012 童貞卒業式、俺はディープなキスをする

「でも、死ぬのがこの黒魔術の代償なら、ちょっと反動が大き過ぎないか? そこまで危険な呪いとは思えないぜ?」


「多分本当よ。分かるの……。私、なんでこんなバカなことしたのかな……」


 俄かに信じがたいことだ。つまり、黒魔術が本物ならば、俺は呪われてしまっており、今朝のキスのせいで、充子のことしか愛せなくなっている筈なのだ。


 じゃあ俺は、充子のことが好きかと問われれば、はっきり「イエス」とは言えない。当然、嫌いではないのも事実だ。つまり、愛していると言う表現には程遠い。


「分かった……。まだ俺は確信持っていないけどよ、その黒魔術のことをちゃんと調べてみるから……! 俺の頭だけじゃ、話が難し過ぎて分からねぇ。でも必ず、充子を安心させるからちょっと待っててくれ」


 泣いている充子をどう励ましていいのか分からない。充子は、相変わらず俺の腕の中で震え泣いていた。ヒクッと咽び泣く声と、鼻水を啜る音が聞こえる。


 充子の指先に力が入っているようで、俺の背中に爪が食い込む。


「りんご、私……苦しいよ……」


 俺だって、男だ ——


「充子……」


「え、りんご……?」


 俺は、胸の中で泣いていた充子の顔を優しく両手の平で持ち上げた。涙で濡れた、柔らかい頰。顔は、ぐちゃぐちゃになっていた。恥ずかしさからか、目を逸らそうとする充子だが、俺はそれよりも早く彼女の唇を奪った。


「ン……!?」


 充子から甘い声が漏れる。俺が押し倒されている体勢だったが、今度は逆に、充子の体を下にする。右手で、充子の後頭部を優しく守り、左手を床に当て、自らの体を支える。


 涙で塩っぱい ——


 恐る恐る舌を入れた。最初は、歯に当たってしまったが、充子はそれを受け入れようと頭の角度を変え、彼女も舌を伸ばしてきた。


 何故かそこに、俺がそれまで抱いていたような「エロさ」は存在せず、性欲が満たされている感じもしなかった。ただ、俺の低い自尊心が高まっているような気分になっていた。


 充子は、両手で俺の顔を包み込む。


「長かったな……」


 俺は、少しはにかみながらキスを終えた。


「りんごくん、大胆だね」


「うん」


 俺は、熱くなった頭でこくりと頷いた。すると充子は、元々外している第1ボタンに続いて、第2ボタン、そして第3ボタンと開けた。中には黒いキャミソールを着ているようで、可愛らしい窪みを生んでいる鎖骨が綺麗に目に映った。


「いいよ、りんごくん……」


 いいって何だよ?


 今日は、俺の童貞卒業式なのか?


 充子は、両手を大きく広げている。即ち、無防備な体勢だ。好きにしてくれと言うつもりなのだろう。


 俺は、ゴクリと唾を飲み込む。


 足りない頭で色々考えた。本当に、充子とこれ以上進んでも大丈夫なのか。その後俺らは、どのような関係になってしまうのか。


 そして自分でも驚いたことに、何故かさくもの顔が浮かんできた。充子とは違う、大人の体つきをしたさくも……。


 巨乳になんて、はっきり言って興味なかったのに……。


「充子、ごめん。ありがとな……」


 俺は、充子の制服のボタンを留めた。不思議そうな表情で俺を見つめる充子だが、俺はそれに構わず立ち上がり、ベッドの上に座った。


 テーブルの上に置いてあるたばこを咥え、さっきより暗くなった部屋の中で火を付けた。

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