第161話 追撃
※
【もうすぐ追い付くが、その前に攻撃が来るであろうな】
最後の、大詰めの戦闘だ。
ジークの最大望遠でも、まだ点のように小さい姿しか確認出来ないが、敵が機械文明の飛行ユニットを使用している以上、こちらと同じか、それ以上の兵器を使用して来る可能性が高い。
前日に、二柱の神々からもたらされた敵の情報が本当なら、猶更だ。
「……ジークに、ランダムな回避運動を取らせる」
「うむ。追い付くのに余計な時間が取られるのじゃが、致し方あるまいのう」
ジークが、寄せ集めで急造した加速ユニットではない、自前の飛行ユニットで、今までずっと直進だった軌道にランダムで細かく向きを変えると、まるでそれを待っていたかのようなタイミングで、光線(ビーム)の砲火が、前方の敵から発射される。
こちらの攻撃手段は、スキルを使うか、アルティエールの術系統に頼るしかないが、それも余りに遠方だと、精度と威力に欠けてしまう。
収納空間にあった重火器は、あらかた加速ユニットに化けてしまったし、あったとしても、その加速ユニットを固定しているのがジークの両腕なのだから、武器など使用出来ない。
やはり、ジークに有効な固定武装がないのが痛かった。
「む、エネルギーではない実体弾……ミサイルかや?」
回避運動しているジークを追い込むように、軌道を変え迫って来るそれは、誘導ミサイルなのだろう。
「『光の息吹(ブレス)』!」
左から寄って来たミサイルを、ゾートのスキルで迎撃する。
ミサイルにしろ、光線(ビーム)にしろ、結界障壁(シールド)で防げる自信はあるが、今は無駄な力を浪費する時ではない。万が一、の可能性もある。
次々に襲い掛かる大量のミサイル、雨あられと降る光線(ビーム)を躱し、迎撃して距離を詰める。
機械探知(レーダー)にかからないが、ゼンやアルの感覚に、何かの接近を感じ、そちらへ当てずっぽうに攻撃する。
「『雷の咆哮』!」
「『蒼雷輪舞』じゃ!」
雷の息吹(ブレス)と、蒼き雷の術が命中し、ミサイル、もしくは機雷のような物が爆発する。
真空、絶対零度の宇宙空間は、マイナス二百七十度。炎が得意なアルティエールではあるが、宇宙空間では、自慢の炎の術も、燃えているのは出した瞬間のみで、すぐに凍り付いてしまうので、雷の術を使っている。攻撃の速度的な意味も考えているのだろう。
「ステルス性の兵器、なのかな?」
「恐らくは。最後の頼りが、己の感覚とはのう」
冒険者的には、その方が正しいと思うのだが、アルとしては、機械探知(レーダー)も頼れる道具なのだろう。
一発のミサイルに複数の子機が搭載され、途中で分裂するクラスター・ミサイルや、レーザー火器、ビーム兵器、重力罠(グラヴィティ・トラップ)等、とにかくあらゆる攻撃を放ってくるが、ジークはそれらをかいくぐり、アルが重力魔術で対応する等して、ついに隣りに並ぶ程の距離に追い付いた。
それは、三角翼の平たいジェット戦闘機の様な機体に、腹ばいで搭乗している、まるで機神(デウス・マキナ)か機動装甲兵装(エインヘリヤル)の様な、機械の巨人―――ロボットだった。
そのロボが、右手に持つライフルらしき銃を撃つ構えを見せる。
ゼンはその向き、引き金を引く指の動きを見て、直前でジークに回避運動を取らせる。閃光が、今さっきいた空間を貫き、消えて行く。
「本当に、まるでジークみたいだな」
「英断のような、阿呆のような、どういう思考ロジックをしておるのかのう」
と言いつつ、巨大ロボ同士の戦闘、とか考えて、顔のニヤつきが抑えられないアルティエールだった。
ゼンは取り合えず、アルの趣味的嗜好はいつもの通り、見て見ぬフリをする。
前日、神界からの観測情報として、その事実を聞いた時には、ゼンもどう言っていいか、判断に迷う、敵の意外な変貌だった。
※
「……貴方方は、これをどう考えているんですか?」
ゼンは、とにかく意味が解らないので、神々の意見を求める。
【んむ。事前準備をして、無理を押してまで勝てる状況に持ち込んだ、と考えた敵に大敗した。なら、敵の真似をすべき、とでも判断したのではないかな。模倣は、強敵を打ち破る一つの方策ではある】
「……確かに、そんな面はあるとは思いますが、ちょっと安直過ぎな気も……」
【……あれには、互角以上の敵と戦った情報が、欠けておるのじゃなかろうか。じゃからこそ、模索した故の手段が、安直に見えても、アレにはアレの、複雑な考えがあるのじゃろうて】
「……こちらは、何かを吸収された訳ではありません。見た目だけを猿真似しても、余り意味はないのでは?」
【恐らく、今まで吸収してきた文明の兵器に、ムーザルの物程ではないにしろ、それなりの技術で造られた巨大人型兵器があったのではないか】
「それ等を基礎(ベース)にして、ジークに対抗する兵器に?確かに、元々サイボーグ(機械と生体の融合兵器)と聞いていましたし、そういう手段も、ありなんですかね……」
ゼンは、腕を組み、顎に手をやって考えをまとめる。
