魔王の息子、潜入した勇者養成学校で王女様に一目惚れをする〜彼女のために勇者を目指します〜
洸夜
運命の出会い
第1話 魔王の息子、魔王と会話する
全ての人間たちの脅威である魔族の王、バエルに対抗する勇者や魔術師を養成するために設立されたグランレイヴ魔術学院。
今年設立されたばかりのこの真新しい学院を、遠く離れた人気のない丘から眺める二人の男がいた。
「いやー、見事なもんだ。一人ひとりの人間は大したことないが、何かを作り出すことに関しちゃ俺たちより上かもしれないな」
中立都市グランレイヴにそびえ立つ魔術学院を見ながら、長身の男が声をあげる。
肩までかかる銀髪に、鋭く、自信に満ちた目つき。
美形と評して差し支えない容姿だが、ふてぶてしい表情がそれを台無しにしている。
「なぁ親父、本当にあの学院へ俺が通うのか?」
男の隣に立つ――燃えるような赤い髪をした青年が問いかけた。
「なんだ、ゼノス。せっかくここまで連れてきてやったのに今さら怖気づいたのか?」
「そんなんじゃねーよ! ただ、ばれるんじゃないかって心配してるだけだ」
「ばれるって何が?」
「俺が魔族ってことがだよ!」
そう、二人はグランレイヴから遠く離れた
だが、その言葉を男は軽く一笑に付す。
「はっ、問題ない。俺たち魔族の姿は基本的に人間と変わらないからな。血の色だって奴らと同じ赤だ。違いがあるとすれば、強靭な肉体と圧倒的な魔力量くらいだろう。普通にしてりゃあ、まずばれやしないから安心しろ」
「はぁ、その普通ってのが分からないから不安なんだろうが……」
ゼノスと呼ばれた青年は、がっくりと項垂れる。
ゼノスは生まれてから今まで、魔族としか接したことがない。
しかも周りは大人ばかりで、同年代の者は一人もいなかった。
「そもそもあの学院は親父を倒すために造られたんだろ? 今ここで跡形もなく吹き飛ばしたほうがいいんじゃないか?」
「馬鹿だな、お前は。そんなのつまんないだろ。人間どもが俺を倒そうと一生懸命頑張って、ようやくできたんだぜ? 消し飛ばすのは簡単だけどよ――もったいないし、何のためにお前をここまで連れてきたと思ってるんだよ」
「ちっ、分かってるよ」
「はっはっは、そう拗ねるな」
「拗ねてねーよ!」
ゼノスの隣に立ち、声高らかに笑い声をあげるこの男こそ、ゼノスの父親にして魔族を束ねる王――バエルであった。
バエルの言葉に、ゼノスは軽く舌打ちをすると、視線を学院に戻す。
学院に集まった人間がどの程度の強さを持っているのか、魔族にとって脅威となりえる存在がいるかを調べる、それがゼノスに与えられた任務だ。
魔族の中には、魔王の息子であるゼノスを人間の住む地に送り込むこと反対する者もいた。
だが、入学するには年齢制限がある為、ゼノスの他に適任者がいなかった。
「
「ったく、分かったよ」
そこで、バエルは何かを思い出したのか、手を叩く。
「そうそう、これから向かう場所は魔族領じゃない。学院都市では仮の身分をつくっておく必要がある」
「仮の身分?」
ゼノスの言葉に、バエルは顎に手を当てて考える素振りを見せた。
「そうだな――人間には王族に貴族、騎士や平民といった色々な身分を持った奴らがいる話はしたな?」
「ああ」
人間の世界にはヴァナルガンド帝国、ルナミス王国、アルカディア共和国が存在する。
バエルから、それぞれの国には様々な身分を持った人間が生活しているのだと教わっていた。
その三ヵ国が魔王バエルに対抗するために手を取り合い、共同で設立したのが中立都市グランレイヴにこの春完成した魔術学院だ。
「とりあえず共和国出身にしておくのが一番いいだろうな。あそこは身分なんて関係ない、誰もが自由と公平をっていうのを謳ってやがる」
「公平ねえ……身分を第一に考えているっていう貴族なんかとはぶつかりそうだが、仕方ないか」
「そういうことだ」
バエルはニヤリと笑ってみせたが、すぐ真顔になる。
「後は……本気だけは出すなよ? 一発でばれちまうからな」
「……分かってる」
「っと、そうそう。学院は勇者やそれに連なる魔術師の養成を目指しているだけあって、誰もが入れるわけじゃあない。入学には試験があるみたいだから頑張れ」
「はぁ!? 試験なんて聞いてねーぞ!」
この学院に通おうと集まった人間は皆、それぞれの国で剣と魔法の才能を認められた者たちばかりだ。
ここで勇者に選ばれた生徒の出身国が魔王討伐の主導権を得るのは確実であり、各国は若く優秀な人材を惜しむことなく送り出していた。
つまり、入学試験は非常に狭き門といえる。
「今言っただろ。まあ、俺や四天王に十年以上しごかれてきたんだ。お前なら大丈夫だよ」
バエルは笑いながらゼノスの肩をポン、と軽く叩く。
「入学したら任務のついでだ。いい機会だから、彼女の一人でもつくってみろよ」
「か、彼女ぉ⁉︎」
「お前だって女に興味くらいあるんだろ?」
ゼノスも年頃の男子だ。
興味があるか、ないかで言えば――当然ある。
ただし、同年代の女子がいなかったせいか、そういったことへの耐性はないに等しい。
「かっかっか、いっちょ前に顔を赤くしやがって」
「う、うるせえ! ていうか、いいのかよ? 相手は人間だぞ」
「あん? 別に構わんだろ。これも経験だ」
「いいのかよ……」
「まあ、お前を好きになるやつがいればの話だけどな。とりあえず、定期的に
バエルはそう言うと、
——彼女、か。
俺にできるかな……って、何考えてんだ、違うだろ!
俺の目的は学院に通う人間たちの力を見極めることであって、彼女を作ることじゃない。
頭を激しく左右に振ったゼノスは、決意を新たに学院都市に向かって歩き始めた。
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