4・ガイル三世

 この世界で魔道士というのは国家さえも対抗できうる様々な能力を持った者もいた。ある者は退魔、あるものは破壊若しくは再生、そしてある者は召喚といった能力を有していた。


 ガイル三世が依頼しようとしていたのが召喚の魔道士であった。それは異世界から驚異的な能力を持つ生命体を呼び寄せる能力があるとされていた。ただ場合によっては大きく世界を変革して場合によっては破滅させかねないとして、昔から召喚にはいくつかの制約があった。


 依頼できるのは皇帝もしくは国王ないしはそれに準じる執政官といった国家元首に原則として限定され、召喚できるのは危急の事態に直面した時であり、結婚相手を探したいとか有能な人材を探したいというのは許されないとされていた。例外中の例外の事態でなければならなかった。また決められた大金を用意しないとされていた。


 今回の骸骨騎士団の侵略の場合、本来なら依頼は受理されるはずであったが、ガイル三世のそれは多くの魔道士から拒否された。その理由はガイル三世の地位の正当性が問題とされたためである。


 少し前まで農民階層にあり、それが常識外の下克上によって国王になった者からの依頼だから拒否するというのが表向きの理由であったが、本当は多くの魔道士は骸骨騎士団を恐れたからだ。


 過去にも骸骨騎士団は出現しており、ほぼ80年から150年に一度侵略の門を開ける、余談であるがこの世界では地獄門ともいわれているが、それが出現した国はほぼ滅亡していた。しかも魔導士が召喚した救世主だけでなく魔道士本人もこの世から消滅させられるとの記録があり、そのため依頼を断ったのだ、一人を除いて。


 いま親子で向かっているのはウェルズビルという魔道士だった。彼は世界で五本の指に入る有能な魔道士であったが、いまはもう引退に近い状態だった。今の年齢はおそらく800歳を超え、キャリアもそれに近いだけあるはずなのだが、能力が著しく衰えていると言われていて、依頼する者もいない状態だった。


 「おやじ!」


 エルザ=ナオミはしゃべったが、いくらお姫様の衣装を纏っていても元の教養のなさはなかなか治らなかった。それでも王族の証と言える美しい銀髪をしているが。


 「なんだあ、お前!」


 それに対するガイル三世もおよそ国王らしい言葉使いでなかった。娘と違って国王に即位する気などなかったのに、娘の強引さに押されて即位したので心づもりなど出来ていなかった。もっとも即位式も破壊された王宮ではなく、ある程度の建物が残っていた宰相府の前の広場で数人の立会人の前でしたので、国王らしい仕事は魔道士に異世界からの召喚を依頼しに行くのが最初だった。娘は足元にある大量の銀貨を持ってどこかに逃げようと言い出すのかと一瞬思った。一層の事、そっちの方が良いと咄嗟に感じたが違っていた。


 「この召喚の書にある救世主だけど」


 それはエルザ=ナオミが読んでいたものだった。羊皮紙には過去に召喚された異世界出身の救世主を紹介したものだ。救世主は大抵は非常に明晰な知的能力を有していたり、驚異的な身体能力を有していたりしているものだったしているものだった。なかには何で召喚したんだ? と疑問に思うのもいた。


 その書によれば、スライムのような有機物の塊多数であったり、貪欲な食欲を持つバッタ多数といったものもあったという。前者は危害を与えていた悪魔を滅した後もなにするわけでもなく国中で転がって迷惑な存在になったり、後者は勢い余って備蓄していた食料を喰い尽くしたという。そうなるのは召喚する魔導士の能力と依頼者の徳の力に左右されるからとされていた。そう、救世主は狙い通りに召喚できないのだ。


 だから、骸骨騎士団を撃退もしくは全滅させたいとしても、それに見合う救世主は召喚できるとは限らないのだ。実際、90年前に当時の軍事大国であったメアリアン共和国で出現した骸骨騎士団に対し、召喚されたのは金属の動く塊だったと言われており、その救世主を使いこなせずに世界から消滅したとされていた。


 娘が指さしたのはあるページの挿絵だった。そこには女の形をしているが人間とは思えない体表をしていた。顔に目鼻口はなくなんだが全身が強靭な皮膚に覆われているように見えた。

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