第83話 初日の終わり☆
※
リュウ達の宿屋にある酒場にゼンはやって来た。
奥の席に旅団の皆がいるのが見える。
「あ、ゼン君。言われた通りに、味付け少し変えただけで、もうすっごく大好評なのよ。ありがとうね~~」
料理を運ぶ途中のおかみさんが、ゼンの姿を見て声をかけてくる。
「ほんのちょっと助言しだけですから」
ゼンもにこやかに愛想よく答え、リュウ達の所に行く。
「お待たせしました」
「お疲れさん。研究棟での初日はどうだ」
ゼンは空いた席に腰かけた。
「どうなんでしょうね。って、話して大丈夫なんですか?」
「ああ。サリサが遮音とは違う結界を造ったんだ。なんでも、どうでもいい会話がランダムに繰り返される、とかいうやつ」
「完全に音がしてないと変でしょ。よくよく聞くと不自然さは分かるかもしれないけど、それは聞き耳たててる、って事だし」
サリサは得意げだ。
「へぇ。凄いね。そんなのまで造れるんだ」
「ま、まあね。私達の普段の日常会話のデータをとってあって、それを流用してるの。その代わり、こっちからも外の会話は分からないんだけど。今、おかみさんに何言われてたの?」
「料理の助言の事。少し変えただけで大好評だって」
「……いつの間に、そんな事してるの?」
「いや、単に自分が食べる時、なるべくまともなのにしたかったから……」
「自分の為かよ」
と責める風なラルクスの顔は笑っている。
「なんかここんとこ、味が変わって美味くなってると思えば……」
「ゼン君風~~」
アリシアも笑っている。
「いや、そこまで特徴的じゃないでしょ。香辛料あげて、これと後、店にあるので組み合わせると、もっと美味しくなりますよって言っただけだから。前から一味足りないかな、と思ってて」
「まあ、美味くなって繁盛してるんだ。いい話じゃないか。実際、ここんとこ客が増えてて、席を確保するのも大変だったんだ」
「へぇ……」
気のない返事をするゼンは、店の繁盛には興味ないようだ。純粋に自分の為なのが、妙な話だった。
「ところで、あのフォルゲンって狼獣人の話はどうなった?」
「ああ、あれは、変なオチがつきました」
ゼンは、その場に出ていた料理に手を出しつつ答える。
「獣王国で、
「あれ?その人、三カ月くらい前に復職しなかったか?」
「ですね。師匠は逃げたので、前の将軍が元に戻るのは当然だったんですけど、獣王陛下としても、すぐに戻すのは、余りにもかっこうがつかなかったのか、2か月後に復職させたんです。
どうもフォルゲンは、レグナード将軍が辞めさせられて、俺達がいなくなった直後に帰国したみたいで、色々父親に愚痴まじりのおかしな話を吹き込まれて、それで『流水』がフェルズの出な事は有名だったから、ここに来れば何かしら手がかりが掴める、と思って来たみたいです」
「ご苦労な事だ。ゼンがいなかったら完全な無駄足だったな」
「はい。かなり時間がかかってる事を考えると、転移門は使ってないみたいですね。あれはある程度以上の身分や、冒険者のランクの制限があるから」
「貴族は多額の寄付金という名の通行料、冒険者はA以上か」
「フォルゲンはBだから、それで地道に旅して来たみたいですけど、その間に父親が復職している事はまったく知らずに……」
「おいおい。悲しいすれ違いだな」
「まったくもって。だから、あの後ギルマスの所に行って、通信魔具を使わせてもらって、獣王国のギルドに、将軍様を呼び出してもらっての親子会談です。その後、二人して俺に平謝りでした」
別に謝って欲しかった訳じゃないんですが、とゼン。
「まあ、とにかく、誤解が解けて、なによりだな」
「いや、なんかその後、“気”の事を教えたせいなのか、俺の事を“師匠”とか呼ぶようになっちゃって、何度もやめろって言ってるのに、やめてくれなくて……」
「とんだ押し掛け弟子、だな」
ラルクがプっと吹き出す。
「やめて下さい。妹そっくりですよ、あんなところ……」
「妹って?」
「あ、レグナード将軍には娘がいたんです。兄とは違って、父親が将軍を降格とか、まるで気にせず、獣王の王都にいた時は、弟子にして下さいってしつこくて……。弟子なら師匠に頼めって言ってるのに、俺がいい、とか意味不明で……」
「可愛い子か?なんて名だ?」
「可愛い?まあ、それなりに。名前はリーランです。フォルゲンみたいに狼要素強くない、普通の獣人の女の子でしたよ。俺より一つ上の14歳。剣とか格闘術をするみたいで、一回模擬試合で負かしたら、それからもう師匠、師匠って、まるで今とそっくり……」
