029 二人だけの秘密、俺は受け入れた
「あ……亜房先生、本気なのかよ……!?」
亜房先生は、俺の上に馬乗りになった。暗闇の中、可愛らしい童顔を近付けてくる。彼女……いや、彼の優しい吐息が首筋をくすぐり、俺の全身がピクリと波打った。
「ボクは、本気だよ……」
いくら彼の本当の性別が男性だとしても、ほんのちょっと前までは女性として見ていたのだ。その記憶をリセットするには、余りにも難し過ぎた。充子やさくもを上回る魅力が、彼には備わっているのだから。
ある意味カリスマ性だ。天から授かったであろう『総受けの才能』は、『攻めの才能』へと化けた。俺は、その瞬間を目の当たりにしているのだ。
四半世紀近くに渡って受け一筋だった亜房先生は、これまでの恨みに似た感情を俺にぶつけようとしているのが分かる。
本気だった ——
「亜房先生……俺、男なんだよ……! 男同士って、いくら何でも不味いだろ!?」
「ふーん、でも……あっちの方はすっかり卍解しているじゃない?」
俺は、何も言い返せなかった。
「今夜は、お互いの霊圧が尽きるまで離さないよ……」
亜房先生は、俺の唇を奪った。何の躊躇いも無く奪った。一瞬だった……。亜房先生は、暗闇の中で俺の瞬きを見逃さなかったのだ。
護廷十三隊の二番隊に入り、隠密起動隊としても働けそうなほどに鮮やかな動きである。
充子のキスと比べるのは心が傷むが、キスが上手いとはこのことなんだなと知った。全身の力が抜け、脳は快楽ホルモンに支配される。俺の腕は、気が付けば亜房先生を抱いていた。
「ボクはね……これまで、ずっとこんな風にキスされて来たんだ。攻められ続けて学んだテクニックだよ……。有江くんも、充子ちゃん相手にいつか使ってあげてね?」
長いキスを終えた後、亜房先生は言った。
「どう……? 男同士も案外悪くないんじゃないの?」
「あ、ああ……悪く……ねぇかも……」
これは、大人になる為の勉強だ。亜房先生のあらゆるテクニックを盗み、彼が言うように、いつか充子を相手に実践すればいいのだ。それに何て言ったって、やっぱり今でも亜房先生が女性に思えてしまう。髪の毛もサラサラで、目が大きくて、肌も白くて、貧乳で、正に俺が描く理想の女性そのものだ。
結局俺の心と体は、完全に亜房先生を受け入れた。朝方近く、お互いの霊圧が尽きるまで、誰にも言えない二人だけの秘密を作ってしまったのだった。
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