第3話 1-2.はじまりの日 2遭遇
ジンは何食わぬ顔で先に玄関で待っていた弟(ゴウ)と父(スグル)と合流した。
「......おまたせ」
「おそいよー」
「じゃあ、そろったし行こうか」
スグルが扉を開けて、外の様子がより鮮明になる。
(大丈夫。二人とも“俺”の違和感に気づいてない。大丈夫。“俺”は冷静だ)
赤い光が照り付け、普段とは違う世界が広がっていた。とても静かだった。先ほどのことがなかったらもしかしたら幻想的と思えたかもしれないが、“あれ”を見たあとではどんなものも不気味に映っていた。
「さあ、出発!」
不気味な外に対する恐怖がないのか意気揚々と足を踏み出すスグルに対し、ジンとゴウは一瞬ためらった後に外に出た。
(というか、父さんはあれを見ても何ともないのか?それとも空元気で強引にテンションをあげているだけ?)
今の父は明らかにおかしかった。それが家族を引っ張る演技なのか、頭のねじが外れたのかはわからなかった。
軒下から道路に出て、赤い光を浴びる。
__まぶしい
突然、ジンとゴウはめまいに襲われ、よろめきその場で片膝をついた。
「大丈夫か!」
スグルが心配そうに駆け寄って来る。
「だ、大丈夫。ちょっと、めまいがしただけ」
「僕も大丈夫」
ゆっくりと立ち上がり、目を開けた。
___違和感
(あれっ?視界がぼやける。メガネのレンズでも汚れたか?)
ジンはメガネを外し、レンズを拭こうとした。だが、その瞬間視界が開けた。
「う、噓だろ!?目が目が......」
「目がどうかしたのか?」
心配そうなスグルの問いかけにジンは
「目が急に見えるようになった。......正しくは視力が回復したのか!?」
有り得ない事実に困惑しながら今の自分の状況をなるべく正しく言葉にする。自分の言葉にしないと驚きでおかしくなりそうだった。
「僕もそうみたい。いつもよりもはっきり、くっきり見えるよ!」
ジンとは逆にゴウはかなりテンションが上がっているのか、ぴょんぴょんとその場でジャンプして喜びを表現していた。
「体調に変化はないか?」
「......今のところは―」
「ないよー」
被せ気味にゴウが答えた。ジンも不思議と悪くない気分であった。
「OK、なら早く行こう」
「ねぇ、パパ。どうして、そんなに急ぐの?」
「えーと、そうだな、その、あれだ、品切れが怖い」
ゴウの問いにスグルが歯切れが悪く答え、先を急がせた。
家から数分後、
「とゆうか、今気づいたけど......車はおろか......人一人いなくないか」
周りを見渡してジンが呟いた。住宅街を進んでいる今、人の影も形もなければ、普段なら聞こえるはずの車の音さえ聞こえない。まるで、世界から音が消えたようだった。
「えっ、ほんとだ」
ゴウは動きを止めて、周りを見渡し、何かを察して明らかにテンションが低くなった。
「たまたまだって。コンビニに行けば人もいるでしょ。さっ、行くよ」
スグルが立ち止まってしまったゴウの背中を押して一歩でも先に進もうとする。
「そっ、そうだよね。誰もいないのはたまたまだよね」
ゴウが自分に言い聞かせるように言った言葉は震えていた。
その後のコンビニまでの約3分間誰も何も言わなかった。
◇◇◇
コンビニに到着し、店内の様子を確認する。入口のドアが開いており電気は消え、やはり人影の姿はなく異様な雰囲気を放っていた。
「パパ、怖い。怖いよ」
「大丈夫。怖いならここで待ってなさい。ジン、行くよ!」
スグルは泣きべそをかいているゴウを置き去りにして、ジンの腕を強引に引っ張って店内に入った。
「ジンは水を確保してくれ。私は日用品や食品を見てくる。なるべく急いでくれ、時間があまりない」
そう言い残したスグルの表情には焦りがあった。
(やはり、今日の父さんはおかしい。......この状況に対しての反応が一々変だ。もしかして......何かを知っている?考え過ぎかもしれないが今聞き出すべきか?)
