第19話~新しい風が吹くとき
「初めまして、航太朗の幼なじみの匠です、立花匠」
白いTシャツにジーンズというシンプルな服装で爽やかさを絵に描いたらそんな感じになるのだろうなと思った。
「すみません、初対面なのに引越しのお手伝いさせてしまって」
「いゃぁ、航太朗が女の子を家に入れるなんてびっくりしましたけど、なんか納得しました、鈍感で天然な所もあるけど、良い奴なんでよろしくお願いします」
航太朗くんが慌ててる姿を見るのも初めてだけど、ほんとに仲がいいのだろうと自分まで嬉しくなった。
「奏さん、じゃあ始めようか荷物はどのくらいあるのかな」
航太朗くんと立花さんは手に軍手をはめながら言った。
「お願いします、前の引越しでかなり捨てて来たので少ないとは思いますけど、2階の203号室です」
この半年位で色んなことがあったのだと思いながら昨日の夜にダンボールに荷物を詰めた。
実家にも報告しないといけないと
思ったので久しぶりに電話を掛けた、ルームシェアすると母さんに言う私をそのまま受け入れてくれた、「友達と一緒だから」とは言ったけど、妙な心配されたくなかったから一緒住むのが男性なのだとは言えずにいた。
電話を切る前に聞いた言葉は重く感じるものだった。
「いつでも帰って来なさい、こっちで良い人見つけたらいいじゃないの」
結婚寸前まできていた娘を気遣ってくれる母親に好きな人がいるとは言えず、もどかしさで眠れない夜だった。
若い男子2人が家具やダンボールを軽トラックいっぱいにするのに多くの時間はかからなかった。
私と立花さん二人で一度荷物を運ぶことになり、私は助手席に乗り込んだ。
「久しぶりだな、航太朗の家もあいつの部屋も、いつも一緒だったからな」
「仲が良かったんですね」
「………うん、一人は欠けちゃったけどね、和羽のことは聞いてるの?」
和羽って言う名前だったんだ……。
写真の中で笑っている姿を思い出した。
「写真立てに入ってるのは見たことあります、でも詳しくは聞いてなくて、航太朗くんが時々辛そうにしているのは知っています……月を眺めて」
「そうなんだ……和羽が死んでからの航太朗を見てるのが辛かったのは俺も同じ、俺もしばらく落ち込んだし」
幼なじみだった三人だったらきっとそうだろうなと思う。
「でもね、久しぶりに航太朗に会ったけど、ちゃんと笑えてる……きっと奏さんの存在があいつを変えてくれて来ていると思うんだ、これからも側にいてあげて欲しい」
私に和羽さんの変わりは出来ないし、これからだって恋人同士になれることだってわからない。
「航太朗ってさ、繊細な割に鈍感だからさめんどくさいんだよな」
家に着いてドアを開けながら立花さんは言った。
「なんか……分かる気がします」
二人で笑いあった。
とりあえず玄関入ってすぐの居間に荷物を運んだ。
ファティマはカーテンに隠れて見ていたらしいけど、私が声をかけると側に近づいてきて喉を鳴らした。
「うわ、この子が航太朗が言ってた猫?めちゃ可愛い」
立花さん……匠くんは興奮しながらファティマの頭を撫でた。
「なかなか美人の猫でしょ」
荷物を運び終えたあとに、2階の部屋を見たいと二人で上がった。
後ろから着いて来ていたファティマはいつもの事なのか、するりと先に入り本棚の上にあがり、私たち二人を眺めている
本棚以外は取り払われガランとしていて、開け放っている窓からは秋風が吹いている。
「いつもここでゲームしたり、本を読んだりしてたんだ、あれから何年経ったんだろう……」
遠くを見るような匠くんの横顔を見ていると切なさが込み上げて来た。
私がここにいていいのだろうか……
ファティマがにゃあと鳴くのを聞きながらそう思った。
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