第36話 夢幻の如く
レオ皇帝の離婚を突き付けに行った、リーザロットを見送るしかなかったマサキだが、これは不味いだろうと我に返った。
「シャル。追い掛けようぜ。」
「そうですね。」
シャルロットと、リーザロットを追いかけて、皇帝執務室に到着した。中に入ると、離婚騒動が起きていた。
(話、聞きたいんだけどなぁ…。)
マサキはソファに腰掛けて、ルキウスを呼んだ。
「ルキウス、テリウスの母親と言うのは、ケッペル侯爵とは、頻繁に会っているのだろうか?」
「そうですねぇ、週に2,3度は会っていると思いますね。」
「壮大な計画だが、恐らくテリウスを幼少期から、貴方が皇帝になるだとか、世界を征服出来るだとか、擦り込みの様な、教育をされて来ている可能性が高い。
黒幕が、皇妃かケッペルかと言うところだが、今の所、証拠はない。で、考えられるのは、息子を溺愛している皇妃を使って、テリウスを牢から出そうとする筈だ。
ケッペルがな。これは絶対に阻止しなければ、帝国が終わると思ってくれ。」
「そんな事が……。承知しました。」
「アイリーンからも少し話を聞いたが、皇妃がテリウスを離さなかったと聞いた。だとすると、可能性は高いと思う。ケッペルは、テリウスが皇帝になれば、帝国が自分の思い通りになると思っているはずだ。」
「うーむ。ないとは言えませんね。」
「俺が、問題だと思っているのは、レオ皇帝に皇妃の処断が出来るか?と言う事だ。」
「あー、確かに。」
ルキウスとマサキは、天井を仰いだ。どうした物かと。
リーザロットがツカツカと歩み寄って来た。
「話は付きましたわ。たった今、離婚致しました。」
「えー!?」
マサキは、皇帝を見た。
「レオ親父。なんで離婚すんだ?」
「仕方なかろう。ずっと放置しておったのだから。」
「あぁ、そう……。ところでさ、レオ親父。皇妃を処断する事は出来るか?」
「なんの話だ?」
「テリウスの件。証拠はないが、ケッペルが黒幕の可能性が高い。幼少の頃から、貴方が皇帝になるとか、世界を征服できるとか、擦り込み教育されていた可能性が高いと思う。テリウスが皇帝になれば、自分の思い通りになるともな。とは言え、テリウスが更生するのは、無理だがな。」
意外な事にリーザロットが言う。
「あぁ、そんな事?エリザは良く言ってたわよ、テリウス君に。貴方は偉大な皇帝になるとか、皇帝になって世界を征服するのよ、とか。今だって、そんな話してるわよ?ケッペル侯爵と一緒に。」
「あら~、証拠出ちゃった。さて、レオ親父。どうする?今すぐ処断しろとは言わないが、問題は絶対に、テリウスを奪還に来ると言う事だ。今、テリウスを牢から出されたら、帝国が終わると思ってくれ。」
レオ皇帝は頭を抱えた。
「陰謀か……。王国も大変そうだったが、うちもか。」
「明日と明後日は、俺は来られないぞ?テリウスの奪還は、絶対阻止だからな。でないと、次に何が起きるか分からない。皇帝もルキウスも命が危険になってしまう。他に帝位継承順位があるのは?」
「今は、シャルロットだけだ。」
「シャルは、俺が連れて行くから良いとして、ルキウスが危ないな。ケッペルと言うのは、どの程度の力を持っている?」
「領地は持たせているが、元々政治力はない男でな、役職にはつけていないんだよな。だから、それ程、脅威には思っていなかったんだ。」
「馬鹿は隔世遺伝か。だが、金は持っているんだろ?」
「そうだな、持っている筈だ。」
「暗殺者の忍びを金で雇っていたとしたら、そう言う組織と繋がっている事になる。暗殺者自体は王国で俺が捕縛したから、居るとすれば別口になるだろうが、どんな連中を使ってくるか、分からないな。」
マサキは
「テリウスを王国へ連れて行こう。向こうの牢まで来られると思えない。」
レオ皇帝は、苦虫を潰した様な顔だが、それでも言った。
「頼めるか?」
「ああ、明日の夜まで、王国に置いて、明日の夜には連れて来るつもりだ。俺の仕事が順調ならば、だがな。」
マサキは、少しだけ時間をくれと言い、シャルロットルームに向かった。そこで直接屋敷へのゲートを開き、顔だけ屋敷に出した。
