第68話 30代・イラスト教室
この頃は出かけるのがとにかくつらく、ほとんどどこにも外出しなくなってしまっていたが、唯一、妹は遠慮会釈なく手伝ってくれと言ってくるので、仕方なく鎌倉まで、社宅住まいの妹夫婦のところまでよく出向いていた。
当時は辛かったし、全く妹ときたら、うつ病と診断されている話をしたのに、想像力が足りないと思ったが、そうやって呼び出さなれなければ、そのままどこにも外出できなくなって、引きこもりになっていたかもしれない。
もう一つ、私が自分からすすんで外出していた先は、カルチャースクールのイラスト教室だった。
ここは、ひと月に一度しかクラスがなかったので、母も承知すると思い、母が亡くなる少し前に申し込んだ。
母が亡くなった時には、一期3回参加していて、半年で申し込んであったので一度休み、残り2度行った。
イラストといってもファッションイラストみたいなところで、基本の八等身のお人形さんのような女性に、雑誌に載っている服を着せた絵を何枚も描いていく。
誰でもできると言う売り文句の教室だった。
母が亡くなってから私はしばらくの間、このイラストを、まるで下請け仕事のようにひたすら書いていた。
とにかく単純作業に近く、何も考えずに描ける。
頭が真っ白になりたいだけだったので、ありがたかった。
結局続けてその教室に申し込み、ひと月に一度行っては家でひたすら同じような絵を描き続けた。
何ヶ月ぐらい経ったのか、夏だった気もするし、秋だった気もする。
その教室の先生の、更に上の先生が開いているというイラスト教室で、クロッキー会が定期的に催されるので、行ってみる気は無いかと誘われ、行くことにした。
知らない場所へ、積極的に出かけるのは本当に久しぶりだった。
クロッキーに何度か出かけているうちに、そちらの教室に通ってみないかと誘われ、入ることにした。
どこにも出かける気がしないでいるのに、絵を描きに行くことだけができる。
その頃は、もういたずら書きのようなものしか描かなくなっていたけれど、私は絵を描くのが好きだった。
どうせ、まだ、まともに働けそうもないし、そのイラスト教室は週2回、2〜3時間程度だったので、ちょうど良いリハビリになるのではないかと思った。

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