第42話 王都にて(前編)☆改★
★投稿ミス。話のコピーミスで、前半半分以上が投稿されていませんでした!
すみません!最初から、★を入れた所までが存在しなかった箇所です。
なんか文字数やけに少ないとは思っていたのですが、気がつきませんでした!5月4日訂正
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※
ライナーは、竜騎士ケインに頼み、王都の近郊、少しばかり王都や主だった街道までは距離のある、草原の外れに、降ろしてもらった。
王都の飛竜が降り立てる様な施設では、その身分照会がなされてしまう為に、『ゴウセル商会の会長補佐のライナー』が、借金返済の期日に近い今の時期に王都に来た事が敵側の商会にバレてしまう確率が高い。
そうなると、どんな横やりが入るかも分からない。どうやら相手は、複数の貴族や、他の商会にまで賄賂(かね)をばらまき、ゴウセル商会への妨害行為の包囲網をしかせている程にやり手の連中なのだ。
身分を隠して王都に潜入した方が、相手の警戒がまだ低い内にその調査が進めやすくもなる。
とりあえず、近くの村で馬を買い付け、王都まで急ぎ、冒険者のスカウト仲間達と落ち合って、情報交換をしよう。
オークションも誰か、信頼の出来る者に任せた方が無難かもしれない。
今までエルフの耳を隠していた幻術の付与された指輪を外し、この先はB級冒険者のライナーとして活動する事になる。
相手側の隙をつき、なるべく早く、犯罪の証拠を掴むのだ。
これ程大掛かりな犯罪であれば、”証拠を掴みさすれば”何とか出来る目算があった。
もしも西風旅団の方に抱えている問題がなければ、ゼン本人がこちらまで出向いたかもしれないと、ライナーは思ってしまう。義父(ゴウセル)思いの彼なら、それは杞憂ではないだろう。
少年は、師匠との修行の旅の途中で、この様な……あるいはこれ以上の修羅場を潜り抜けて来たのではないだろうか?そう思わせる凄味が、今のゼンにはあった。
だが、そうだとしても、ライナーは、出来ればこの王都での、この国の貴族まで関わっているかもしれない汚い大人の世界の汚濁を見せたいとは思えなかった。
出来得るならば、『流水』の力を借りずにこの一件を終わらせたいものだ。
ライナーは、B級冒険者として、可能な限りの身体強化を施した身体で草原を駆け抜けながら、そう心に誓うのだった。
※
近くに牧場があったので、良い馬が借りられた。買うのでなく借りたので、帰路の途上で返却しなければいけないが、牧場主が売りたがらなかったので仕方がない。
ライナーは、時折馬と並走して馬の負担を減らしながら夜通し馬を走らせ、夜明け前には王都が見える所まで距離が稼げた。
後は、王都入りする他の旅人や商人の、王都入りをする行列に紛れて中に入ればいい。
前の連絡通りなら、王都のスカウト達の捜査はあまり進展していなかった様だが……。
適当な宿に落ち着き、馬を宿の厩舎に預け、活動開始だ。
王都の下町の、うらぶれた酒場で符丁を使い、仲間を待つ。
しばらくして、仲間が来た様なので、また少し時間をおいてから個室に移る。
そこは、部屋自体に盗聴防止措置がされているが、一応の用心で手持ちの盗聴防止魔具も作動させておく。
「ライナー自身がこちらに来るとは驚いたな、どうしたんだ?」
一見すると平凡な人間の職人だが、彼もエルフのスカウトだ。
「いい情報が得られたのと、保険として借金返済の方の算段も出来たんですよ」
そうしてライナーは、敵側が海沿いの国の、海商連合である事。似た様な事を他の小国でもやらかしている事等を告げる。
「ほう、成程ね。海商連合か。今までまるで尻尾を掴ませてくれなかったからな、ありがたい」
やはりこちらの捜査は進展していないままだった様だ。
「確か、あちらの国の大使館があるな。用心してそちらには近づいてないだろうが、入国者リスト等はあるだろう。2人ぐらい腕利きを潜入させて手に入れさせよう」
「ええ。後、こちらの動きがある程度先読みされている事を考えると、この国の貴族のいくつかが、それに協力しているのでしょう……」
「向こうの国に近い所と言えば……ゼフヴァーン侯爵家の領地が近いな」
意外な名前が出て来た。いや、意外ではないのか。シリウスに出奔され、あの家は色々落ち目と見なされている。それの巻き返しを計り、なおかつフェルズの商会に復讐まで果たせる?
『聖騎士(パラディン)崩れ』のシリウスと、ゴウセル商会はまるで関係のない、あえて言うなら同じフェルズにいる、と言うだけの関係だ。もし本当にそんな理由だとすれば、単なる八つ当たりに近いのではないだろうか?
