第94話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その19

 そう言って、話を終らせようとしたゆるふわ宏美に、郁人が、そう言えば、ゆるふわは何と勘違いしていたんだと話を蒸し返したことにより、この後、二人に悲劇が起きるのである。


「い、いくとさまぁ~!! それは忘れてくださいよ~!!」

「いや…気になるだろ…ゆるふわ……美月の事、実は何と思っていたのか」


 結局、郁人が気になるのは美月の事なのである。ゆるふわ宏美が、美月の事をどう思っているのかが気になる郁人は、先ほどの、自分の勘違いを思い出して、恥ずかしさで、顔を紅潮させているゆるふわ宏美に、詰め寄り問い詰めるのである。


「な、なんでもありませんって~!! 忘れてください~!!」

「いや…美月の事…あっちの人って言ってたよな? あっちの人って、どういうことだ?」


 必死に忘れてとお願いするゆるふわ宏美を壁際に追い詰める郁人なのである。ジッとゆるふわ宏美を見つめて、問い詰める郁人に、あまりの恥ずかしで、顔が真っ赤で涙目なゆるふわ宏美なのである。


「だ、だから…そ、それはですね~……や、やっぱり言えませんよ~!! 一生のお願いです~!! 忘れてくださいよ~!!」


 モジモジ、しながら、何かを言おうとして、やっぱり、言えないゆるふわ宏美は、必死に郁人に頼み込むのである。しかし、郁人は、ジッとゆるふわ宏美を疑惑の眼差しで、ジッと見つめて無言の圧で問い詰める。


「……い、言えませんよ~!! 絶対に言いませんからね~!!」

「ゆるふわ……正直に言ってくれ…お前は…どう思ってるんだ?」


 郁人は、壁ドンして、ゆるふわ宏美に、美月の事をどう思っているのかと尋ねるのである。ゆるふわ宏美も、顔を真っ赤にして、視線を泳がせながら、モジモジすると照れるのである。


「……き、嫌いではないですよ~…ど、どちらかと言えば好きですよ~……な、なので、今さっきの事は忘れてくださいよ~!!」


 恥ずかしそうに、美月の事は好きだと口にするゆるふわ宏美に、微笑み納得する郁人なのである。心の中で、よかったな美月と安心する郁人なのである。


 だが、そんな二人のやり取りを部室の扉を少しだけ開いて、隙間から、ジッと髪を逆立てながら、瞳ハイライトオフの最恐ヤンデレモードで見ている人物がいるのである。圧倒的な闇の波動を放つ梨緒に全く気がつかない郁人と宏美なのである。


「とととと、とにかくですね~……このことは美月さんには内緒ですよ~!!」

「ああ…わかった」


 そして、ゆるふわ宏美がフッと扉の方を何気なく見たことにより、冷や汗がダラダラで、先ほどの紅潮していた宏美の顔は、顔面蒼白になり、ガタガタと恐怖に震えるのである。


「おい? どうしたんだ? ゆるふわ……そんな、お化けでも見たみたいな表情し…て……」


 そう疑問を口にしながら、ゆるふわ宏美の視線の方を見る郁人は、全てを悟り、冷や汗が流れてくるのである。梨緒の方を見て、完全にメデューサに睨まれたごとく固まる郁人と宏美を瞬きすら忘れて、ハイライトオフの瞳でジーっと見ているのである。


「りりりりりりりり、梨緒さん~!? どどどどどどど、どうしたんですか~!?」


 たまらずに、ゆるふわ宏美は、梨緒に話しかけてしまうのである。物凄く、動揺しているゆるふわ宏美なのである。


「……ひ…ろ…み…ち…ゃ…ん……」


 扉をゆっくり開きながら、ゆらゆらと左右に体を揺らして、ゆっくり部室内に侵入する梨緒は、完全にホラーである。短い悲鳴をあげるゆるふわ宏美はカタカタと震えて、郁人の袖を握り締めるが、その行為が、さらに、梨緒のヤンデレ化を加速させるのである。


