第61話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、ゆるふわサブヒロインと一緒にお弁当が食べたい。 その9

 美月は、ニコニコ笑顔の上機嫌モードで、政宗や浩二それに、美月ファンクラブメンバーの男子生徒達を引き連れて(勝手についてきて)、食堂に向かうのである。高校に入って未だかつて、美月が、イケメン二人の前でここまで上機嫌になったことなどないのである。


「美月? 今日は機嫌がいいけど…なにかあったのかい?」


 疑問に思ったのか、険しい表情を浮かべていた政宗が、美月の機嫌がいいことに気がつき、イケメンスマイルで、美月の顔を覗き込んで尋ねるのである。


「別に、覇道君には関係ないよね?」


 美月は、露骨に嫌な顔をして、そっぽを向くのである。その様子を、険しい表情で見ている浩二率いる美月ファンクラブメンバーである。食堂にたどりついて、浩二は、美月ファンクラブメンバーの男子生徒達の方を見て、拳をあげるのである。


「いいか、お前ら…あの、朝宮の野郎が、食堂にカチコミに来やがるらしいぜ…ここが、俺達のシマってこと、朝宮の野郎にわからしてやろうぜ!!」

『おおおぉぉぉ!!』


 浩二とファンクラブメンバーが盛り上がる中、美月はニコニコ笑顔に戻り、食堂に入り、政宗は美月の後を追うのである。


 このファンクラブメンバーの雄叫びは、今、食堂に赴く郁人達の所にも聞こえてきたのである。あからさまに、恐怖で震える宏美に、疑問顔の郁人と梨緒である。


(まずいですよ~…い、郁人様が今日…食堂に乗り込むことになっちゃてますよ~…もし、これが、郁人様に知られたら…まずいですよ~!!)


 心の中で焦りまくる宏美は、郁人の方を不安気に見ると、その視線に気がついた郁人は、震える宏美の肩を叩いて、こう言うのである。


「諦めろ、ゆるふわ…俺達はただ、弁当を食べて帰ればいいだけだ…前も食堂で一緒に食べただろ…あの時と同じだ」

「…いくとさまぁ~」


 その郁人の発言に、不安の声をあげる宏美の様子を、ハイライトが消えた瞳で見つめて、聞いていた梨緒が、宏美の方をジッと見るのである。


「へぇ~…郁人君と宏美ちゃん…二人で食堂行ったことあるんだぁ…ふ~ん…そうなんだねぇ」


 ぼそりとヤンデレボイスでそう呟く梨緒の発言は、ばっちり、郁人と宏美にも聞こえていたので、とりあえず、知らんぷりを決め込む二人は、早足になって、食堂に向かうのであった。






 食堂の前にたどり着く郁人達の前に、浩二率いる美月ファンクラブメンバーの男子生徒達が立ちはだかるのである。扉をがっちりガードしている浩二達に、何をしているんだと疑問顔の郁人と梨緒に、宏美は冷や汗ダラダラでそっぽを向くのである。


「朝宮…来たか…わりぃがここは通さないぜ」


 そう疑問顔の郁人を睨んで、そう言い放つ浩二に、やはり疑問顔の郁人である。なぜ男子生徒達に睨まれているのか理解できない郁人に、ニコニコ笑顔で、梨緒は男子生徒達を見るのである。


「ねぇ…食堂は、学校のみんなの場所だよねぇ…どうして、郁人君が通れないのかなぁ?」


 清楚笑顔を浮かべているが、間違いなく怒っているとわかる梨緒の様子に、美月ファンクラブメンバーに動揺が走り、浩二も、後ずさりするのである。


「…先に宣戦布告してきたのは、朝宮…お前の方だろ!!」


 梨緒の放つ圧に、何とか耐えて、郁人に向けて指をさし、そう言い放つ浩二に、やはり首を傾げる郁人である。


 郁人は、腕を組んで考え込む、そんな郁人を見つめる梨緒に、宏美は、顔を背けて縮こまるのである。


「いや…全く記憶にないんだが…お前なんの話をしているんだ?」


 考えた結果、郁人は全く身に覚えがなかったため、逆に浩二に聞き返すのである。


「朝宮…てめぇ…しらばくれてんじゃねーぞ!」


 全く身に覚えがないという態度の郁人に、激怒する浩二に、賛同するように怒り出す美月ファンクラブの男子生徒達である。


「そう言われてもな…何か知ってるか?」


 郁人は、ゆるふわ宏美と梨緒の方を見て、尋ねると、梨緒は首を知らないと左右に振るが、あからさまにゆるふわ宏美は、動揺しているので、ジッと宏美を疑惑の表情で見る郁人に、首を必至に左右に振るゆるふわ宏美である。


