異世界を科学する
匠錬
プロローグ
第1話人類の進化と異世界の可能性
地球が位置するこの宇宙が誕生してから約138億年。数多の惑星が形成されては、消滅していった。これらの惑星の中には生命が宿る惑星が有ったのだろうか?この銀河、この宇宙には我々以外の知的生命体が存在するのだろうか?
パタン...
「シュウ!今日は教授との打ち合わせでしょ。そんな大昔の本なんて読んでないで、そろそろ行かないと遅刻するわよ!」
テレポーテーションができる時代に遅刻もクソもないが、生憎僕の両親は発達しすぎた科学技術を極力使わないで生活している温故派の人たちだ。
「大丈夫だよ。今から歩いて行っても、5分前には着く計算だから。それに、教授が時間通りにやってくる訳がないしね」。
僕が苦笑いしていると、後ろから母さんが心配そうな顔でのぞき込んでくる。
「ねえ、本当に惑星探査に行くつもりなの?いくら安全だって言っても、万が一っていうこともあるじゃない?」。
「そんなに遠くに行くわけじゃないし、万が一の時の為に教授についてきてもらうんだから、大丈夫だよ。この話、何回もしたよね?」。
「もう!分かったわよ。今日の帰り、遅くならないでよね!」。
「はいはい。僕も夜に馬鹿みたいに徒歩で帰りたくはないからね。じゃ、行ってきます」。
人類が度重なる世界大戦と地球温暖化によって絶滅の危機に瀕してから、約1万年。その人口は、全盛期の100分の1にまで縮小していた。一方で、過酷な生存環境は人類に大きな進化をもたらす。精強で長命な肉体と、肉体との分離に耐えうる精神である。今日、人類の平均寿命は500歳を超える。また、多くの科学者が自らの肉体の崩壊を乗り越え、その思考を新たな肉体へと移し活動と休眠を繰り返しながら新たな技術を生み出している。
これにより、人類の科学技術は飛躍的成長を遂げる。量子力学の完成は、炭素から瞬時にダイヤモンドを生成するといった錬金術まがいのことを可能にし、時間と空間の征服は、テレポーテーションやワームホールを可能にした。
一方で、科学技術の発展と同時に神や魔法といった摩訶不思議な存在の可能性はどんどん薄れてしまった。現在では、地球が存在するES-1宇宙の他に数百の宇宙が観測され、比較的簡単に行き来することができる。また素粒子を自在に操る力は、魔法が可能にする現象と比べても遜色がない。科学者の中には「いわゆる神に出来て私にできないことなどない」と豪語する者も居るようだ。
しかし、残念なことに人類以外の知的生命体の存在は未だ確認されていない。いくつかの惑星で原初生命体や哺乳類に類似した生命は確認されたが、それらが知性を持つまで少なくとも億単位の時間がかかるだろう。
「遅い…あの野郎、いったいどれだけ待たせる気だ。毎回思うんだが、あいつ絶対時間通りに来る気ないだろ」。
ふと、シュウは後ろから何かで目を隠されるのを感じる。
「なーんだ?」。
「これは、ケプラー452bで近年発見された動物の前足ですか?教授、悪ふざけをしてないで早く席についてください。ただでさえ、30分遅れているんですよ」。
「シュウ=ローレンス君、カリカリしていては世紀の大発見をしても往々にして見逃してしまうものだよ」。
そう言って、ウィリアムは軽薄な笑いを浮かべながら席に着いた。
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