「ゼン君モテモテだね~」
アリシアは何故かニコニコ嬉しそうだ。
「『流水の弟子』様はお盛んな様で……」
対象的にサリサはブスっとしている。
「えー、今のはそういう話じゃないでしょ?押し掛け弟子的な話で、困ったんだって俺、言ったよね?」
ゼンには何がなんだか分からない。
「まあまあ。その女の子の目的が、本当に弟子なのか、ゼン自身なのかによるんだよ。その子と一緒にどこか出かけたりしなかったか?」
ラルクはいかにもそういう話には詳しい、とばかりにゼンにたずねる。
「あー、王都案内してやるって、引きずり回されました。強引な子で、いいって言ってるのに、せっかくだから、とか言って……」
「そりゃ、お前さん目当てだよ。弟子がデートを望んだりはしないだろ?」
ラルクはゼンの鈍感さに笑う。
「デート???あれが?」
「そう。ただ弟子になりたいなら、ともかく訓練だ鍛錬だって話になる筈だ。のんびり二人で何処かに出かけましょう、なんてのは、そういう意味だよ、な?」
と女性陣に同意を求めると、
「うんうん。脈ありだね~」
アリシアはニコニコだ。
「お盛ん……」
サリサはそっぽ向いている。
「え~~、どうしてそうなるかな、意味が分からないよ」
「まあまあ、この話はそこまでとして、俺としては、ゼンに相談があるんだよ。まあ、おまえらが答えられるならそれでもいいが」
「なんですか?」
もうゼンは話題が変わるなら何でもいい。
「うん。俺としては。今度、新生活に移るに当たって、スーリアに求婚(プロポーズ)して、一緒に住みたい、と思っているわけだ」
ラルクの一大発表。
「おめでと~」
アリシアは変わらずニコニコ。
「はいはい、おめでとさん」
サリサは適当に手をひらひらさせている。
「なんか心無い祝福の言葉だな」
反応が薄いのに不満なラルクだ。
「めでたい、が、少し前に教えてもらったと思ったら、もうそこまで話が進むのか」
リュウとしては、つい数日前に恋人の事を教えてもらったと思ったらこれだ。
「付き合いももうそれなりなんで、ね」
ラルクは悪びれない。
「おめでとうございます。それで、相談というのは?」
「どこか、求婚(プロポーズ)するのに相応しい、雰囲気のある場所とか知らないか、って話だ」
「フェルズに?高級食堂とかでいいんじゃないの?」
高い食事を食べた後での求婚(プロポーズ)。定番だろう。
「そういうあからさまな場所じゃなくて」
ラルクは顔をしかめる。当り前過ぎるのは駄目だろう。
「雰囲気ですか……。あの、奥の方にある高台とか、フェルズを見下ろせていいですよ。夕方とかなんて、とても綺麗で」
ゼンが、配達してた頃に、そこで見た光景に感動した事を今も覚えていた。
「高台?あそこって、貴族の私有地だろ?」
「あ、そうなんですけど、高台手前の方は公園になっていて、一般開放してるんです。奥の屋敷まで行かなければ大丈夫ですよ」
「そうなのか?全然知らなかったな」
「知ってるの、近くに住んでる人ぐらいですね。時々子供がいるぐらいで、ほとんど使われていないのが勿体ない場所です。俺は、配達の時、そこのお屋敷に行って知ったんです」
フェルズ内を『超速便』で走り回っていた時の、良き思い出。
「フェルズを見下ろせる、高台の公園か。悪くない。いいね!」
しかも人気が少ないなら、尚の事、好都合だ。
「一度下見に行って確かめて下さい」
「そうする。指輪も買っておかなくちゃ、だな」
「指輪?」
「それは勇者の世界の風習ね。結婚とか婚約の場合、揃いの指輪をするの。買うのは大抵が男性の方。つまり、稼ぎのある方ね」
サリサは流石にそういう事に詳しかった。
「へえ。ゴウセル達、してたかな?」
「やらない人もいるわよ。それにギルマス達は、隠してたんだから、それじゃすぐバレちゃうじゃない」
「ああ、そっか」
※
「で、明日の予定ですけど、午前中に、あの屋敷の中を見学、という事で、もし異論がなければ本決まりで、改装の事とかを、皆で考えて欲しいです。俺は、従魔研には午後行くので」
余程の事がない限り、そこで決まりだろう。
「いや、屋敷じゃなく小城だって」
リュウはそこにこだわる。
「まあ、そうかもしれませんね。なにか目的あって建てられたものみたいですし」
「目的?」
「それは……住むようになったら、おいおい話していきます。まだ推測の段階なので」
ゼンが意味ありげに勿体ぶっている。
「中を見学か、新居だぜ!」
