「研究棟にて」
今日は日曜日。朝から香坂邸に集まった私達は、ティーファ・オルゼからの連絡を待っていた。中々、メッセージが来なくて
「ここは私の研究棟です」
通話が始まって、開口一番にティーファ・オルゼが言った。背後には薄暗い照明に照らされて、真っ白い壁に囲まれた部屋が映っている。部屋に置かれた机の上には試験瓶の様な物が
「研究棟……ティーファは何かの研究をしているのか?」
「ええ。私は『魔道具』と呼ばれる、魔法を使えない人の為の道具を作る仕事をしています。錬金術師と呼ばれる仕事です」
「へえ。凄いな」
「ここが異世界だと信じてもらうために見てもらいたい物があります」
ティーファ・オルゼは、そう言うと部屋を出た。
「何処に行くんだ?」
「屋上です」
抑揚のない声で答えたティーファ・オルゼは、黙々と階段を上り始める。
屋上に着いた。
「これを見てください」
ティーファ・オルゼは、カメラを空へと向けた。
そこには3つの月があった。
「そちらに住む、何人かの男性と話してて気付いたのですが、そちらには月が一つしかないんですよね?こちらには赤い月、青い月、黄色い月があります」
「……」
「どうですか?悟。信じてくれましたか?」
「そうだな」
「……まだ少し疑念があるようですね」
ふぅ、と
「これなら、どうですか?」
ティーファ・オルゼが、ピーっと笛を吹くと、数十秒もせずに大きな影が月明りに照らされて、ティーファ・オルゼの方へ向かってきた。
ドラゴンだった。
「そちらの世界にはドラゴンが居ないとも聞いてます。他にもユニコーンやサラマンダーなんかも、この研究棟には居ますよ」
「分かった。信じるよ」
「よかった。ありがとう、悟」
ティーファ・オルゼは
「ティーファ。君が異世界人だって事は理解したけど、それじゃ俺達は出会えない訳だよな?もし俺が君に恋愛感情を抱いたとしても会えないんじゃ、意味がなくないか?」
「いえ……会えるんですよ」
「どういう事だ?」
ティーファ・オルゼは真剣な眼差しをして悟さんに言った。
「私の知り合いが、この術式を使って、そちらの世界に永住しました。彼女の日記を読むと、徐々にそちらの世界に行ける時間が増えていったようです」
「そうなのか」
「いつになるか分からないですが、私達は出会えますよ」
ティーファ・オルゼは優しい口調で悟さんに告げた。
「これからもよろしくお願いします、悟。では、今日はこの辺で」
そう言うと、ティーファ・オルゼは通話を終えた。
「どう思う?」
通話を終えるなり、悟さんは私達のいるリビングに戻って意見を聞いてきた。
「そうね……やはりこのままマッチングを続けて、ティーファの考えや動向をチェックするしかないかも」
「だよなあ……」
悟さんは腕組みをして、天井を見た。
「今週いっぱい、有給を取ったわ。ゆっくり考えていきましょう」
「そうか。俺もそうするよ」
「悪いわね」
悟さんは会社に電話してくるよ、と言って部屋を出て行った。私達は無言のまま、悟さんが戻って来るのを待った。
これからどうすれば良いのか。恐らくティーファ・オルゼは、程なくしてこちらの世界にやって来る。その時、彼女を止める事が出来るのだろうか。重苦しい雰囲気が部屋を包む。
皆が思い思いに考え込んでいると、突然、アメリアの首元にある小型水晶が光った。アメリアが慌てて、小型水晶を掴んで術式を展開した。
「メッセージです」
「メッセージ?もしかして、その小型水晶はまだアルトリアと繋がっているの?」
「いえ……そんな
「取り合えず、読んでみて」
「ハイ……」
アメリアが恐る恐ると言った表情で視線を小型水晶へやった。
「……神様?という名前の差出人になってイマス」
「神様?」
「ハイ」
「内容は?」
アメリアがメッセージの内容を読み上げる。
「おめでとう。君はレベル30を超えた数少ない人物ダ。お礼にコドモが早く生まれる様にシタ。生まれてくる子供は我々の一員とナル。生まれたら直ぐに迎えに行くヨ」
「なんだって!?」
香坂潤は怒気を込めて言った。
「どういう事……?神様?その人がこのアプリを作ったのかな?」
「春日部さん……悟さんが戻ったら、また話し合いましょう」
皆が動揺しているのを見て、私は冷静になる様に、と注意した。
本当はこれからの事を神様に祈りたかったが、それは悪魔かも知れなかった。
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