「では、侯爵家と、そこと関係の深いいくつかの貴族に見張りを?」
「ああ。目標が分かっているのなら、かなり動きやすくなったな。向こうに何らかの動きがれば、すぐ知らせるとしよう」
「それと、毎週開催されている、貴族連合主催のオークション、次はいつですか?」
「2日後には確か……。だがそこで返済資金を稼ぐのなら、奴等も色々出品する予定の様だぞ?」
「やはり、そうですか。私自身だと、エルフでも気づかれかねないですね」
「ああ。素顔の方が知られているだろうからな、お前は。出るなら変装か……」
「いえ、誰か別の者に出てもらいましょう。万が一にも失敗したくないですから」
「なら、モランかな?あいつは、スカウトよりも表の商人の方が成功してるからな。基本、どこの商会にも属してないフリーだから、変な勘繰りもされんだろう」
「そうですね。彼がいいでしょう。後で、私の宿に来させてもらえますか?出品する物をいくつか渡して相談がしたい」
「了解だ。すぐ手配しよう。……色々動き出してきた手応えがあるな」
「ですね。やっとここまで来て、どうにかなりそうな予感が私にもあります」
お互い意味ありげに頷くと、部屋を出てそれぞれが別行動を開始する。
(ゼフヴァーン侯爵……。何の因果なのやら……)
もし本当にゼフヴァーン侯爵がこの件に絡んでいるのなら、証拠を掴んで告発する時、彼もまた相応の報いを受ける事になるだろう。
詐欺に関与している以前に、他国の商会と組んで、自国の商会の乗っ取りに協力しているのだ。利敵行為に匹敵する重犯罪だ。
最悪、家の取り潰しもあり得るだろう。
(何も考え無しでやった訳でもないでしょうが……)
まだそうと決まった訳ではない。
決めつけないで、別の家の関与の方が濃厚だった場合の対策も考えておかなければ、と思いはするのだが、シリウスの件を考えると恐らくは……。
それから、余りエルフらしくない、人間の血の方が濃く出たのだろう、平凡な大人しい顔をしたスカウト仲間、モランがライナーの泊る宿に来た。
部屋に通し、盗聴防止魔具を作動させてから、ゼンから提供された魔獣の素材の数々を見せて、モランにオークション出品の説明をする。
彼は、いつも平凡でどんな突発時にも動じない、のんびりとした顔付を、いつになく興奮で紅潮させ、ライナーの出した品々の一つ一つに感嘆の声を上げる。
無理もない。これらはかの『流水』がその厳しい修行の旅の途上で倒した数々の魔獣達の素材。どれもこれも一級品だ。
特に、ゼンが目玉だと言った、剣狼(ソードウルフ)のボスの見事な角は、それを見るだけで、その秘められた力の強さに圧倒される。この角の持ち主が、人に倒された、という事実そのものがすでに脅威だ。
剣狼(ソードウルフ)は、大剣の様な角を額に持つAランクの魔獣で、狼の魔獣であるのに口から多彩な息吹(ブレス)を吐くは、角からは雷撃や怪光線等を出すは、の遠近両方に強力な攻撃手段を持つ、隙の無い危険な大型の魔獣だ。
★
それは、生きる巨大な厄災で、壊滅的な災害そのものと言っていいだろう。
それを回避出来る人間等は存在しないと思われていた。
本来は山奥にいて、めったに人里に出て来ない筈なのだが、それが群れ単位下りて来た獣王国は、不運だったとしか言い様がないが、その国に、それ以上に暴力的な英雄である『流水』の一行が訪れた幸運で不運は相殺されたのだろう。
かくして、A級(ランク)魔獣五頭の、推定脅威度はS級越(ランクオーバー)の魔獣の群れは、獣王国の王都に至る前に『流水』ラザンとその弟子に討伐されたのだった。
この話は、『流水』の大陸中で行われた魔獣退治の中でもひと際有名なもので、その災害度の高さからも、なした行為の影響が計り知れない物で、獣王国では多額の報酬や貴族位の授与を考えていた様だが、当の本人が「いらね」の一言を残し、次の地までさっさと去ってしまったので、報酬の件は立ち消えになっていた。
そうした、数々の伝説、逸話となった魔獣退治の、ボスの素材なのだ。(退治したゼン本人の署名付き)←ライナーが書かせた
これが高く売れないで、何が売れると言うのか。
ライナーとしても、出来れば自分でオークションに出品し、その伝説の素材の行く末を見守りたかったが、『会長補佐のライナー』がそれをするには、残念ながら無理がある。
ライナーは渋々それらの品のオークションをモランに任せるのだった。
この後、ライナーもまた独自に動いて、仲間達の調査の援護をする。
ゼフヴァーン侯爵家の王都での屋敷と、その出入りの客や商人達の監視や確認。
海商連合のある国の大使館の周辺調査と、その出入りする者の監視等。
時に仲間達と合流して情報交換をし、自分達の調査の成果により、だんだんと黒くなって行く、侯爵家周辺の人間関係。
大使館に潜入し、入国リストの情報を手に入れるのに成功した者の報告により、4人の海商連合の商会長(トップ)が、今このローゼン王国の王都に滞在している事が確認された。
その内の3人が、侯爵家の裏口を使い、隠れて出入りしている事が分かっている。