「じゃあ、見た目がロボっぽいだけで、金属の鎧の中にスライムが詰められた、着ぐるみ、みたいな物じゃなく、ちゃんと機械に変化したロボ……サイボーグと……?」
【うむ。もしかしたら、人型には無理な、逆関節の動きをさせたり、手足を伸ばしたりするかもしれんが、人型の兵器な事に変わりはいじゃろう】
スライムが、人型の魔獣に進化した、とでも解釈するべきなのだろうか。
「まあ、ゼンよ。余り悩んでも仕方がないぞ。元より人でない物の思考等、考える方が無駄じゃ。『下手な考え休むに似たり』。完全に読み切れる方が怖いわい」
アルティエールの言う事も正しい。一理ある。
アレ等を造り上げ、あまたの次元宇宙にばら撒いたのが、人型の文明かどうかも不明だ。その生体兵器の意思など、解り様がなくても当然なのだろう。
色々と、考えて戦うのが常なゼンとしては、そこで思考を放棄してしまうのは不安なのだが、確かに、解らない物は解らないのだろう……。
※
だがそれでも、人型がその動きをするのであれば、むしろゼンには、その動きで敵の先読みが出来る。余程不定形(スライム)型の方が、動きを予測しづらく、戦いにくい印象があるのだが、何か妙な感じだ。
最後だから、一番強い難敵、と決め込んで来たのに、むしろ戦いやすくなった敵に、違和感しか覚えない。
「む?ゼン、分るか?あの前方に見える蒼き星。あれが、『アースティア』じゃ」
目ざとくアルティエールが言う場所を見てみれば、確かに蒼い星が視認出来る。
思っていたよりも、ずっと近くに来てしまっていた。
あそこに、ゼンの大事な者達、全てがいる。全てがある。息づいている。生活している。
それを失う事は、自分の死よりも恐ろしい事だ。
戦いやすくなったから、と言って油断も過信もしていい状況ではない。
こんなギリギリまで、敵を近づけてしまった現状を恥じて、むしろ焦るべき戦況だ。
「……あの飛行ユニットを、どうにかして破壊しよう。そして、あいつをこれ以上、『アースティア』に近づけない。戦場とする宙域を、遠くにしないと……」
「そうじゃな」
母星に近づいてしまった事は、こちらに利する点もある。これだけの距離なら、もうこの加速ユニットは絶対に必要ではない。通常飛行でも帰れるのだ。
元々、追いつく為の、使い捨てにしてもいい物だ。
直接ぶつけるなり、バラしてミサイル代わりに使ってもいい。
ただそれは、向こうの飛行ユニットを潰してからなら、の絶対限定条件がつく。
足をなくして、それこそ本当に、目の前で故郷が滅ぶさまを、指を咥えて見ている事態などに陥ったら、後悔どころではない。もう、自分の命一つなどでは贖えない。
ゼンは、敵の攻撃を避けながら、周囲を飛行し、その背面に回り込む。
一見惑星上を飛ぶ為の物に見えるが、がら空きの背面には、むしろ強力な迎撃兵器があるのか、と素早い飛行で横切るが、そんな物は存在しなかった。
もう手持ちの兵器を使い切ったのか、それとも何かの罠か、迷うところだが、時間もない。
敵は上面に乗っていて、こちらの動きが掴みにくく、攻撃もしにくい筈だ。
もう一度、牽制の攻撃を一、二度浴びせてから、背面へと回り込み、『光の息吹(ブレス)』を使う。アルも攻撃をする。
「『蒼雷導矢』!」
光線(ビーム)は、当たる直前に機体を傾けた為、側面をかすめだけだったが、アルの雷の矢は誘導性で、飛行ユニットの背面に全て、次々と突き刺さり、その一つがエンジンに当たったのか爆発、炎上した。
動きの悪くなった
「逃がすか!」
ゼンはジークを加速ユニットごと体当たりをして、相手の動きを止めると、母星よりも遠ざけようと、思いっきり相手の胴体を蹴りつけた。
どうにかこれで、母星から遠ざけられるか?と思った見通しは、
「なんで月が、今ここに……」
「全然気付かなかったのじゃ……」
アルティエールも、唖然茫然としている。
タイミングが悪かった、としか言いようがなかったが、もはやそれを嘆いていても意味がない。
ゼンはジークを操作し、月に向かう。
その上空で、役目を十全に果たしてくれた加速ユニットを止め、そこから飛び立つと、
*******
オマケ
ゼ「……丸3日、座ったままってきついね。斜めに座席が出来るとは言え……」
ア「うむ。身体がなまっていかんのう」
ゼ「暇を潰せるような物は、持ち物に……ないなぁ」
ア「ふむ。では、寝ていても出来る運動をしたらどうじゃ?」
ゼ「………」
ア「何故沈黙するのか、謎じゃな」
ゼ「いや、余りいい予感がしなくて」
ア「それは……腹筋じゃ!」
ゼ「……ソウデスネ」
ア「ゼン君は、何を期待したのかのう?」(ニヤニヤ)
ゼ「何も期待してないから。わざとそういう風に話題ふるよね、アルは」
ア「ぜんぜんわからんのう~~」(ニヤニヤ)
ゼ「似た性格の人知ってるから、もう相手しない……」
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