第53話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、ゆるふわサブヒロインと一緒にお弁当が食べたい。 その1

 郁人様握手会が開かれた、次の日の朝の出来事である。学校に登校するにあたって、毎朝の恒例となっているゆるふわ宏美との待ち合わせの場所に向かう郁人と美月である。


「おはようございます~、郁人様と美月さん」


 ゆるふわ笑顔を浮かべて、待ち合わせ場所で待っていたゆるふわ宏美が、恋人繋ぎで歩いてくる郁人と美月に挨拶する。


「ひろみん、おはよう!!」

「おはよう…あ…ゆるふわ…今日は、お前に渡すものがある」


 美月は、ゆるふわ宏美に抱き着くのである。やめてください~と嫌がるゆるふわ宏美である。そんな、美月と宏美を無視して、郁人は、自分のカバンから、宏美に渡したいものを取り出すのである。


「ほら、昨日の礼だ…美月が世話になったからな」


 そう言って、美月に抱き着かれながら、郁人に疑問顔を浮かべるゆるふわ宏美に、お弁当を渡す郁人である。


「えっと…これはお弁当ですか~?」

「ああ…俺の手作りだ…味は…まぁ、不味くはないと思うが…期待はしないでくれな」

「ええ~!! 郁人のお弁当は最高に美味しいよ!! よかったね!! ひろみん!!」


 郁人にそう言われて、わなわなと震えだすゆるふわ宏美である。


「い、郁人様…な、なんてもの渡すんですか~!! 郁人様、このお弁当一つで戦争が起きますよ~!!」

「ゆるふわ…お前は何を言ってるんだ!?」

「ひろみん…どうしたの? 大丈夫だよ…郁人のお弁当は美味しいよ」


 あまりに危険なモノを受け取ってしまったと恐怖に震える宏美に、呆れる郁人と、疑問顔の美月である。


「何を言ってるんですか~!? これがどれだけ危険なモノだと思ってるんですか~!? わたしぃには、みんなの前で、これを食べる勇気はありませんよ~!!」

「それなんだけどね…ひろみん!! 今日は一緒にお昼ご飯食べようよ!!」


 美月に抱き着かれながら、恐怖の表情でお弁当を見つめるゆるふわ宏美に、ニッコリ笑顔でそう提案する美月である。ギギギと、ロボットのような動きで、顔を美月の方に向けるゆるふわ宏美である。


「な、なにを言ってるんですか~!? わたしぃに死ねって言うんですか~!! 美月さんのファンクラブの方達に囲まれて~、郁人様のお弁当を食べるなんて、死にに行くみたいなものですよ~!!」

「大丈夫だよ…今日は、三人でお弁当食べようよ」


 美月の衝撃発言に、目を見開き、口を半開きの驚きの表情で、美月を見つめるゆるふわ宏美である。


「そうだな…高校に入って、美月とお昼に、弁当を一緒に食べれてないしな」


 郁人は、腕を組んで、うんうんと首を縦に振って、美月の意見に賛成の様子である。一人ゆるふわ宏美だけが、驚きの表情のまま固まっていたが、ハッと現実に戻ってきた様子で、わなわなと、体を震わせるのである。


「な、なにを言ってるんですか~!! 無理に決まってるじゃないですか~!!」


 この二人は、本当に何を言ってるんだと思うゆるふあ宏美である。そんな宏美の態度に、首を傾げて疑問顔の郁人と美月である。


「大丈夫だよ…ただ、三人でお弁当食べるだけだよ」

「ああ…ほら、ゆるふわも、俺達と友達って言ってくれただろ…ただ、友人同士で弁当を食べるだけなら、問題ないだろ?」

「いえ、いえ、いえ、いえ、大、大、大問題ですよ~!! お二人とも、自分が、学園のアイドルだと理解してるんですか~!?」


 宏美は、美月の抱きつき拘束から、逃れて、両腕をブンブン振って、郁人と美月に説教するのである。そんな、ゆるふわ宏美を見て、やはり、首を傾げる郁人と美月である。


「いや…正直、全く理解できないんだが」

「うん…全然、理解できないよ」


 郁人と美月は、顔を見合わせて、なぁ、ねぇと二人で同調しあうのである。そんな、二人に、頭を抱えて、呆れるゆるふわ宏美である。


「わたしぃ、言いましたよね~…学校では、お二人はなるべくかかわらない方がいいと~、いいですか~? お二人は、学園で超人気者なんですよ~!! 学園にファンクラブがあるほどなんですよ~」

「それは、ゆるふわが作ったからだろ?」

「そうそう、私も、永田君に勝手に作られただけだしね」


 やはり、郁人と美月は顔を見合わせて、なぁ、ねぇと同調しあう二人である。まさに、ソウルリンクである。


「たしかに、郁人様のファンクラブは、わたしぃが作りましたが~…いいですか~? 本当に人気がなければファンクラブに人は集まらないんですよ~!! お二人の人気があるから、ファンクラブがあるんですよ~!!」


 宏美の必死な説明にも、首を傾げ疑問顔の郁人と美月である。二人とも納得がいってないようである。


「それにですね~…郁人様は、梨緒さんを…美月さんは、覇道さんと永田さんはどうするんですか~!? 絶対に納得してくれないと思いますよ~」


 その発言に、郁人と美月は同時ににやりと笑みを浮かべるのである。そんな二人に、首を傾げるゆるふわ宏美である。なぜか嫌な予感がするのである。


「大丈夫だ…昨日、俺と美月で考えた完璧な作戦がある」

「うん…本当は三人で食べたかったけど…それが出来ないなら、みんなで食べれば問題ないよね」


 ドヤ顔でそう言い放つ美月に、郁人は頷くのである。そんな、二人に対して驚愕の表情を浮かべるゆるふわ宏美である。まさか、まさかと思う宏美は、恐る恐る二人に訊ねるのである。


「まさかと思いますが~? わたしぃ達と、梨緒さんと、覇道さんと、永田さんでお昼を一緒に食べるとか言いませんよね~」


 嫌な予感がする宏美は、引きつったゆるふわ笑顔を浮かべて、郁人と美月にまさかそんな恐ろしいこと考えて無いですよね~と確認するのである。そんな、宏美に、にやりと最高の笑みを浮かべる郁人と美月は、親指を立てて、右腕を宏美に突き出す。


「ゆるふわ、その通りだ」

「ひろみん、その通りだよ」


 あまりの馬鹿な郁人と美月の考えに、絶句するゆるふわ宏美である。完璧な作戦だと、ノリノリな郁人と美月に対して、絶望の底に突き落とされた気分のゆるふわ宏美は、乾いた笑みを浮かべるのであった。

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