第12話 らせん
うすれていく気持ちの中で、あたしはずっとその音に耳をかたむけていた。
あたしの口と喉は得られないものを求めてむなしく動いていた。
そのとき、なにかがあたしの心にひっかかった。
音は右の耳に聞こえていた。左の耳には聞こえない。
しばらくしてやっと、あたしは気づいた。
右の耳を押しつけた岩の壁の中からその音は聞こえていた。かすかな水の流れるような音の中に、地面に落ちるときに雨がたてるような、ぱちぱちというはじける音が混じっている。
あたしは飛び起きた。
近くの岩に座っているかもしれない悪魔のことなんかもうどうでもよかった。おまえたちなんて、別の獲物を探しにいけばいいんだわ。あたしはかすれる気持ちでそう思った。
ほとんど気力は残っていなかったけれど、疲労と苦痛で体がぼろぼろになっていたけれど、岩の壁に耳を押しつけながら、気持ちをふるいたたせて這うように歩いた。長かった。何度もくじけそうになった。それでもあたしは前に進むことをやめなかった。やがて地面にさらに下に続く岩の階段があるところに出くわした。
あたしの胸は期待にふくらんだ。どんな風船よりも大きくふくらんだ。
階段は緩やかならせんになっていて、すこしずつ下へさがっていた。らせんを下りると、さらに下の方でランタンの光に何かが反射した。らせん階段はその光るものの下にもぐりこんでさらに続いていた。あたしは気が狂ったように駆けおりると、膝をつきその光るものの中に頭からつっこんだ。冷たかった。ぼんやりとした頭にも、うれしさがこみ上げてきた。両手ですくうとがつがつと飲みこんだ。あたしはついに心の底からほしかったものを手に入れた。
それは目の前でまぶしいほどに光りかがやき、あたしに、よくきたね、っていっていた。
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