第27話ギャルゲの主人公は、乙女ゲーのヒロインと一緒にお弁当が食べたい。

 さて、逆ハーメンバー入りを宣言した郁人も、ハーレムメンバー入りを宣言した美月も、お互いの教室に行きたいのだが、お互い妨害のせいで、結局、昼休みまで、なんの行動も取れていなかった。


 結局、スマホで二人は、やり取りをするが、お互い、ハーレムや逆ハーの話は出せずにいたのである。結局ヘタレな二人であった。しかし、お互い、ライバルから、負けない宣言を受けて、焦ってはいるのである。


 そして、お互い、お昼の誘いの連絡を入れ合うのである。そして、お互い了承の返事をする。


 ここに、一緒にお弁当を食べたい作戦が再び実行に移されるのである。






 郁人は、スマホで美月に昼食の誘いの了承をもらえたので、早く美月のところに行きたいのであるが、やはり、宏美と梨緒が邪魔なのである。とくに、梨緒の本日の防衛力は凄まじく、郁人も困り果てているのである。


(どうにかして、二人を振り切って、美月のところに行かないと…たしか、昨日は食堂で食べてたとか言ってたな)


 とにかく食堂に向かおうとした郁人の元に、やはり、ゆるふわ宏美と清楚な梨緒が現れた。


「郁人様、では、今日も屋上でお昼ですよ~」

「郁人君、一緒にお昼ご飯食べよう」

「……」


 ニコニコ笑顔の宏美と清楚笑顔の梨緒を、郁人は一瞥して、ため息をこぼす。


「悪いが、俺は予定が…」

「何かな? 郁人君? もしかして…夜桜さんのとこに行くとか言わないよね?」

「……」


 梨緒のヤンデレボイスに、郁人は黙る。本日何度もした会話である。そして、そのたびに、ゆるふわ宏美はこう言うのである。


「と…とりあえず、郁人様…梨緒さんを怒らせてはダメですよ~」

「いや、怒らせる気はないんだが…」


 そうひそひそ話をする郁人と宏美である。その光景を鋭いヤンデレ睨みで見ている梨緒に、気がつく二人は、すぐさま距離を取り合う。


「とにかくだ…悪いが、昼はダメだ……大事な用がある」

「郁人君…行かせないよ」


 ヤンデレ梨緒は、ヤンデレ波動を放っている。郁人と宏美は、冷や汗が出てくる。


「…今日の、あいつ…やばくないか? お前何かしたのか?」

「なんでわたしぃなんですか~? 郁人様が何かしたんじゃないんですか~?」


 また、ひそひそ、二人で内緒話をする郁人と宏美を、ヤンデレスマイルで見ている梨緒は、ぼそりと言うのである。


「二人…仲いいよね? いつの間にそんなに仲良くなったのかなぁ?」


 その一言にすくみあがる郁人と宏美である。


「ちょっと待て、俺はゆるふわとは仲良くないぞ」

「そうですよ~…って、ゆるふわってなんですか~!?」

「いや、お前のことだが?」

「わたしぃ、ゆるふわじゃないですよ~!?」

「いや、お前はゆるふわだ…見た目も中身もな」

「なんですか~!! それ~!?」


 郁人と宏美は、口論を繰り広げる。梨緒のヤンデレスマイルから放たれるオーラが、さらに強まる。それに気がついて、恐る恐る二人は梨緒の方を向くと、満面なヤンデレスマイルを浮かべるヤンデレ神が降臨していた。


「フフフ~…楽しそうだね…いいなぁ…いいなぁ」

「…ゆ…ゆるふわ…どうにかしろ」

「わ、わたしぃですか~!? り、梨緒さん…落ち着いてくださいね~…大丈夫ですよ~」


 ヤバさを感じた郁人は、ゆるふわ宏美を、ヤンデレ梨緒に差し出す。わたわたとしている宏美は、なんとか、ゆるふわスマイルを浮かべて、梨緒によくわからないことを言い出す。全く何が大丈夫なのか宏美本人ですらよくわかっていない。


「…何が…大丈夫なのかなぁ…かなぁ」

「わ、わたしぃは無理です~…郁人様おねがいします~!!」

「…お、落ち着け…り、梨緒…大丈夫だ…俺は、ゆるふわのこと嫌いだからな…安心しろ」


 今度は、超焦っている宏美が郁人を差し出す。ひるみまくっている郁人は、必死の説得である。梨緒は満面なヤンデレスマイルである。


「ふ~ん…そうは見えないかなぁ」

「…いや、本気で嫌いなんだが」

「郁人様!?」


 真顔で本音が出てしまう郁人に、衝撃を受けてツッコム宏美である。


「し、仕方ない…俺は食堂に、大事な用事があるんだ」

「…では、郁人様…わたしぃもお供しますよ~…安心してくださいね~…梨緒さん…私が責任をもって、郁人様を屋上にお連れしますから~」

「…なんで、ゆるふわも、ついてくるんだ?」

「ご安心ください~…郁人様は、必ず梨緒さんの元にお届けしまうからね~」

「…話を聞け」


 ゆるふわ宏美は、このままでは、まずいと思ったのか、郁人を無視して、梨緒の説得にかかるのである。ゆるふわスマイルに冷や汗ダラダラな宏美である。


「はぁ~…仕方ないね…うん、わかったよ…宏美ちゃん…任せたからね…ほんと…任せたからね」


 満面なヤンデレスマイルで宏美にそう言い放つ梨緒に、姿勢を正す宏美である。


「はい~!! お任せですよ~!!」

「…はぁ~…仕方ないか…じゃあ、行ってくるから」


 そう言って、食堂に向かう郁人についていく宏美である。その光景をただ、立ち尽くしてみている梨緒は、どこか悲しそうであった。






「で…何でお前がついてくるんだ?」

「郁人様が、我儘言うからですよ~…だいたい、食堂になんの用ですか~?」

「…言っただろ…美月の逆ハーに入ると…美月と、昼食の約束をしたからな…食堂に行こうと思ってな」

「な…郁人様!! それはダメって言ったじゃないですか~!!」


 郁人と宏美は、食堂に向かいながら、そんな会話をする。宏美は完全に動揺している。


「大丈夫だ…とりあえず、美月と弁当を急いで食べる…そして、屋上に向かえば問題ないだろ?」

「郁人様…浮気者のセリフですよ~…それ~!! って、ダメですよ~!! 夜桜さんとお昼なんて~」


 宏美は、決意を固めている郁人にツッコミを入れながら、何とか説得しようとするが、全く聞く耳持たない郁人は、急いで食堂に向かうのであった。

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