追ってくる美少女、逃げる俺
学校の帰り道。部活動に入っていない俺は授業を終えるとすぐに家に向かっていた。いつもなら、泉とゲーセンに行ったり、河川敷に行ってサッカーしたりする。しかし、今日のアイツは用事があるということだったので、家に直行していた。
していたのだが……………………。
「はーやーとーくん♡」
背後から、甘―い声で俺の名前を呼んでいる。この声が聞こえたとき、素早く逃げるべきであることは知っていた。
なぜか。
それは声の主の女が危険人物であるからである。
俺は振り返ることなく、家へと足を進める。
「はーやーとーくん♡ なんで無視するのぉー」
早歩きをしていたが、女の声と足音が近くなっていく。自然と俺は走り出す。
「なーんーでぇ、逃げるのぉー」
お前が追いかけてくるからだよ、俺が1人で帰る時はいっつも。
そうやって、一切後ろを振り向かず、走っているとようやく愛する我が家の姿が見えた。
よし、あとちょっとだ。
「はーやーとー……………………くんっ♡」
その女の声が聞こえた瞬間、背中に柔らかいものがぶつかる。肩からは華奢な腕が伸びている。
ゆっくりゆっくり振り向くと、頬をほんのり赤く染めた美少女の顔。月のような黄色い瞳を真っすぐこちらに向けている。淡い紫色の髪を持つ彼女は俺の学校の制服を着ていた。
普通の美少女に抱き着かれれば、当然鼻血を吹きだし気絶するだろう。しかし、女の正体を知っている俺は嫌悪の気持ちしかなかった。
最悪だ……………………。
「やっと捕まえたよぉ、はーやーとーくんっ♡」
「放せよ。俺はお前に用はない」
「私はあるのぉ。お話しましょ♡」
「しない。大体お前の用ってろくなことがないだろ」
やたらと色気を醸し出し俺に頼み込んでくるこの女の名前は
そんなやつが寄ってくる理由は魔法陣以外に何もない。
「ろくなことではなかったでしょ?? ただ私が『素敵な
ここまではいい……………………まだいい。
俺の首を白い手が這ってくる。
「それとぉ、『はやとくんに近づく女を全て消せるような魔法陣作って』って言っただけじゃなーい」
夜宵はフフフっと俺の耳元で笑う。
そう、この女は俺の
そして、異世界で魔女をしていた女。
「魔法陣をそんな容易に使うと面倒事が起きるだろ」
「私がいたらぁ、なんともないわよぉ」
「大体俺はなんでお前の言うことを聞かないといけないんだ。聞くメリットがない」
「あらぁ、忘れたのかしらぁ。私がこの世界にいるのはあなたが連れてきたからでしょお??」
「間違えるなよ、お前が
「じゃあ、なんで私を元の世界に戻さないのよぉ。はやとくんなら余裕でしょ??」
「……………………」
確かに俺なら、魔法陣を書いてこの女を転送することぐらい簡単だ。だが、俺にも事情ってもんがある。決してこの女を好いているからではないが。
「あ、さては私を利用できるとでも思っているのねぇ」
「ビンゴだよ」
俺はいつか文字を書けるようになりたい。ペンを持って、ちゃんと魔法陣以外のものも書いてみたい。何語でもいいから。
そんな思いでこの魔女をこの世界に残していた。俺の魔法陣病を何とかできないかと考えて。
すると、美少女の魔女はニヤリと悪魔のように笑う。
「ざーんねん。天才の魔女の私でもはやとくんの病は治せないわぁ」
「じゃあ、お前にはもう用ないな。元の世界に戻してやるよ」
蔓のように巻き付いていた魔女の手を振り払い、足元に落ちていた石ころを拾う。
この石なら、魔法陣は書けるだろ。
地面に座り込んで、道路に書こうとした瞬間、
「ちょっ、ちょっと待ってぇ。1つだけ試したいことがあるのよぉ」
「試したいこと??」
どうせ、ろくなことじゃねーんだろうな。
「ちょっと、私の家に来てくれるぅー??」
「……………………怪しさ満載だな」
「私の家は普通よ、怪しいものはほぼないわぁ。魔女にしてはね」
夜宵は紫ロングの髪をふわりと揺らして背を向けると、自分の家に向かうのか真っすぐ歩いていく。俺の家の前を通り過ぎて。
「そーですか」
家の前でふぅーと息をつく。
そして、美少女魔女の試しごとがつい気になった俺は彼女の後について行った。
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