「おい…細田…てめぇが休み時間に朝宮の伝言伝えに来たんじゃねーか!!」


 浩二が、ゆるふわ宏美を睨みつけそう言い放つと、冷や汗ダラダラで、超縮こまる宏美を、郁人がギロリと睨むのである。


「朝宮…お前が、細田を使って、食堂で食べるから、今日はよそで食べろと喧嘩売ってきたんだろ」

「そうか…そうか…わかった…すまないが…少し待っていてくれないか」


 怒り狂う浩二と男子生徒達にそう言い放つ郁人は、ニッコリ笑って、宏美の前に立つのである。


「ゆるふわ…詳しく話を聞こうかな」

「い、いえ~…と、とくにわたしぃから、お話しすることはありませんよ~」


 郁人から、視線を逸らして、冷や汗ダラダラで、誤魔化すゆる宏美である。


「そうか…じゃあ、ゆるふわ…とりあえず、お前が、あいつら説得してこい」

「な、なんでわたしぃが~!?」

「いいから…行ってこいゆるふわ」


 郁人は、そう言って、ゆるふわ宏美を無理やり、浩二たちの前に突き出すのである。宏美は、ゆるふわ笑顔を浮かべて、怒っている浩二たちと対峙する。


「あの~…よ、よくわからないのですが~…と、とりあえず~…食堂に入れてもらえないですかね~?」

「てめぇ、細田…休み時間の時とはずいぶん態度が違うじゃねーか!?」

「な、なんのことですか~!? い、言いがかりはよくないですよ~…な、仲良くしましょうよ~」


 あからさまに動揺するゆるふわ宏美を、ニコニコ笑顔で見つめる梨緒と、邪悪な笑みを浮かべる郁人である。


「あ、あ、あ、あのですね~…と、とにかくですね~!! そこを通してくださいよ~!!」


 もう、開き直って、浩二にそう勢いよく言い放つゆるふわ宏美に、あからさまに機嫌が悪くなる浩二である。


「わりぃがここは通さねーって、細田…てめぇが宣戦布告してきたんだろーが!!」

「な、なんのことか~…ちょっと、わかりませんね~」


 誤魔化す宏美に、郁人は近づくのである。そして、ニッコリ笑う郁人に、冷や汗ダラダラな宏美である。恐怖に顔が引きつるのである。


「ゆるふわ…お前が、この事態を巻き起こしたんだな」

「い、いえ~…ち、違いますよ~」


 ブンブン顔を振って、必死に否定するゆるふわ宏美の顔をつかむ郁人である。


「イッタァ~! 痛いですよ~!! いくとさまぁ~!! 頭が割れます~!! 許してくださぁい~!! ごめんなさいですよ~!!」


 ゆるふわ宏美にアイアンクローをかます郁人である。無言のアイアンクローに必死に謝るゆるふわ宏美である。


「全く、ゆるふわ…お前は…」


 郁人のアイアンクローから、解放されたゆるふわ宏美は、頭を抱えて涙目で、酷いですよ~郁人様ぁ~と非難の声をあげるのである。そんな宏美に呆れた表情を浮かべる郁人に、ニッコリ笑顔の梨緒が二人の間に割って入るのである。


