔から、そうだったかもな」

「なななな!!」


 不満顔で、郁人を責める美月に、やはり意地悪そうな笑みを浮かべてそう言う郁人に、目を見開いて、さらに驚きの表情を浮かべる美月なのである。


「美月は本当に…揶揄うと、昔から可愛かったよな……今も、全く昔と同じ表情してるしな」

「むむむむ~!! い、郁人の馬鹿……もう、怒ったからね!!」

「美月…怒ったのか?」

「怒ったよ!! プンプンなんだからね!!」

「そうか……じゃあ、今日はもう、美月は俺の部屋には来てくれないのか…そうか…」

「な!! そ、それは…行くよ!! 何があっても、郁人の部屋には行くよ!! でも、私は怒ってるんだよ!!」

「そうか……やっぱり、怒ってるのか…怒ってるのに…俺の部屋に美月・・・来てくれるんだな」

「く…うっ……うううう~」


 美月は、郁人に揶揄われると唸り声をあげながら、わなわなと悔しそうに震えるのである。


「悪い、悪い…俺が悪かったな……美月、だから、そんなにムクれるなよな」

「そ、そんな頭を撫でても、許さないんだからね!!」

「そうか……じゃあ、撫でるのやめようか」

「い、郁人!! また、私を揶揄おうとして!! 本当に許さないんだからね!!」

「はいはい、本当に美月は可愛いな」


 頬を膨らませていじける美月の頭を撫でる郁人は、またも、そう言って、美月を揶揄うと、さらに頬を膨らませる美月の頬を突っ突く郁人なのである。


「むううううう~!!」

「なんだ、美月・・・本当に美月は可愛いな」


 美月は、郁人が頬を突っ突くと、負けずと、必死に頬を膨らませる美月が、可愛くて、さらに強く突っ突くと、さらに息をためて頬を膨らませる美月の顔は真っ赤なのである。


(美月……やっぱり、何か感づいているみたいだな……注意しないとな)


 必死な美月の表情を見て、郁人はそんなことを考えるのである。そう、郁人もまた、美月に昔の面影を感じて、必死に誤魔化すのである。


(美月に悟られるわけにはいかないからな)


 息を止めすぎて、ケホケホと咽る美月を、見ながら、郁人は必死に笑顔を浮かべて、美月に悟られまいとするのである。


 あの時と同じように、郁人は自分の決意を胸に秘めて、一人ですべてを解決するために、必死に美月にバレないように誤魔化す郁人は、息を整えてジッと、いじけた目で見つめてくる美月に、微笑みを浮かべるのであった。

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