「弥助、椿、仕事行ける?」
「はいさ。」
「はい。大丈夫です。」
マサキは手招きした。
弥助と椿がシャルロットルームに来ると、指示を出した。
「皇帝の妃のエリザとケッペル侯爵と言うのを、見張ってくれ。恐らく、テリウス奪還に動く筈だ。そう言う動きが見えたら、皇帝に知らせて欲しい。明日は、俺はローレル行って、すぐ帰るから。一応テリウスは、王国の牢にぶち込んでおこうと思っている。」
「なるほど、承知しました。テリウスの陰謀の詳細が見えてきたんですね?」
「そういう事だ。弥助は知っていると思うが、前に帝国から暗殺者が送られて来ただろ?あれを送り込んだのは、恐らくケッペルだ。充分注意してくれ。そういう組織と繋がっていると見た方が良い。」
「椿は、皇妃のエリザを見張って欲しい。が、これも危険だと思う。絶対に無理はするな。お前達が死ぬ時は、俺が死ぬ時だと思っておけ。良いな?」
「「承知しました。」」
弥助と椿はすぅーっと影に溶けていった。
マサキは、皇帝執務室に戻ると、レオに言った。
「レオ親父。今、俺の配下の忍びを2名城内に入れた。で、エリザ妃とケッペルの監視を命じておいた。どういう手段を取るかわからないが、動きがある場合、皇帝に知らせが入る筈だ。そう言う物だと思っていてくれ。」
「あぁ、助かる。」
「じゃ、テリウスは連れて行くね。」
「あぁ、頼む。」
マサキはそう言うと、シャルロットとリーザロットを連れて、牢に移動した。牢番には、ルキウスが話をしてくれて、中へ入れてくれた。
テリウスを再び縛り上げ、牢から出すと、テリウスの顔色が変わった。
「テリウス、ちょっと王国まで、付き合ってもらうぞ。」
「何故だ?」
「そんなの、お前が1番良く知っているだろう?愛しのお母様に助けて貰えると思ったら、大きな間違いだと言う事だ。」
「くっ……。」
その場で、王城へのゲートを開くと、王の執務室へと移動した。
「サラビス王、テリウスを暫く預かってくれ。」
「預かるのは、構わんが、どうしたと言うのだ?」
「あぁ、帝国でも絶賛陰謀進行中だ。4カ月位前の王国みたいな感じだな。」
「明日、ローレル行って帰って来たら、また連れて行くから。それまでお願い。」
「分かった。」
「じゃ、騎士団に連れて行くね。」
「ああ。そちらの女性は?」
「うん、シャルのお母さん。」
「そうか。」
マサキは、執務室を出ると騎士団に向かい、団長にテリウスを預かって欲しい旨を伝え、例え誰が来ても、俺が来ない限りは、牢から出さない様に伝えた。
「シャル。荷物取りに行こうか。もう俺の屋敷に来れば良いだろ。」
「そうですね。そうします。」
王城のシャルが使っている部屋へ行き、荷物を異空間に収納して、城外へと足を進めた。屋敷に戻ると、桜と霧が出迎えてくれた。
「シャルとシャルの御母上だ。今日から屋敷に住んでもらうからな。」
「上様。御母上様はメイリーナ様と同様の扱いで?」
と桜が聞いて来た。
「そこは、急な話なもんで、まだ決めていないんだ。ただ、シャルの部屋の隣を使ってもらおうとは、思ってる。」
霧が返事をした。
「では、上様の奥方様待遇と言う事ですね?」
「まあ、そんなもんだ。」
シャルロットとリーザロットは目を丸くした。
「マサキ様?上様と呼ばれているのですか?」
「んまぁ、弥助は知ってたっけ?」
「はい。」
「弥助と桜と霧と椿とミレーナは俺の配下なのさ。ミレーナは違うが、他はみんな忍びなんだが、俺が主君と言う事になっているんだ。まぁ、追々慣れてくれればいいさ。」
「お屋敷と言うか、城ですね……。」
シャルロットを4階に案内し、主寝室のすぐ手前右側の部屋を使ってもらう事にした。異空間から荷物を出し、適当に広げて使ってくれと。
「あ、リーザの荷物取りに行かないとな。シャルも、取りに行きたい荷物はあるか?帝国の部屋な。」
「あ、あります。」
「じゃ、先にリザの方な。」
「段々縮まって、リザって呼んでくれるの?」
「うん、嫌か?」
「ううん、何か生まれ変わったみたいで嬉しいわ。」
