2・車上の親子
銀髪の少女は馬車の窓から外をのぞいていた。時折暗闇を一瞬照らす雷光が化物のように見える深い木々を映し出していた。そして次に照らす時はさっきとは異なる姿をしていた。そして足元は激しく震動していた。
彼女の名はエルザ=ナオミ・リョーグでリョーグ・ヴェルグ王国の次期国王の地位である王太子で父は現国王のガイル三世陛下であった。しかし、二人はほんの数日前まで片田舎の農民であった。そう猛烈な下克上を経験したばかりである。
二人はリョーグ王朝の血を引いていたが、その王位継承権は208番と209番であり、絶対継承するはずのない地位だった。また姓もカウヴェとしていて貴族階級に属さない一般人でしかなかった。そんな二人が王朝の領袖に迎え入れられた理由はひとつ、王朝が滅亡寸前だったからだ。いまやリョーグ・ヴェルグ王国は風前の灯であった。そんな状態なので有力な王位継承権を持つ貴族は国外脱出し、縁戚関係にある他国の貴族も全て拒否したのでお鉢が回ってきたわけだ。だから二人はある意味幸運であるが不運でしかない貧乏くじを引かされたのかもしれなかった。
その時二人が向かっていたのは異世界から救世主を召喚できる魔道士の元であった。それも数多くの魔道士に断られてやっとのことで引き受けてもらったところだった。だから、腕前は・・・期待できないかもしれなかった。
「なあエルザ=ナオミ! お前本当に良かったのか? わざわざ侵略の標的にならなくてもよかったんだろうに」
ガイル三世は疲れ切った顔をしていた。前国王が骸骨騎士団の攻撃により一家皆殺しにされ、同じ目に遭いたくないとして国民の大多数が逃亡していくなか、王国宰相府に呼び出され国王に即位するように迫られたのが数日前だった。はるか15代前の先祖が数多くいた国王の子女だったのを知ってはいたけど、まさかの事態に最初は断ろうとしていた、しかし・・・
「おやじい! いえ父上! あたい・・・じゃなくて、わたくしの夢だったのを覚えておられるでしょ、お姫様になりたいと! もし死ぬのならお姫様として死にたいしね!」
「おまえなあ・・・」
そう、お断りしようとしたのに、娘のエルザ=ナオミが受け入れてしまったから。本当なら女王として即位しても良かったが、成人年齢に達していないという理由で父が国王に推戴されてしまったのだ! こんな農産物の栽培と加工しか知らないような・・・まあ多少は格技は出来るが・・・男を国王にしたのは、無条件全面降伏した際に必要だったからに違いなかった。よくて降伏文章に署名させられるか、悪くすれば殺されるか・・・昔聞いたことがあったが、責任をとるために首領がいるものなんだと・・・
「それにね、同じ死ぬにしても何もしないよりもマシだから向っているのよね、魔道士のところに!」
エルザ=ナオミは初めて着たドレスをベタベタ触りながら言っていた。彼女は高級な生地の感触を楽しんでいたので、骸骨騎士団の恐怖からしばし解放されていた。その感覚は新鮮そのものであった。
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