★dance dance!

 これもまだ付き合っていた時の頃の話だ。


 李仁によく名古屋のクラブに連れて行かれて。高校教師としていかがなものかと思ったが、

「見つかっても見回りって言えばいいのよ、結構高校生、中学生もいたりするから。ここだけの話よ」

 と言われ、高校から少し離れたところだがこの地域から通う生徒も少なくはないだろうし、この地域の生徒も剣道部の関係で学校名や知り合いの教師もいるため、そう言えるか、と。


 だが夜の街は慣れない。ほんの数回ほど見回りに行ったことはあったが地元にはこんなクラブもないから偵察みたいなものであったが。

 いつもいくクラブは多国籍、男女がひしめき合う。光がギラギラしていて常に音楽が鳴っている。タバコとアルコールの匂い、カウンターにダンス広場、よくもまぁこんなに人が集まるもんだ。

 李仁は顔が広いのかいろんな人とすれ違うたびに声かけたり、ハグしたり、中にはキスをしたり。僕がいるのにだよ?


 彼自身もバーテンダーだからお酒とか食事とか何が売れているのかも見ているらしいが、そんなことよりも憂さ晴らしにきてるような気がする。

 書店店員とバーテンダーの掛け持ち。どう見てもハードワークだろ。でも好きでやっているからと言うが、すぐお酒頼んで飲んでいつも以上にハイテンションの李仁を見ると、楽しそうだなぁと思う。

「ミナくんはノンアルにする?」

「うん、そうしとく」

 先月来た時、僕も仕事忙しくて発散したくて、それを李仁に話したら連れてきてもらったんだけど憂さ晴らしに飲んだらすっげー酔ってしまって、理性が効かなくなってクラブのトイレで思いっきり李仁エッチして、それを後から聞いてダメだよなぁって反省した。

「私は先行ってくるわー」

 ノンアルと、タバコ片手に壁にもたれかかって僕はダンス広場で踊り乱れる李仁を眺めていた。見知らぬ外国人の男性と体を密着させて踊る姿を見て、少し嫉妬もする。李仁はその男性にキスを求められていたが、僕の方を指差して何かを話すと男は去っていった。

 僕はたまらなくなってタバコを灰皿にすりつぶして李仁の元に向かって思いっきりキスをした。


「ミナくん、大胆……」

「じゃねぇと他の奴にとられるだろ」

「まさかお酒飲んだ?」

「飲まなくてもこうだよ」

「もぉ」

 音楽が変わりさらにヒートアップする。ここにくるとスイッチが切り替わる。教師であることも、高校生の娘の父親であることも。真面目で冷徹な人間と言われてようがここでは違う、何か違う自分なのだ。

 いろんな人たちと乱れあい、たまに叫びながら、笑いながら音楽に乗って全てを忘れた。そして帰りは李仁とラブホ行ってめちゃくちゃに抱かれ、朝帰りする。不良高校教師だなと。



 ◆◆◆

 と、9年前のこと……まだ30代前半だった。あの頃と同じように自分は壊れることはできたのだろうか。


 あのクラブは今度潰れるらしい。経営不振だとか。あの広かったダンス広場にも誰もいないのかと思うと悲しくなる。

 しかしその店のブログの写真を見たら意外と狭いもんだと驚いた。

「経営者の子もかわいそうよ、後2、3店舗もっててそこも売りに出して……実家に帰るそうよ、家族で」

「李仁のいたBARはテイクアウトやってるけど、大丈夫なのか」

「まぁ、なんとか大丈夫とか言ってたけど……心配よね」

 ソファーで晩酌をしていた僕ら。レコードをかけてゆったりと週末を過ごす。


 すると李仁は立ち上がってレコードを変えた。さっきまでゆったりとした曲調からダンスミュージックになる。懐かしい、よく流れていた音楽だ。

「たまには踊りましょう、あの時のように」

「2人でかよ」

「あの時のことを思い出して。たくさん人いたのにあなたはずっと私だけを見てリズムに乗って踊ってた。あんなに人がいたのに2人だけの世界だった、それと同じよ」

 僕は笑ってしまった。見透かされていた。確かに僕はあんなに人がいたのに李仁とのことしか考えていなかった。


「ああ、踊ろう……」

 僕らは踊った。お酒入ってたし、次第に体を密着させて手を取り合いキスをして、腰に手を回されて、雰囲気的に良すぎてソファーでそのまま愛し合った。


「これもダンスの延長よ」

 という李仁。リズムに合わせて動く僕ら。ああ、最高だぜ。

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