第2話 街の市場
ほどなくして男は王都アルビオンに到着した。堅牢な城壁に囲まれた街は難攻不落の城塞都市として知られており、治安もよく大陸中から多くの人々が集まっていた。
城壁の上には、朱色の下地に『双頭の鷲』の紋章が描かれたアルベニア王国の国旗が掲げられ、海からの風を受けなびいている。男は眩しそうにそれを見上げながら馬の歩を進めた。
「おはようございます。ギルドの依頼書の配達です」
「ご苦労さんロブ、今日も時間ギリギリじゃないかのか?」
「ハハッ! まだ、大丈夫ですよ」
城門の前には顔なじみの衛兵が立っており、ロブと呼ばれた男は笑ってあいさつすると王都を守る巨大な城門をくぐった。
ここはアルビオンの西の門にあたり、ここから先は主に一般市民が住んでいる地区になっている。似たような白い石造りの建物がつらなるように建ち並び、通りには王都を走る定期馬車の駅が
ロブが下馬して城内に入ると、食欲をそそるいつものパンの香りが漂ってくる。
この通りには何軒ものパンを焼く店があり、その建物の石窯からパン焼く白い煙が立ちのぼっていた。
「少し市場を回ってから、配達に向かおう」
パンの香りに刺激されたのか、いつもの寄り道の癖が出たロブは、まるで慌てる様子もなく愛馬に話しかけた。
美しく舗装された石畳の道を行くと街の中央広場にある市場に出た。市場はすでに活気に満ちており、多くの買い物客で賑わっていた。
市場には簡易テントの露店が立ち並び、近隣の村々から取り寄せた新鮮な野菜や、色とりどりの果物が山のように積まれている。
果物の隣には今朝アルビオン港から上がったばかりの魚が並べられ、若い売り子が忙しそうに値札を貼っていた。
「三匹買うから一匹まけとくれよ」
「しょうがねえな~婆さんには敵わないよ、ほらよオマケだよ」
朝一で買い物に来た常連のお婆さんは、上手く値引きに成功したようだ。
隣の店の前にはパンの原料の小麦が袋詰めされ大量に積まれているが、昼までには総て売り切れるのだという。その他にも珍しい異国の香辛料や蜂蜜などはビン詰めにされ並べられていた。
ロブは人混みをかき分けながらゆっくりと馬を引いて市場の賑わいを楽しんだ。そしてしばらく進むと市場の喧騒を抜けて水飲み場へ辿り着いた。
そこは用水路から水が引かれており、細長い木製の水桶には常に豊富な量の水が、馬のために用意されていた。
この水は、北の山の雪解け水を水道橋を使って街まで運んでいるため、1年中冷たい水が枯れることは無い。
「よ~し喉がかわいたろ。水を飲んだら仕事に戻るとするかっ! 相棒」
彼は水飲み場で馬に水をやると裏通りを抜け街の北側へ向かった。
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