もう一人は実行役ではなく、計画の立案や指導している、事実上一番上の者なのだろう。
後は、侯爵家か、海商連合のどちらかで、何か確実に動かぬ証拠となる物さえ入手出来れば、この件はほぼ終わった、と言えるだろう。
「……と、調査はつつがなく、順調に進んでいるのだが」
「……だが?何か問題でもありましたか?」
ライナーは、路地の端で、お互い顔を合わせるでもなく、会話の口の動きも見せずに情報交換していた。
「何か、妙に上手く行き過ぎていてな……」
「まさか、向こう側が気づいて、罠を仕掛けている、と?」
「いや、そういう意味じゃないんだ。こう、何か『影』から調査の援護をされているような、そんな感覚がする。俺だけじゃない、他にもそう言ってる奴がいる……。
フェルズから、他にも派遣されているのか?」
「……実は私も、その感覚はあります。もしかしたらギルマスが、こちらの知らない凄腕を派遣している、なんて事は、あの人なら十分有り得る事なんですよね……」
ライナーも、正直調査の進展が早過ぎて、何か援護されている感覚があったのだ。
だが、どうしてもその相手は確認出来ない。
「私は聞いていないのですが、悪意は感じない様ですし、このまま続けましょう。もしA級以上のスカウトがいるのなら、探すだけ時間の無駄ですし……」
見えない味方を探すのは無意味だ。その道のプロならば余計に。
「だな。それで、やはり証拠となる物があるとしたら、侯爵の屋敷だと思うんだが」
「……そうですね。海商連合の方はもう手慣れていて、証拠は全て処分するか、何処かに魔術で封印するなりして、こちらに手を出せない様にしていそうです」
その点、侯爵側はこう言っては何だが、悪事に不慣れで、だからこそ、隙が多く見える。
「うむ。それで、どうも侯爵は、今度のオークションに、自分の護衛をゴッソリ連れて、見物に参加する様なんだ。海商連合も何か出すつもりの様だし、その援護にサクラでもするのかもしれない」
「成程。では、オークションの日が狙い目で、屋敷の調査を大々的にやろう、と言うのですね」
「ああ。今までの調査結果だと、どうしても状況証拠が多い。何か、これ、と言った物証が一つでも欲しいな」
「では私も、その日は屋敷に潜入しましょう。オークション見物が出来ないのは残念ですが……」
「手は多ければ多い方がいいからな。俺もモランが羨ましいぜ。
手練れは残っていない筈だから、オークションの時間内には荒らし放題だ……」
「まるで強盗か何かの計画の様ですよ。お互い健闘を尽くしましょう……」
悪党が悪事の計画を遂行するみたいだな、と思いながら、二人は別々に方向に別れて行く。その影に、小さな狼の影の様な物が重なっているのに気づかずに……。
※
天才鍛冶師、鍛冶王、鍛冶神等、恐れ多きいくつかの称号を国より与えられた、ドーワーフの英雄、名鍛冶師のヴァルカンは、今、人生で初めて行き詰っていた。
天才の名を欲しい侭にし、いくつもの名武器、名盾、名鎧を作り続け、彼の造る物に外れなし、とまで言われ続け、実際その通りの実績を上げて来た。
彼の手にかかれば、どんな素材であろうと金属であろうとも、彼の思うが侭の変化をし、鋳造し、精錬出来た。自分に造れない物はない。自分に扱えない素材はない。
そんな思い上がりが、天に聞かれ、罰でも受けたのだろうか?
彼は今現在、どんな素材にも魅力を感じず、どんな金属を見ても、窯で熱く熱し、叩こうと思えなくなってしまった。
何も造りたくない訳ではない。ただただ物が、造れなくなってしまったのだ。
人はそれを絶不調(スランプ)と言うのだろうか?
物を造りたい、という欲求はあるのに、造れない、という最大級のジレンマ!
金などいくらでも、有り余るほどある。何でも買える。
なのに、彼が扱いたい、思うが侭いじって、何が出来るかを試行錯誤したい!と思える様な素材がまるでない!
その時、彼にある朝、天啓が舞い降りた。
ローゼン王国の王都で開かれているオークション。
そこに行けば、彼に相応しき、最高の素材に巡り合えるだろう、と。
それは本当に、天からの囁きだったのか、悪魔からの誘惑の声だったのか、単なる気の迷いから聞こえた幻聴だったのか、それは分からない。
実際、今まで2回程、そのオークションに参加したが、それ程代わり映えのする物には、巡り合えなかった。
よくある素材。よくある宝石、魔石。よくある金属。
あの天啓は一体何だったと言うのか?
それでもヴァルカンは、諦め悪く、今日もオークションに行く。
有名人である彼だとバレない様に、変化の腕輪で、普通の人間の男に見える様にして……。
*******
オマケ
ラ「まあ完全忘れられて、あの件は成功しました、とかの一行で済まなくて良かったですよ、本当に……」
ガ「暇だ。影遊び、狐……いや、これ狼に見えるよ、絶対!」
ヴァ「素材!至高の素材!究極の素材を!誰かシェフを呼べ!」
(シェフいませんw)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます