第129話 今・加害者
不動産屋さんに連絡して、近々、家を見に来てもらうことになった。
まず、家をいくらくらいで貸せそうか、分からないと私が借りる部屋の方の予算も決まらないから。
思ったよりも家賃は安くなりそうだ。
お気に入りの家なのに、そんなに安く貸さなければならないとは、とても悲しい。
けれど、妹は、
「そんな不便なところで、それだけの金額で貸せるだけいいと思わなきゃ」
貸したいわけでもないのに。
自分が住んでいたいのに。
追い立てられて、追い出されて、いいと思えるはずがない。
民生委員さんに報告の電話。
家を売却することを考えた方が良いと勧められる。
「弁護士さんに相談するのもいいけれど、普通の場合と違うでしょう。
エコキュート がなくなるとか、この先もないと思うの。
あちらは自分たちが悪いとは思っていないのだし、加害者とは言えないでしょう?」
強烈な違和感。
誰も彼も、エコキュートをなくすことを考えてはくれない。
私の方が移動すれば良いと言う。
もちろん、私の体を心配してくれている事はわかっている。
けれど、私が腹が立つのは、みんな、『エコキュートは悪くない』と思っていること、だ。
確かに、向かいのKさんは、ただ宣伝に乗せられて、あるいは業者に勧められて、良いものだと思ってエコキュートを入れたのだ。
その時点でKさんは加害者ではない。
むしろ、被害者でもあるかもしれない。
けれど、私の状態を知って、被害を知って、その上で話し合いをも拒絶したあの瞬間から彼らは加害者になった。
彼らは、加害者に、なったのだ。
もしも重症の杉花粉症患者がいたとしよう。
薬を飲んでも、あまり効かない。もしくは薬を飲むことができなかった。
隣家に大きな杉の木がある。
春になるとその杉の木から大量の花粉が飛んできて、顔や目が腫れ、呼吸も困難になり、隣家の主に杉の木を切ってくれと頼んだとしよう。
杉の木を植えた隣家の主は加害者ではない。
その時点では何も知らないのだから、加害者ではなかった。
しかし、
「そんなことは知らない。
杉の木を植えるのは罪では無いのだから、そちらが勝手になんとかしろ。
どこへでも引っ越せばいいじゃないか」
と言った瞬間から、彼は加害者なのだ。
彼は、加害者に、変わる。
加害者に成ったのだ。
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