「何か、リーザロットって言い難くてな。俺のイメージだとリーゼロッテなら言いやすいんだがな。ならば、リザの方が呼びやすいと思ったんだ。」
その場でゲートを開き、直接リーザロットの部屋へと移動した。
「必要な物、欲しい物はみんな異空間に入れちゃうから、どんどん言ってくれ。」
「はーい。」
まぁ、服の多い事。ドレスから普段着から下着まで、すげー多いの。貴金属、靴やバッグ、鏡台、タンス全部入れてやった。置くとこなくても知らん。
続いて、シャルロットの部屋へと移動した。これまた、服や貴金属、沢山あったが、着れない服はいらないだろうと、少し数を減らした。
パンツを被りながら手伝っていたら、怒られた。だって、落ちてたんだから仕方ないだろう。
そして、収納を終えたので、屋敷のシャルロットの部屋へと、再び移動した。
「えーと、シャルの部屋の向かいはセレスだろ、その隣はルティでその隣がメイ。シャルの部屋の隣が、シリルだろ、その隣だから、メイの向かい、だから…。」
「リザは、ここを使ってくれ。」
と、シャルロットの部屋の2つ隣を指さした。
「はーい、ありがとう。」
リザの大量の荷物を出して、桜を呼んで、手伝ってもらった。2人とも荷物はなんとか、収まったらしい。と言うか、リザに言わせると、帝国の城の部屋より広いんだそうだ。
俺の部屋、もっと広いんだけどな。
1階に降りて疲れた~とリビングのソファでダラダラしながら、
「ミレーナ。風呂の支度ってすぐ入れるんだったな……。」
「はい。上様は、ここのところ帰って来なかったので、仕方ないですよ。」
「働きたくないんだけどなぁ。忙しいのよな。」
等と、話をしていたら、シャルロットとリーザロットが1階まで降りて来た。
「片付いたか?」
「まぁ、多少は?」
「まぁ、多すぎて無理かな。風呂入って来るから、ゆっくりしてて。」
ここで、ミレーナが爆弾を落とす。
「上様。一緒に入っても良いですか?」
「まぁ、だだっ広いし構わねーよ?」
「30人は入れますもんね。」
シャルロットが、ちょっとキレ気味だ。
「マサキ様?いつもそんな感じなんですか?」
「ん?風呂?」
「そうです。」
「シャルも一緒に入るか?」
「いえ、そう言う事を言っているのではなくて。」
霧が救出に来てくれた。
「奥方様。上様は自由人なので、言うだけ無駄ですよ?」
「えー、霧、そんな事思ってたの?おっさんショックなんですけど~。」
「いえ、この世界の常識から外れていると言うだけで、我々は普通なので、問題ないですよ。」
「あー、そっか。面倒だな、適当にやって。皇女様と皇妃様だもんな、いきなりはアレか。温泉気持ち良いんだけどなぁ……。」
リーザロットが立ち上がった。
「私はご一緒しようかしら。」
「ああ、構わねーぞ。」
「お母様?」
「シャルロットもいらっしゃい。きっと凄いお風呂なのよ。」
霧は言う。
「そこは間違いないですね。」
シャルロットは、赤い顔で、
「じゃぁ、行きます。」
と言った。
風呂に入って、体を洗い、ミレーナに背中を流してもらって、湯舟に浸かった。体の疲れが、お湯に溶けだす様な感じで気持ち良かった。
「あー、気持ちいい~」
と言いながら、目を閉じる。なんか寝てしまいそうだった。最高だよな、温泉。なんて、ミレーナのおっぱいを揉みながら考えていたら、桜も入って来た。
「あれ?桜。飯の支度は?」
「もう、大体終わっています。上様は今日はお酒ですか?」
「献立によりけりかなぁ。」
「今日は、煮物が多いですかね、浅漬けもありますよ」
「それは、飲めと言わんばかりだな。んじゃ、酒だな。」
そんな話をしていたら聞こえたのか、リザが入って来ながら言った。
「お酒は結構飲むの?」
「嗜む程度。」
ミレーナが言う。
「嘘ですよ。上様は滅茶苦茶飲みます。忙しいとちょっと控える程度ですね。」
「そうだっけ?」
「いつも弥助さんと、朝、気持ち悪い~ってやってるじゃないですか。」
「仕方ないだろ?弥助は心の友なんだよ。」
「駄目なんて言ってないじゃないですか。」
どうやら、シャルロットも入って来た様だ。
「すごーい、こんなお風呂初めて見ました。」