「郁人君…宏美ちゃんの事は許してあげて…後で私が、きちんと言い聞かせておくからねぇ」


 そうニコニコ笑顔で言い放つ梨緒に恐怖の表情を浮かべるゆるふわ宏美である。そんな、やり取りをしていると、食堂の中から、声が聞こえてくるのである。


「美月、行ってはいけない!! 待つんだ、美月!!」


 政宗の制止を振り切って、美月が、食堂から出てくるのである。浩二とファンクラブ一同が、驚愕の表情を浮かべるのである。


「み、美月ちゃん!! 食堂から出てきたらダメだろ!!」


 ニコニコ笑顔で、食堂から出てきた美月は、郁人と宏美を見て、最高の上機嫌になるのである。


「あ…い、郁人とひろみん…食堂で今日は食べるの…じゃあ、仲良くみんな一緒に食べようよ」


 しらじらしい棒読みでそう言う美月に、注目が集まる中、ゆるふわ宏美は、冷や汗ダラダラである。


「そ、そうだな…ゆるふわ…せっかくだし、みんなで食べるか…な…ゆるふわ」

「い、いえ~わたしぃは…遠慮し…」


 郁人が、ゆるふわ宏美に邪悪な笑みを浮かべて圧を放つ、郁人が意味深に、手をグーパーしているのを見て、宏美は、ゆるふわ笑顔を浮かべるのである。


「そ、そうですね~…き、奇遇ですね~…折角ですから~…み、皆さんでお昼にしましょうか~」


 そんな三文芝居を繰り広げる三人に、疑惑の視線が集中するのである。そして、食堂の中から政宗が出てくるのである。


「美月…それはダメだ…朝宮と一緒にご飯など食べてはいけない…そんな最低な奴と一緒の食卓につくなどありえない」


 政宗が、そう美月に言うと、美月はムッとするのだが、それ以上に怒りの炎をともす人物がいた。


「…今…なんて言ったのかなぁ…ごめんねぇ…聞こえなかったんだけど…フフフ、まさかと思うけど…郁人君の悪口を言ったりしてないよねぇ?」

「…ああ、その通りだ…朝宮郁人は最低な人間だ…すまないが、事実を述べて怒られる筋合いなどない」


 政宗は、ハイライトオフで静かに怒る梨緒にそうはっきり言い放つのである。


「そっかぁ…なるほど…私の聞き間違いじゃなかったんだねぇ…そうなんだぁ…ふ~ん…まぁ、仕方ないよねぇ…郁人君に嫉妬してるんだよねぇ…許してあげるよぉ…仕方ないよねぇ…郁人君の悪口言わないと、プライドが保てなさそうなぁ…残念そうな人だもんねぇ」


 笑顔で、そう政宗を挑発する梨緒に、一同沈黙するのである。正直、郁人と宏美は、恐怖で震えるのである。


「なんだと……悪いが…朝宮の女に何を言われても、気にはならない…所詮貴様も、残念な女という事だ…朝宮みたいな人間に騙される哀れな女だ」


 政宗が、そう梨緒に言い返すのを聞いて、ゆるふわ宏美は思うのである。じゃあ、美月さんも哀れな人間になりますよ~と、しかし、声にはださない宏美である。


「…あ~、そっかぁ…うん、なるほどねぇ…もしかしてぇ…本気で郁人君に嫉妬しているのかなぁ…ごめんねぇ…あ、でも…気にしたらダメだよぉ…だって、郁人君に全て劣っているのは仕方ないことだからねぇ…うん…少し、顔がいいからってぇ、勘違いしちゃったんだねぇ」


 睨む合う梨緒と正宗の間にバチバチと火花が散るのである。さすがの美月も驚きのあまり固まっているのである。


「ゆ、ゆるふわ…と、とりあえず…べ、弁当食べるか?」

「い、郁人様ぁ~!! 今の状況で何を言っているんですか~!?」


 郁人は、今のうちに、食堂の中に入って、席を確保しようと宏美に提案するが、その驚愕の提案に、ドン引きなゆるふわ宏美である。しかし、確かに、梨緒と政宗に注目が集まっている今なら、食堂に入れそうではあったのである。


「よし…行くぞゆるふわ…今のうちに、席を確保するぞ」

「わ、わかりました~!! 行きましょう~郁人様ぁ~!!」


 郁人と宏美は、走って食堂の中に入り、急いで席を確保ししようとするのであった。梨緒と政宗は、激しく口論を繰り広げており、浩二達も、その様子を見ているため、郁人達の行動に気がつかないでいた。そんな中、美月だけが、郁人達の行動に気がついたのであった。

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