「信頼」

「今朝、私が異世界に住んでいると言った話、信じてくれましたか?」

 ティーファ・オルゼの言葉に、悟さんは首を横に振った。ハロルドと話した数時間後に、ティーファ・オルゼから、通話しませんか?と言うメッセージが届いて、皆で相談した結果、通話をする事にしたのだ。隣の部屋で声を殺して見守りながら、必死でメモを取る。念のため、春日部遥が自分のスマートフォンで、その様子を録画していた。


「やっぱり、そんなの信じられないよ、ティーファ。なにか証拠でも見せてくれるなら別だけど」

「分かりました。ずは、私の住んでいる国の景色をご覧ください」

 ティーファ・オルゼは、自分の部屋の窓からの景色を、悟さんのスマートフォンの画面に映した。そこには中世ヨーロッパの様な景色が映し出されている。


「どうですか?」

「う~ん。俺の居る世界にも似たような景色の国はあるからな……。他には何かないのか?それだけだと、証拠としては弱い」

「分かりました。では、こういうのはどうですか?」

 ティーファ・オルゼは自分のてのひらを上に向けて、まばたきをした。すると掌から炎が巻き起こった。


「どうですか?こっちの世界では魔法が使えます。そちらにはないのですよね?」

「ああ……。ん?俺、こっちの世界に魔法がない事を君に伝えた事があったか?」

 ティーファ・オルゼは一瞬、苦い顔をして溜息ためいき混じりに答えた。


「悟……貴方は聡明そうめいな方ですね。実は私は貴方以外の人ともマッチングしています。なので、そちらの世界の事を多少、存じ上げているのですよ」

「そうなのか……少しショックだな」

「すみません。ですが、貴方との関係を良いものにしたいという考えに嘘はありません。だから、私が異世界に住んでいるという事を伝えたのです。このままだと、騙しているような気になってしまって」

「なるほど。確かにこちらには魔法はないけれど、似たような技術があってね。掌から炎を出すくらいの芸当なら、少し時間は必要だけど、訓練すれば誰でも出来るんだよ。こっちの世界では手品って言う分野の技術でね」

「……そうですか。では、そちらの世界には絶対に無い物をお見せしますね。少し時間を下さい。また明日、連絡します」

 通話が終わった。悟さんは、ほっとしたのか天井を見上げて深く嘆息たんそくした。


「どうだった?こんな感じで良かったかな?」

「ええ。こちらの世界の話もしなかったし、時間も稼げてる。完璧だと思うわ」

「良かった。いやあ、少し緊張したな」

「ティーファ・オルゼが『そちらの世界には絶対に無い物をお見せしますね』って言ってたけど、何を見せる気なのかしら」

「美咲は何だと思う?」

「う~ん。私がハロルドが異世界人だと確信したのは、ドラゴンを見せてくれたからなのよね。だから、異世界にしかない生き物か何かだと思うわ」

「え?あっちの世界にはドラゴンが居るのか?架空の生き物じゃないか」

「そうなのよ。それも気になるの。こちらの世界での空想上の生き物が、あちらの世界にはちゃんと存在するのよ。偶然もここまで重なると、何かの意思に操られている気になるわね」

「……」

 悟さんは腕組みをして、目を閉じた。皆も色々な事を考え始めたのか、沈黙が流れる。


「気になる事がアリマス」

 アメリアが、その沈黙を破った。


「なんや、アメリア?」

「昨日、情報共有をシタ時に、美咲さんから聞いた話で、気付いた事がアルンデス。オルゼ家の秘匿の書を読んだティーファ先生が、オルゼ家の先祖は異世界人……こちらの世界の住人ではナイカと予想してイマシタヨネ?」

 アメリアは、少し不安そうに言葉を続ける。


「私も、その意見に賛同シマス……こちらの世界に来て、驚く事は多かったデスガ、逆に驚かなかった事も多くアリマシタ。例えば、夜中でも道を照らしてクレル街頭……あれは、アルトリアにもありますし、他にも似たような技術を多く目にシマシタ。私達の世界……アルトリアと、地球は、昔、繋がりか交流があったのではナイカ、と私は思いマス」

「確かにそうやな……アメリア、こっちの世界に、直ぐに馴染んだしな」

 香坂潤はアメリアを見つめながら、うんうんと首を振った。


「ハロルドと初めて通話した時に、異世界からアルトリアに現れた人が居るって伝承があるって言ってたわ。実際に、この術式アプリを使わずにアルトリアへ行った人が居るのかも知れないわね」

「課長は、その異世界に行った地球人が、アルトリアに文明をもたらしたのかも知れないと考えてる訳ですね?」

「そうなのよ、春日部さん。それなら色々な事に説明が付くのよ」

「地球人がアルトリアに行ったとして……そこで暮らすために、地球の技術をアルトリア人に教えた、と?」

「そう。私はそう予想するわ」

 私の言葉に、春日部遥は深くうなずいた。


「皆さん、そろそろ夕飯にしませんか?」

 重苦しい空気を断ち切るかの様に、香坂潤が明るい声で言った。


「そうそう!なにか美味しい物を食べないと、良いアイデアなんて浮かびませんもんね!潤くん、この辺で美味しい物って何があるの?」

 春日部遥の発言に、皆が笑い始めて、一気に場が明るくなった。


「皆で串カツ行きませんか?美味しくて安い店が近くにあるんです」

「行こう行こう!さ、皆さん、ちゃちゃっと準備しましょ!」

 分かったわよ、と言って、私達は身支度を始めた。


























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