リザは、もう湯舟に入っている様だ。
「気持ちいいわよ~、この温泉ていう奴。」
「俺達日本人には、風呂は仲間とワイワイやるのに丁度良いのさ。まぁ、男女は普通別なんだが、弥助と霧以外は、どうせ俺の女なんだから、気にするだけ無駄なのさ。」
シャルロットは納得顔だ。
「あぁ、やっぱりそうなんですね。納得です。」
「それでも、みんな結構シャルやセレスに気を遣ってるんだぞ?」
「そうなんですか?」
「例えば、桜と椿とミレーナは、配下だからと1階の使用人室を使っていて、ギルドのセリアとエルラーナは、4階は王女、皇女が何人いるか、分からないから開けておこうと言って、3階使ってたりするんだぞ。」
「へぇ、そうだったんですね。」
「弥助達は俺の忠臣なのでな。本当によくやってくれている。大体な、王族貴族に興味ないから相手にしてなかったんだけど、後は女と見れば、すぐやっちゃう俺がいかんのだ。」
ミレーナがフォローする。
「シャルロット様、上様の言う事は、まともに聞いてはいけません。大体自分を悪く言うので。女と見ればではなくて、女が抱いてくれと寄って来るんです。上様はお優しいので、断れないのです。」
「ミレーナ、お前ね、それは美化しすぎ。」
「上様。上様がご自分から欲しいと仰ったのは、シャルロット様とメイリーナ様だけですよね?私だって抱いてくれって言いましたし。」
「あれ~、そうだっけ?桜もそうだと思うぞ。」
「いえ、私は完全に押しかけでした。因みに、椿さんは勝手に風呂とベッドに入り込んでました。セレスティーナ様は、それはもう強引に婚約させられてましたよね。ソルティアーナ様も助けただけなのに、責任取れとか言われてましたよね?」
「言われてみれば、そうだったなぁ、まぁ、シャルをめっちゃ我慢してたのは否定しない。今日なんかさ、帝国行ったのは、シャルとエッチしに行っただけなのに、何も出来ずに、事件に巻き込まれて帰って来てんだぜ?可哀相な俺。」
「うふふふ。甲斐性の塊なのね。」
「リザ、それは買い被りすぎと言うものだ。俺が人に誇れるのは、絶倫なだけだ。甲斐性なんてねーよ。所詮はただのロクデナシ、女と見ればケツを触り、スカートがあれば捲るだけ。」
「そう聞いておくわ。」
「本当だぞ?リザなんか明日には妊娠してるかもしれないぜ?」
「まあ、嬉しい。」
「えーそこは、拒否するところじゃね?シャル、母ちゃんおかしくね?」
シャルロットは少し考えて言った。
「私より先は嫌ですね。後は好きにして下さい。」
「あれ?そんなもん?だけど、シャルを18歳より前に、妊娠はさせないぞ?」
「そんな事が出来るんですか?」
「避妊魔法と言うのがある。じゃなかったら、これだけやってたら普通出来ちゃうでしょ。」
「へぇ。」
「そう言えば、メイド欲しいか?屋敷の維持が4人じゃ大変だろ?」
桜鋭い。
「どこかで拾って来ました?」
「んあ、セベイン?」
「あーユイさんでしたっけ。あの人も強引でしたねぇ……。完全に論理が破綻してましたもんね。」
「まぁーな。優秀そうだし、手が足りないなら、使ってやっても良いかと思ってな。メイド服がミレーナだけじゃ寂しいじゃないか。」
「あれ?私はメイド服でもいいいですよ?上様が腰元の恰好が良いと。」
「それは、桜は着物美人だからだよ。だが、俺がデザインしたミニスカメイド服を50着オーダーしてあるから、来たら着て見ると良い。」
「50着?どこにいるんですか?」
「馬鹿だなぁ、売るんだよ。タチバナ商会で。」
「上様。いつの間に商会をお作りになったのですか?」
「いつだったかなぁ、最近だけど、忙しくて何もしていない。」
「何を売るのです?」
「色々考えてはいるけど、取り敢えずは、トイレ。」
「「「えー!?」」」
「多分、めっちゃ売れる。」
のぼせてしまうので、風呂からあがって、酒をチビチビやるマサキだった。結局この日、シャルロットを襲う事は出来なかった。そして、ローレルに行くので、またお預けなのだった。
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