3章 第14話 玲華の急襲

 家に帰っている最中、純哉からLIMEが入った。

 連絡が入っていたのは、俺個人のほうではなく、グループチャットのほうだ。メンバーは純哉のほか、俺と凛と愛梨が入っている。


『愛梨とアイビスなうだけど、来ないか?』


 そういえば、あの文化祭騒動から今日に至るまで、純哉や愛梨とゆっくり話す時間もなかった。凛の撮影が始まれば、きっと今月は土日も学校終わりも潰れる可能性が高い。

 一応陽介さんからは、参加は自由でいいと言われたが、そういうわけにもいかない。なるべく可能な限り、いや、ほぼ全日程参加すべきだと思っている。それが、俺の戦いでもあるからだ。

 そう考えると、少しそのあたりのことは彼らにも話しておいたほうがいいだろう。

 面倒ではあるが、一旦家に荷物を置きに帰った。

 母親に夕飯はいらないと伝えてから、自転車に跨って喫茶”アイビス”に向かう。


 アイビスに入ると、客は愛梨と純哉だけだった。

 2人とも制服だから、家には帰っていないようだ。ほんとに暇だよな、こいつら。

 愛梨と純哉は窓際の4人席に2人並んで座っていたので、向い合せになる形で座る。

 多分俺と凛のために2人分空けてくれてたのだろう。


「あれ? なんだよ、1人か」


 ついて早々、純哉が落胆の声を上げる。


「悪かったな、俺だけで」


 どうやら純哉は凛目当てだったらしい。


「あ、マスター。本日のパスタ定食お願い。ドリンクはアイスコーヒーで」

「はいよ」


 少しマスターの目が悪戯気に笑っている気がする。

 先日の玲華との事を思っているのだろう。意地の悪いやつだ。


「あ、じゃあ既読つけてないのは凛ちゃんか」


 純哉が携帯電話を取り出して言った。

 そういえば、LIMEのグループチャットを開いてみると、既読数が2になっていた。

 4人グループの場合、自分含めて全員読んでいると、既読数が3になるはずなので、誰かが見ていないことになる。


(多分、電源切って練習してるんだろうな)


 もしかすると、凛は集中するために下界の情報は全て断ち切るタイプなのかもしれない。いや、そうでもしないとダメな状況と考えた方がいいか。


「あー、多分凛はしばらく来れない。ていうか学校もちょくちょく休むかも」

「え? どうしたんだよ、凛ちゃん。どっか具合悪いのか? 今日そんな風に見えなかったけど」


 純哉を心配させてしまっているようだ。

 これは⋯⋯どの程度まで言っていいのかな。まだ未公開情報だし、あんまり言わないほうがいいかも。


「ちょっと芸能の仕事の代役が決まったみたいで、忙しいんだって」

「あー、それで残ってたのか、お前ら」


 愛梨は相変わらずタバコを吹かしながら、訊いてきた。

 こいつ、最近吸う量増えてないか?


「俺は待ってただけだけどな」

「はいはい、お熱いことで」


 呆れ顔で、しっしっと愛梨が鬱陶しそうに払う仕草をする。


「ちょっと待てよ、じゃあRINは復活するのか?」


 純哉が目を輝かせた。


「いや、今回だけだって。あくまでも急な事情みたいで」

「なんだ、復活じゃねーのかぁ」


 一転、落胆する。


「凛ってさ、実際復活望まれてるの?」


 俺はRINの情報をほとんど知らない。

 そこに需要があるのかないのかは、知っておきたかった。


「うーん、誰かさんとの写真撮られちまったからなぁ」


 じとっとした目で純哉が言う。

 それって俺のせいなのか⋯?


「まあ、でもRINは女性誌とかのモデルがメインだったし、あんまり影響ないんじゃないか? あの週刊誌だって、結局そんなに騒がれなかっただろ」

「どっちかって言うと、女性ファンのほうが多いイメージだったしな」


 愛梨が補足した。

 ここで、お前みたいにな、などと言おうものなら、根性焼きされるのは目に見えている。


「ただ、流れも早いからな。実際RINの代わりに出てきたREIKAが人気大爆発で、今復活したところで⋯⋯」


 と、純哉が話を続けていたところ、ドアベルが鳴った。

 ふとそちらに目をやると、


「ハーイ、ショー♪」


 ちょうど話題になっていたREIKAこと玲華が機嫌良さそうに現れた。

 最悪だ。また台風直撃だよ。


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