041 早起き、俺は苦手
風俗街を堂々と歩くさくも。大事な体なんて簡単に売って欲しくはなかった。
「でもりんごくん、何でそんなにさくもちゃんのことが気になるの? ねぇ、教えてよ」
「友達だからだよ」
「へぇ……そうなんだ」
充子は、疑いの目で俺を見ていた。
「あ、曲がったよ」
ずっと真っ直ぐ歩いていたさくもは、ファミマの所で左に曲がった。段々と心臓の鼓動が激しくなる。見たくもない現実が待ち受けているかもしれない。
俺と充子も、忍者の様な小走りで更に後を追った。
角を曲がると、充子はとある店の前で足を止めた。ドアノブに手を掛けようとしている。
「ま、待て充子……!」
俺の口から、自然と言葉が飛び出した。
「あ、あれ、りんご? 充子ちゃんもいる……。どうしたの?」
「ずっと隠しているけど、一体、何の仕事をしているだよ……!?」
さくもは、別段表情が変わる訳でもなく、ドアノブに伸びる手がピタリと止まっただけだった。しかし、しばし無言になる。
「あんまり知られたくなかったのよ。あたしに似合わない気がしてね。二人とも、誰にも言わないでね?」
さくもは、俺らを手招く。俺と充子は、息を殺してさくものバイト先の建物の前まで歩く。
「ほ……?」
俺は、予想外のバイトに驚いた。
「パン屋さんよ。だから朝が早いの」
それは、正しくパン屋さんだった。
「パンの製造はそれなりに時給が良いの。それに前も言わなかった? 指先のトレーニングして、テクニシャン目指してるって。パン作りを極めたいの。お客さんも美味いって言ってくれてるみたいだし、遣り甲斐があるのよ……」
風俗街の片隅にあるパン屋さんとは迂闊だった。てっきり、本当に風俗で体を売っていたのかと。
「何だ……。アバズレ女かと思って期待していたのに……」
充子がボソッと呟いた。
「ふふっ。あたしもそこまでバカじゃないわ。今度、売れ残りのパンで良かったら持って帰るから、ぜひ二人で食べてちょうだい。じゃあ準備するから、またね」
さくもは、店の中へと入って行った。
「すまん、充子。家まで送るな」
「ありがとう、りんご。でも何か、りんごくんの体から、あの女の臭いがするけど、疑ったりしないからね?」
◆◇◆
第3章
夜の仕事と不動産
完結
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