考えながらレジのかごにペットボトルの水を乱暴に放り投げる。
(それにこの状況は何なんだ?“石になったあれ”は一旦スルーするとしても、なぜ人影すらない?どうして視力が回復した?不可解というより、物理的におかしい。あー、クソっ、考えがまとまらない)
「―ン。ジン!」
スグルに肩を叩かれた。
「......ごめん。少し考えごとしてた。ねぇ......父さんは何かを―」
「ジン!お前の言いたいことはわかる。だが、少し待ってくれ。頼む!安全な場所についたら全て話す」
ジンの言葉を強引に遮り、スグルが叫んだ。
焦りと動揺が入り混じりどんな顔して良いかわからないような父の表情にジンはもう何も言えなかった。
「......わかったよ。信用していいんだね」
「ああ、大丈夫だ」
一応、レジカウンターにお金を置いて、両手にかごを持ってコンビニを後にする。もちろん、店員はいなかった。
(そういえば、他の棚も綺麗で誰かが来た形跡がなかったな)
また、嫌な悪寒にジンは襲われる。気づいてしまったからだろうか。
まるで人だけいなくなったようなコンビニだった。
胸に何かが詰まったような感覚を抱えたまま、三人は家路につく。帰りも会話はなかった。
◇◇◇
玄関のドアを開け、レジかごを運び入れる。
「ジン、かごは任せた。先に車に乗って待ってる」
スグルが車のキーを手で弄びながら告げた。
「了解。......これで最後っと」
ジンが最後のかごを家の中に入れドアを閉めようとした瞬間、
「待って!」
ドアの閉鎖を手が阻み、二人の少女が玄関になだれ込んだ。
「早く閉めて!ユキノ!」
「わかってるわ、コハル」
少女達はドアを閉め、ガチャりと鍵をかけた瞬間、胸をなで下ろし、ジンの方を向いた。
「コハル!ユキノ!二人ともどうしたんだ?」
突然、家に入ってきた幼馴染である天王寺 小春(テンノウジ コハル)と雪乃(ユキノ)の姿にジンは驚いた。お揃いのパジャマ、いつもの髪留めをつけたおらず、裸足であった。
「助けて!ジン君。骸骨が!骸骨が!」
「骸骨?落ち着いて......ユキノ。ゆっくりでいいから話して」
いつもの青い髪留めをつけてないため、若干の時間を要したが、ジンはユキノに優しいトーンで話しかけた。
「そんなこと言ってられないの。すぐに来るわ。早く逃げないと!」
「ちょっと待って。その骸骨ってのはな―」
ガンッ。ガン。
ドアを何か硬いもので叩く音が玄関に響き渡る。
「きっ、来たわ!逃げて!早く!」
コハルとユキノの顔色がさっと変わり、半ば引きずられるようにジンは家の奥へと移動した。
玄関を離れ、リビングに向かう。
リビングに入り、扉を閉めた時、玄関の方で先ほどよりも大きな音がした。
「こっちだ」
ただならぬ雰囲気を感じ、リビングから裏口を抜け、車の方へと急ぐ。
その時、リビングのガラス戸が勢いよく壊され、白い何かが飛び込んで来た。
「きゃー!」
コハルが転び、ジンとユキノは思わず立ち止まる。
ジンはコハルの足を掴んでいる何かに驚愕した。
真っ白な手足。
不気味な赤い光を放つ目。
丁度心臓のあたりにある黒い球体。
まさに人の骸骨そのものであった。
驚きに動きが一瞬止まったがすぐ我に返り、
「コハルを離せ!」
骸骨の顎めがけて右ストレートを放つ。恐怖をアドレナリンがねじ伏せていたせいか考えるより前に手が出た。
バキッ。という嫌な音とともに激痛が走る。
反射的に痛みで声をあげそうになるのを下唇を噛んで、抑え込んだ。
殴られたはずの骸骨はなんともなく、逆に骸骨に首を掴まれた。
異常な力で足が浮き、地面から離れる。
「ぁ......っ......」
首を絞められ、うめき声が漏れる。味わったことのない冷たい感触と気道が潰される感触。
「ジンを離して!離してよぉ!」
コハルが涙ながらにジンを掴んでいる骸骨を力なく叩くが、骸骨は意にも留めない。
「ああっ......」
ユキノはその場で崩れ落ち、虚ろな表情で目の前の現実に何も出来ず、ただ絶望にむしばまれていた。
(冷たい。苦しい。俺は死ぬのか?この骸骨みたいなよくわからない何かに殺されて......もう......だめ......だ......)
意識が遠くなり、ジンの抵抗する力が弱くなる。手がだらんと垂れ下がり、意識が遠のいてゆく。
「嫌、嫌―っ!」
のどがつぶれんばかりのコハルの声がこだました。
__炎
叫びと共にリビングが“炎”に包まれた。
そして、骸骨が灰となって消え去り、ジンは膝から落ちるように倒れた。
ジンはおぼろげな意識の中で骸骨達が灰となり消えていくのを見たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます