【本編完結】俺を追放した幼馴染みがめっちゃベタベタしてくるんだが
竹腰美濃
第1話 おかしな追放
「マティアス、あんたはもうクビ! さっさとこのパーティーから出ていって!!!」
開口一番、冒険者の少年、マティアス・クロフォードはパーティーからの戦力外通告を受けた。
通告を出したのは、このパーティーのリーダーにして彼の幼馴染みでもある少女、カレン・ルークス。
カレンは17歳の若さにして冒険者の最高位であるS
……のだが、流石にこの突然の戦力外通告には誰しも疑問を抱かざるを得ない。
マティアスは勿論、パーティーの他の仲間も彼の戦力外に反対する。
「……いや、ちょっと待てよ! そんないきなり……俺、何かお前に悪いことしたか!?」
「そうだよリーダー! マティアスはずっと昔から一緒にやって来た仲間じゃん!」
「マティアスはA
パーティー最年少であるチコと、メガネ男子のジェシーが戦力外の撤回をカレンに訴えかける。
しかし3人から反対の声を受けてもなお、カレンの意思は変わらない。
「うるさいうるさい! クビって言ったらクビなの!
さっさといなくなってよぉっ! もおぅっ!」
カレンは顔を真っ赤にして子供のように駄々をこねはじめる。甲高い声でギャーギャー喚き散らす姿には、とても“天才”と呼ばれた面影は無かった。
(……うーん、流石にこれ以上は見苦しい。チコもジェシーも若干引いてるし、2人のカレンへの信頼が地に落ちる前に事情を説明しようか……)
ただ1人、この状況を面白そうな顔をして見ている少女の名前はリーネ。
カレンとはマティアスの次に古い付き合いの親友であり、精神的に幼い面があるカレンの保護者役でもある。
「……ちょっとちょっと。チコ、ジェシー、耳貸しなよ」
カレンの心情を察しているリーネが、それを説明するためにチコとジェシーを呼び寄せる。
それまではカレンのことを怪訝な目で見ていた2人だが、リーネの説明を聞くと納得したように頷いた。
「ああ~、なるほど。確かに、リーダーはマティアス君が絡むと露骨に……ねぇ?」
「うーむ……まぁ確かに、マティアスの存在によってカレンさんの実力が出しきれないというのは……」
「……まあ、可愛い理由とはいえ、あいつも考えなしにマティアスをクビにするってわけじゃないんだ。
ここはカレンの成長のために……」
「……おい、お前ら3人なにコソコソやってんだよ」
喚き散らすカレンを放ってコソコソ話している3人を怪しみ、マティアスは3人に声をかける。
マティアスとしては早くチコとジェシーに助勢に戻ってきてもらい、なんとかして自分のクビを撤回させようとしたのだが……
「……ゴメンね、マティアス君! 私はリーダーに味方します!」
「すまん! 俺のことは恨んでも、カレンさんのことは恨まないであげてくれ!」
「……はあっ!? ちょ、お前らなんで急に……」
「マティアス」
その時、リーネがマティアスに接近してくると、彼の頭を掴んで耳を自分の口元まで持ってきた。
「……ここは、受け入れてやってくれ。カレンは、君のことが嫌いなわけじゃない。むしろ、好きすぎるのが問題なんだ」
「……はあ?」
「……おっと、距離を近づけすぎたな。私の親友に睨まれてしまっているよ」
気づくと、さっきまで喚いていたカレンがピタッと黙り、リーネに向かって鋭い視線を向けている。
リーネはカレンの反応を面白がるようにケタケタ笑うと、両手を上げながらカレンの方に歩いて行った。
「ハハ、そんな怖い顔しないでよ? 心配しなくてもあんたの思い人を奪ったりしないって」
「はあっ!? お、おも、おももも……そんなわけないじゃん!!! あんなヤツ……もうっ! さっさとどっかいけよぉっ!!!」
結局、すぐにカレンは喚き直してしまった。
いつまで経ってもカレンはこの調子で、3人の仲間は皆カレン側についている。
こうなっては、最早この場を収める方法は1つしか残っていなかった。
「……ハァ、分かったよ。出てけばいいんだろ?」
とうとう諦めた顔をしてこの場を立ち去るマティアス。
仲間に背を向けてすごすごと歩くその背中に、リーネからの言葉が届いてきた。
「マティアス……すまないね、受け入れてくれて」
そのリーネの声はいつもとは違った弱々しい声であり、彼女はこの件については心から申し訳無いと思っていることも、マティアスは理解した。
(……分かってるよ。お前らは本当にいいヤツだってこと……でも、それなら何で俺が追放されなきゃいけないんだ? それは多分聞いても答えてくれないだろう。それなら、せめて……)
「……なぁ、最後に聞いてもいいか? カレン……」
皆の前から立ち去る前に、マティアスはどうしても聞きたいことを聞くことにした。
彼は、背中を向けたままでカレンに問いかける。
「……お呼びだよ。ちゃんと答えてやりな」
「……うん。何?」
カレンの声は真剣な口調に戻り、ようやくマティアスの話を真面目に聞く気になってくれた。
彼女も、マティアスが追放を受け入れた上で自分に質問をしてくるというのは分かっているのだ。
「……またいつか、俺はこのパーティーに戻ってこられるのか?」
「勿論だよっ!!!」
カレンの答えは、ビックリするくらいの即答だった。マティアスもこの即答ぶりは流石に想定しておらず、驚きのあまりカレンの方向を振り返る。
その時彼が見たのは、涙目になったカレンの悲しそうな顔だった。
彼女の顔はどう見てもマティアスに「行くな」と言っているが、口からは正反対の言葉が出てくる。
「……もうっ、なんで止まってんのよっ! さっさとどっか行ってよぉっ!!!」
「……そうかい。それじゃあ、またいつか戻ってくるよ」
このパーティーに戻ってきてもいい。そんな風に、帰る場所をあらかじめ与えられている追放なんて、聞いたことがない。
でも、みんなの顔を見れば分かる。追放された原因は分からないけど、それさえ解消できればマティアスはまた戻ってこられると。
「……ま、たまには1人になってみるのもいいかもな」
マティアスは、しばらくの間1人で行動することを決めた。
いつか、みんなが戻ってきてもいいと言ってくれるその日まで、少しでも強くなるために鍛練をしたり、勉強をしたり……彼の頭の中には、様々な構想が湧き出ていた。
(自分磨きの方法なんていくらでもある! いつかみんなと再会した時に、成長した俺を見せてびっくりさせてやろう!)
そう。この時のマティアスは、てっきり長い間みんなと別れることになるとばかり思っていた……まさか追放された次の日に、追放を宣言した張本人が家に来るなんてことを想像できるはずがなかった。
「……カレン、なんでお前俺の家に来てるの?」
「……何でだろうね。いや、ホント……」
パーティーを追放されたこの日から、マティアスとカレンは今までとは違う関係になっていくのである。
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