「ラルクさんにはそうなりますね。二人部屋で?」
「おお!広いとこ頼むぜ!」
「しばらくはどこでも選び放題ですけど、パーティー単位で、どの区画とか決めた方がいいでしょうね」
「私達も二人部屋だね~~」
とアリシアがサリサにひっつく。
「え、リュウと住むんじゃないの?」
「私達は、まだだよ~~。ねぇ、リュウ君」
「ま、まあな」
リュウがどう考えていたかは、哀愁漂う背中から感じよう。
「1階は、炊事とか、作業的なのが多いから、2階から居住区画になるのかしら?」
「そうなります。使用人部屋は1階にありますが、それも作業の為ですから」
「なら、出入りの楽な2階かしら」
「貴族的考えだと、偉い人は上みたいです。主人の部屋、最上階ですから」
「実用的じゃない考えなんて、冒険者にはいらないわよ」
サリサは合理的だ。
「ですよね。多分、他も下から埋まって行くのかな」
「大方、そうなるな。もう勧誘の目星はついてるのか?」
「大体は。後は交渉してみて、どんな手応えが得られるか、です。
小城の改装終えて、この場所に住む、とか見せられるといいんですが。だから。勧誘はすぐじゃなく、しばらくしたら、ですね」
「そうか。だが、慣れ親しんだ場所から移りたくない奴等もいるんじゃないか?」
「それはそれで、仕方ないです。一応、料理とか、住む環境とかで攻めるつもりですが」
(陥落しない奴、いるかな?)
「1階に使用人の部屋、地下に奴隷部屋があるので、それは綺麗に改装して、普通に住めるようにするつもりです。スラムの子供達はそこと使用人部屋に別れて住み込みです」
「何人ぐらい雇うんだ?」
「最初は10人、最終的には20人以上?」
「結構な数いるな」
「子供なので、二人一組で一人前みたいに考えてもらえると。ミンシャとリャンカに教育係をしてもらいます。男女同数雇って」
「……ゼンは、スラムの子供全員救いたいと思ってるのか?」
リュウはなんとなく思っていた事を口にしてみる。
「まさか。どっちかと言うと、ゴウセルよりの考えですよ」
「??」
「安上がりだからです。そんな感傷的な思いで雇ったりする程人情家ではないので」
と言っているが、昔の自分を重ねていないと、誰が言えるのだろうか。
「子供を2、30人雇ったからって、スラムがなくなる訳じゃないですから。“救う”なんて大袈裟な考えじゃないです。
ゴウセルの商会の方もそろそろ再開で、そっちでも雇うでしょうし、まともな働き口が少しぐらいあっても、焼け石に水ですよ」
割り切った考えを言うゼンが、本気でどこまで割り切っているのかは分からない。でもまあ、あの広い小城で子供達が走り回って働く光景は、どこか楽しそうだ。
「スラムの子供達に、話はいってるのか?」
「子供達のリーダー格の、ゾイって子を通して。最初はなるべくしっかりした子に来てもらって教育出来たら、その子も教育係で教えられる様に、と。どこまでちゃんと出来るか分かりませんが、しっかり働けないなら、諦めるか、判断しないといけませんから」
「諦めるって、スラムの子を雇うのを、か?」
リュウはギョっとする。そこまで考えているのか、と。
「はい。他のパーティーも、ちゃんと働いてもらわないと納得してもらえないでしょ?」
「それは、確かにそうだな……」
いい加減な仕事をするようなら、別にちゃんとした使用人を雇え、と言われるだろう。
「そこら辺は、なるたけ厳しく教えますから、なんとかしますよ」
勧誘も含めて、どこまでうまく行くか、まだまだ未知数だが、多分ゼンなら何とかしてしまうだろう。そういう予感のする4人だった。
*******
オマケ
ボ「疲れた~~。中々大変だね」
ゾ「お疲れさん。見世物みたいなもんだし、な」
セ「乙女はいましたか?」
ガ「疲労回復、養生…」
ル「お?おつかれ?お?」
ボ「ありがと~」
ミ「一日、ご主人様と一緒で羨ましいですの」
リ「そんないいものじゃないでしょう」
ボ「ゼン様、途中でどっか行ってたから、ずっとじゃないね」
リ「ほらみなさい」
ボ「悪い人達じゃないと思うけど、大勢に囲まれるとね~」
ミ「むう。コボルトなんて見ても面白くないですの。ラミア、行くですの」
リ「い、嫌よ。あんな胸出した姿に変わるのなんて、絶対嫌!」
ミ「ご主人様のご指名なら~~ですの」
リ「う……それは、でも……」
ゼ「指名しないから」(苦笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます