聖強教団設立の挨拶
魔皇亜人戦争の終結を迎え、皆さんの周りは如何でしょうか?
人がまた集まり、村を再建し、畑を耕し、作物は実り、街を復興し、城壁は建て直され、この国を襲った災厄の傷跡は、新しい生活に塗り替えられています。
今日よりも明日、明日よりも明後日の生活が、さらに良いものへと変わって行く事の喜びは、大いなる希望です。この平和な日々がいつまでも続くようにと、願わずにはいられません。
しかしまた、我々は忘れてはいないでしょうか?
あの痛ましい戦争が始まる前にも、同じような楽観をしていた事を。今までもこれからも、このような毎日が続くのだと、根拠もなく信じていた事を。
真実、天空から星を降らせ、壁も城も街も人々も焼き尽くす魔皇が、残虐極まる災禍を齎すなどと、考えていたでしょうか?
邪知暴虐なるヤルダバオト、徘徊する煉獄の化身など、人知を超える怪物を想像するなど不可能と言われるかもしれません。
ただ、思い返して欲しい。
私たちは、魔神襲来の歴史を、悪魔の存在を聞いたことがあるでしょう。
信仰を礎とする聖王国の民が、悪魔が人々の生命だけでなく尊厳すら奪う冒涜を平然と行う、醜悪で邪悪な存在であると知らなかったと言うのでしょうか?
そして亜人の襲来を、この国は何度となく経験してきたのです。
徴兵され壁にて戦って来た者たちは、恐ろしい亜人たちが黒い渦となって襲来し、人を裂き、
私たちには知識があった。
それを活用しなかったのは誰でしょうか?
私たちには歴史があった。
それを忘却していたのは誰でしょうか?
私たちには経験があった。
それを蓄積し得なかったのは誰でしょうか?
そうした日々の果てに何が起こったのかを、私は忘れる事が出来ません。
その結果を、皆さんも覚えているでしょう。
身を切るような寒空の下、着る物すらなく、飲み物も食べ物もなく、飢えと寒さで身も心も凍える囚われの日々を。
子を、親を、家族を奪われ、友を、知人を、隣人を亡くし続けるだけの喪失の最果てに至って尚、簒奪され続けるしかない己の無力さに打ち
今までの人生で積み上げてきたすべてを喪失し、口に広がるのは絶望の苦味だけ。
私は忘れません。
父から受け継いだ力と知識を活かせず、母が教えてくれた覚悟と勇気すら一欠けらもなく、生きたまま亜人に喰われる民を見殺しにし、亜人の盾となる為に縛り付けられた子供たちを射殺した者を。
私は忘れません。
守るべき民を見捨て、救うべき子供たちを殺しておきながら、自らは無様にも生きる事に執着し、亜人の侵攻に立ち向かいその身を挺して守ってくれた周囲の兵士たちが全滅したにも関わらず、その城壁で一人生き残ってしまった卑劣漢を。
私は永劫に亘って忘れません。
こうして皆の前に立つ者、ネイア・バラハの犯してきた罪のすべてを。
私は、私の弱さを赦しません。
私は、私の矮小さを赦しません。
そして、そんな私を
私はより強い力を得る事を諦めない。
私はより深く知識を得る事を諦めない。
私はより長く歴史を作る事を諦めない。
私はより広く平和な楽土を築く事を諦めない。
私はより多くの人々が手を取り合って生きる未来を諦めない。いつかは人の垣根を超え、より多くの存在が互いに協力し合える世界を諦めない。
ただ、私による犠牲者は、死者となって私を責め苛むでしょう。いつかは逃れられない死が、私の宿命となって現れる。
ならば私はその時まで、皆と共にある事を誓います。
もし、過去の亡霊があなたを襲い、新しい一歩を踏み出す勇気が湧かなかったとしたら、私がその足元を照らしましょう。
困難が道を塞ぎ、苦難が行先を闇に覆っても、それが例え僅かな光であろうと、未来の希望を指し示しましょう。
なにより、私が一歩を踏み出し、光を見出したように、皆さんの想いもまた他の人々の力となりましょう。
皆さん。いえ、友よ! ここに来て、私に力を貸してください。
次なる力の扉を開くのは、あなたが踏み出すその瞬間。自らの身の内に眠る高潔さに気付くのに、遅すぎる事はありません。
拳を振り上げ、毅然として大地に立ち、己の惰弱を振り払うべく悪徳に挑む友よ。今ここに集うは勇士、そして未来の勇者たちに告げます。
私の目的は一つ。
私の弱さを克服し、皆で力を掴み取り、人々を平和の内に守り続ける為に、降り掛かる試練そのすべてに勝利する事。
天の瘴気を薙ぎ払い、地の怨嗟を打ち砕き、人の弱き心に潜む悪を、白日の下に撃退せしめる。
来たれ、愛する者を守らんとする友よ。
来たれ、残酷を赦さぬとする不撓不屈の友よ。
来たれ、魂の安寧を齎さんとする慈愛を体現する友よ。
来たれ、この聖王国に、二度と再び悪は栄えぬと、挫けぬ意志もつ勇者たちよ。
私は命ある限り、皆を、友を、人を、私に連なるすべてを守るために、最も古き原初より常に新しき力まで、求める事に邁進するなり!
故に、私は今日! 新たな一歩を踏み出します!
聖王国に暮すみんなを
強くするために
教えを広く集める
団体
代表:ネイア・バラハ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます