第33話降臨


 北の城壁にはダラクの精鋭部隊が集結。


 襲撃してきたのは巨大なドラゴン、“北の覇者”“古代竜エンシェント・ドラゴン”アバロン。


 邪悪なアバロンとの戦いは佳境へ。

 召喚された火蜥蜴サラマンダーによって、ダラク街は戦火に晒されてしまう。


 ◇


 数十匹の火蜥蜴サラマンダーによって、街の各所から火柱が上がる。

 ダラク国王はすぐに戦術を変更。


「各部隊は火蜥蜴サラマンダーを各個撃破! 残存部隊はアバロンを牽制しろ!」


 このままでは地下に避難した市民にも、被害及ぶ。

 優先度を火蜥蜴サラマンダーの撃破に変更。アバロンは牽制する作戦になる。


 ゼオンさんたちギルドメンバーも動き出す。


「おい、野郎ども行くぞ! 火蜥蜴サラマンダー狩りだ!」


「「「おう!」」」


 魔物狩りは、彼らの得意分野。

 城壁を降りて、火蜥蜴サラマンダーの各個撃破に向かう。


「ゼオンさん、ボクは⁉」


「ハリトは、アバロンの牽制と、仲間の回復を頼む!」


「はい、了解です!」


 ボクの未熟な攻撃魔法では、街中の火蜥蜴サラマンダーを倒す時、周りに被害が出てしまう。

 だから大きな目標物アバロンの担当になる。


 それぞれが新しい作戦で動き出す。


 ドッガァーーン!


 街の至るところで、爆炎が上がる。

 精鋭部隊と火蜥蜴サラマンダーとの戦いが、始まったのだ。


 一方でアバロンは遥か上空を、旋回している。


『ガァアア!』


 しきりに咆哮を上げている。

 まるで地上の数十の火蜥蜴サラマンダーを、指揮しているようだ。


 ドッガァーーン! ドッガァーーン!


 また街中から爆炎が上がる。

 火蜥蜴サラマンダーは個体でも、かなり強い。


 精鋭部隊は苦戦しているのだろう。


「くっ……今のところ死人は出ていないけど、このままだと……」


完全探知補助エクス・スキャン・サポート】のお蔭で精鋭部隊の現状を、ボクは常に把握。

 遠距離回復で、何とか皆を助けている。


 でも即死攻撃だけは回復できない。

 あと市民は【完全探知補助エクス・スキャン・サポート】の探知外なので、被害が広がったらまずい。


 何とか火蜥蜴サラマンダーを何とかしたい。

 でもボクはアバロンの牽制と、仲間の回復に手一杯なのだ。


 そんな時、一人の少女が城壁の上に上がってきた。


「ハリト君、大丈夫ですか?」


「あっ、マリア⁉ うん、今のところ大丈夫だよ!」


 やってきたのは神官戦士の格好のマリア。

 ボクのことを心配してくれて来てくれたのだ。


「先ほどからの規格外の回復魔法は、ハリト君の仕業ですよね?」


「えっ、うん。そうだね。でも、回復と防御だけ手一杯で、どうにもならないんだ!」


「そうだったんですね。私で何か手伝えることがあればいいのですが……」


「ん、“手伝う”……あっ、そうか!」


 マリアの言葉でアイデアが浮かぶ。

 今のボクは精鋭部隊の人たちの回復と防御で、攻撃までに手が回らない。


 つまりマリアに手伝って貰えばいのだ。


「えっ? 私がハリト君の手伝い……嫌な予感しかしないですが、仕方がないです! 何でもしてください、ハリト君。私の身体に!」


 マリアは覚悟を決めてくれていた。

 よし、これなら何とかなるかもしれない。


 ボクは意識を集中。魔力を高めていく。


「それじゃ、いくよ、マリア!」


「はい、来てください!」


「ふう……【女神降臨《フォール・ビーナス】!」


 聖魔法の奥義の一つを発動


 シャァーーーン!


 城壁の上のマリアの全身が、眩しい光に包まれる。


 ヒュイーン!


