第13話 魔王の息子、ゴブリン討伐に向かう
しばらくしたある日の朝だった。
「ゴブリンの討伐だと?」
「ええ」
ゼノスが眉を寄せると、ウィリアム先生が軽く頷く。
「それはいつものダンジョンってわけじゃねえんだよな?」
違うだろうなと思いつつ、ゼノスは問いかける。
「もちろんです。勇者協会を通じて、グランレイヴ中立都市の近くの森でゴブリンを見たという情報を入手しました。目撃された数は少ないようですが、彼らは繁殖力が高いですからね。ゴブリン単体は弱いですが、群れをなすようになれば力を持たぬ人たちには脅威となるでしょう」
「確かにな。それにゴブリンが増えれば、その中から強力な個体、ゴブリンロードやゴブリンキングが出てくる可能性だってある」
ゴブリンはスライムの次に弱い魔族であるうえに、町にいれば見かけることがないため、重要視されることがまず無い。
弱いとはいえ一定数の規模に膨れた群れは、自衛力の乏しい村や小さな町にとっては十分脅威であり、その害は重大問題だ。
数が増えれば、稀に上位種である変異体が出現することもある。
その中でも統率力に特化した個体がゴブリンロードやゴブリンキングだ。
ただのゴブリンに比べて格段に知性が高く、人間の言葉も解する。
これらがいるゴブリンたちは群れというよりも軍として統率されており、驚異的な力を発揮するので、脅威度も跳ね上がってしまう。
「ゴブリンロードにゴブリンキング? そんなの見たことないけど」
一人の生徒が上げた声に誰もが頷く。
「そりゃ、頻繁に現れるような魔族じゃねえし。少なくとも今のお前らじゃ勝てねえだろうな」
「ゼノス君の仰る通りです。ゴブリンロードはレベル8、ゴブリンキングはレベル10に該当する魔族。ダンジョンの魔族に慣れてきたといってもレベルが違いますからね。皆さんでは荷が重いでしょう」
「レ、レベル8に10!?」
ウィリアム先生の言葉に、生徒たちは動揺している。
無理もない。
これまで彼らが倒してきた魔族はレベル1のスライムにレベル2のゴブリンばかりだ。
敵が弱くとも経験を積めば、それなりに動けるようになるし、判断力も身についてくる。
それなりに動けるようになってきたとゼノスは思っているが、それでもまだゴブリンロードやゴブリンキングの相手が務まるとは思えない。
レベルの高い魔族を倒すためには、自分自身のレベルを上げる必要がある。
ただし、弱い魔族を倒し続けても、ある一定値までしか上昇しない。
己のレベルを引き上げるには、自分よりも強い敵を打破するしかないのだ。
——もう少しレベルの低い魔族相手なら、こいつらでも連携すれば倒せるだろうけど……今はまだ無理だな。
この教室の中だと、せいぜいユリウスとイリスが何とか相手が務まるくらいか。
それでも単独で相手をしたらやられるとは思うが。
「つーか、勇者協会とやらがゴブリンを討伐してくれねーのか?」
勇者協会は人数が少ないながらも実力揃いの魔術師が在籍しているとウィリアム先生から聞いている。
であれば、情報を入手した勇者協会で対処できるのでは?
そう思っていたのだが――。
「その点については申し訳ありません。現在、勇者協会の魔術師は別の任務中でして。また、出現したのがゴブリンであることを考えると、皆さんの授業の一環としてちょうど良いだろうと学園長が判断されたのです」
「学園長がねぇ」
初日の授業が始まる前に一度だけ姿を見せた、白髪に白髭をたくわえた老人。
それがグランレイヴ魔術学院の学院長――オルフェウス・アーチボルトだ。
老人にしては精悍な顔つきと背筋がピンと伸びており、ゼノスの第一印象は「一癖も二癖も持っていそうな爺さん」だった。
この学院設立の発起人の一人でもある。
「実戦に勝る経験はないから構わねえけどよ。ただ、町の近くってのが気になるな。早いとこ行ってさっさと倒しちまったほうがいいと思うぜ」
——前に親父が言ってた前魔王派の連中絡みかもしれねえし。
それに……。
ゼノスは背中越しに向けられている、突き刺すような敵意に気づいていた。
ダインだ。
ダンジョンでの一件以来、ダインの動向には注意していたのだが、今のように敵意を向けられることは何度かあったものの、怪しい素振りは見せていない。
森の中ということは視界も狭くなる。
もしかしたら何か行動を起こしてくるかもしれない。
——その時は前みたいに捻りつぶすだけだがな。
ゼノスとしては、ダインが何を企んでいようと跳ねのける自信がある。
心配があるとすれば、他の生徒へ危険がおよばないかだった。
特にイリスに何かあれば冷静でいられる自信がない。
ダンジョンの時と違い、今回は恐らく国ごとで固まって行動することになるはずだ。
イリスの魔力は分かるから、魔力探知をかければ居場所は把握できるし、離れた場所にいても直ぐに駆けつける方法をゼノスは持っている。
いざとなれば、それを使えば問題ないだろう。
「すでに馬車は用意していますので、それに乗って向かいましょう」
ウィリアム先生の言葉に全員が頷き、教室を出た。
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