「…なにしているのかなぁ?」


 ぎゅっと、郁人の袖を握り締める、ゆるふわ宏美の手をジッと見つめながら、ヤンデレボイスでそう言う梨緒に、さらに恐怖するゆるふわ宏美は、郁人の袖を力いっぱい握り締めるのである。


「お…おい…ゆ、ゆるふわ…やめろ…シワになるだろ」


 郁人は、そう言って、ゆるふわ宏美を引きはがしにかかるのである。郁人的に、梨緒が怒っているから離れろではなく、シワになるから離れろな辺りが、郁人なのであった。


「……二人とも…そんなに、私を怒らせてぇ…フフフフ、私…煽られているのかなぁ?」

「いいいいい、いえ~!! そんなつもりは微塵にも、全く、一切ございませんよ~!!」


 そう言って、両手で、郁人の袖を握り締め、ゆるふわ宏美に引っ張られる郁人は、物凄く迷惑そうなのである。その様子が、梨緒から見たら、イチャついているようにしか見えないのである。


「……フフフ、そっかぁ…ひ、ろ、み、ちゃん…じゃあ、戦争だねぇ」

「ひぃぃぃぃぃ、郁人様助けてくださいよ~!!」


 恐怖の帝国の皇帝のような梨緒の宣戦布告に、弱小国の一般市民のような悲鳴をあげて、助けを求めるゆるふわ宏美から、視線を逸らして、知らぬ存ぜぬな郁人なのである。


「ねぇ…ひ、ろ、み、ちゃん…何が、夜桜さんに秘密なのかぁ…私に教えてくれないかなぁ?」

「い、いやぁぁぁあぁぁぁ~!! 誰か助けてください~!! いくとさまぁぁぁ~!!」


 退路を断たれるゆるふわ宏美は、恐怖の涙目で必死に助けを求めるのだが、誰も助けてはくれないのである。郁人も完全に、ゆるふわ宏美に、南無~と両手を合わせて見捨てる気満々なのである。


「ひ、ろ、み、ちゃん?」


 圧倒的な梨緒の圧に、おろおろと涙目で、必死に許しを乞うゆるふわ宏美なのであった。







 そして、そんな中、美月は、教室で不機嫌に、窓の外を眺めていると、教室に戻ってきた政宗と浩二に話しかけられるのである。


「美月…その…浩二の事だが…悪気があったわけじゃないないらしいんだ…許してあげてくれないか?」

「美月ちゃん…すまねぇ…この通りだ許してくれ!!」


 浩二は、必死に頭を下げて、美月に許しを乞うのである。そんな浩二をチラリと冷たい絶対零度の瞳で見た後、やはり、窓の外を眺めるのである。


「美月…俺からも、頼む…浩二を許してやってくれ……彼なりの思いやりなんだ」


 政宗も美月に頭を下げるのである。周りの女子生徒から、ヒソヒソ話と、美月に対して怒りの視線を向けられるが、美月は全く気にしないのである。


「……やめてよね…私が悪者みたいだよね…それ…だいたい、悪気がなかったら、何を言っても許されると思っていたら大間違いだよ…私、言ったよね? 絶対に許さないって…もう、この話は終わりだから…覇道君も、この話…蒸し返したら、許さないからね」


 美月の今までない冷たい雰囲気に、さすがの政宗も息を呑み、これ以上は何も言えなくなるのであった。


(……郁人に会いたいな…ていうか…会いに行けば良いよね? そうだよ…今までだって、普通に会いに行ってたよね? 最近がおかしかったんだよ…もう、この二人とか、学校の生徒との関係とかどうでもいいよ)


 美月は、そう考えて、無言で立ち上がり、教室を出て行こうとするのだが、さすがに浩二が止めに入るのである。


「美月ちゃん!! どこに行く気なんだよ?」


 止めに入る、浩二を無視して、教室を出ようとする美月の前に、サッと立塞がる浩二なのである。無言で睨む美月を必死で止めようする浩二なのである。


 この瞬間、美月の中での、浩二の好感度は、さらに悪化して、もはや、修復不可能なほど美月との関係を悪化させてしまう浩二なのであった。

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