 更に空から神々しい光が、差し込んでくる。


 よし。初めてチャレンジしみたけど、成功だ。


「えっ? えっ? ハリト君、これは? 私の身体が光っているんでけど?」


 対象者であるマリアは、言葉を失っている。

 今何が起きているか、理解できていないのだ。


「一時的だけどマリアの身体に、《女神の力》を降臨させたんだ! だからボクの代わりに、マリアも回復と魔法を使えるから!」


「えっ……女神の力? 降臨? ど、どういう意味ですか、ハリト君⁉」


「それじゃ、ボクの力も、マリアに渡すね……【移行】!」


 マリアの身体に触り、発動中の魔法を渡す。

 これで【完全探知補助エクス・スキャン・サポート】と【広域耐火ヒートガード】、【広範囲治癒ハイエリア・キュアー】を、マリアも使えるようになった。


「ひぇっ? こ、この強大な力は⁉ ハリト君の⁉」


「ああ、使い方も移してあるから、聖魔法と同じに発動してちょうだい! 女神化している間は、魔力切れもないから、バンバン使ってちょうだい!」


「えー、魔力切れがない⁉ もう、何が何だか分からないですが、死ぬ気で頑張ります! 【完全探知補助エクス・スキャン・サポート】!」


 マリアは叫びながら、新しい魔法を発動。

 何とか精鋭部隊の回復を担当していた。


 よし。

 これでボクは心おきなく、別のことが出来る。


「ん? ハリト君、アバロンの動きが⁉」


「ああ、あれは……城に向かっているのか⁉」


 マリアの指摘で気が付く、上空のアバロンが急降下している。

 進行方向はダラク城だ。


「ここは任せたよ、マリア! 城に行ってくる!」


「はい。お願いします、ハリト君!」


 ボクは城壁の上から、飛び出す。

 街の屋根の上を、飛び駆けていく。


 ダラク城への最短距離を目指すのだ。


 家の屋根が吹き飛んでいくが、今は非常時。

 謝りながら飛んでいく。


 お蔭、かなりの距離を稼げた。

 ダラク城まであと少しだ。


『ガァアアアアア!』


 だが急降下していた、アバロンの動きが変わる。


 あれは火炎攻撃ではない。

 そのまま体当たりで、城に落ちていくつもりなのだ。


「まずい! あの先は王宮の地下! クルシュたちが避難している場所だ!」


 かなり危険な状況。

完全探知補助エクス・スキャン・サポート】で城の中の人の状況も、把握している。


 このままだクルシュたちは、アバロンに押し潰されてしまう。


 だが、あと一歩のところで、ボクは間に合わない。


 くそっ……どうすれば⁉


「あっ、そうだ! こうなった、ごめんなさい、王様!」


 駆けながら、意識を集中。

 対象先はアバロンの下降していく先だ。


「ふう……いくぞ。【究極石壁エクス・ストーン・ウォール・極大】!」


 大地系の魔法を発動。


 スッ、ドーーーーーーーーーーーーーン! 


 ダラク城の中庭から、超巨大な石板が生えてくる。

 そのまま急降下くるアバロンに、石板をぶつける


 ドッ、ガァアアアアア!


 見事命中。

 物凄い衝撃音が、ダラク中に響き渡る。


 巨大な石板と、古代竜エンシェント・ドラゴンの巨体。

 二つの巨大な物体同士が、ぶつかり合ったのだ。


 ドッガァーーン、ガラガラ!


 巨大な石板は、粉々に砕けてしまう。

 城の被害は出てしまうが、人的被害は皆無。


 よかった。


「ん? アバロンは⁉」


 視線を移す。

 巨大な竜は、遠くに吹き飛ばれていた。


 ヒュウーーーン、ドガン!


 そのまま街の外の平原に、アバロンは落下。

 何とか城への被害を、最小限に止めることが出来たのだ。


「よし、今だ! はぁ、とうっ!」


 一気に城壁を蹴り出す。

 足元も吹き飛んでいくが、今は仕方がない。


 でも、お蔭で飛距離は、今まで最大距離をジャンプできた。


 ヒューーーン、ストン。


 街の外の平原まで、オレはひとっ飛びできた。

 街からはかなり離れている場所だ。


 目の前に広がるのは、広大な草原。


 そして起き上がる巨大な古代竜エンシェント・ドラゴンアバロンがいた。


「ふう、ここなら……」


 ボクは腰から剣を抜く。

 剣先をアバロに向ける。


「ここなら“少しくらい全力”を出しても、大丈夫そうですね、未熟なボクでも!」


 こうして “古代竜エンシェント・ドラゴン”アバロン討伐戦は、ラストターンの突入するのであった。

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